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山椒の実

Category: Books

歌に私は泣くだらう―妻・河野裕子闘病の十年 (永田 和宏)

歌人にして生物学者の著者が妻の闘病生活を描く。和歌を織り交ぜながら。日経のコラムかなんかに本人が書いてたのが、この本を借りてみた動機。一家で歌人だったんですね。私も我が子がポエムっぽい独特の表現方法を持っていると感じることがあるが、仮に将来ポエムで生きていきたいという話になったら…まあそのときは家族会議だわな。私には測定できない種類の才能。

なんというか、どう死ぬのがいいのかな、と読みながら思ったことであった。自分としては家族よりも先に死ぬだろうとなんとなく思っているので、残される状況というのはあまりピンとこないという要素もあり、先に死ぬ前提でシミュレーションだよね。耐えられる苦痛であれば顔に出さずに耐えてみせようし、耐えられない苦痛であればさっさと死にたい。結局はそれだけだ。

スコット親子、日本を駆ける: 父と息子の自転車縦断4000キロ (チャールズ・R. スコット)

日本縦断にチャレンジした親子の話。父は米国人のインテルの法人営業、母は日本出身の国連勤務、長男は8歳…というエリート一家だったが、ある日冒険を思いつく。父子で自転車で日本を縦断しようと。まじですか。インテルでは無給休暇が年に2ヶ月まで認められているらしい。その2ヶ月を使った冒険。認められてるって言っても無給だからなー。あとリーマンショックの直後で、クビになる可能性もあったらしい。

前後に連結した自転車があるみたい。後ろに子供が乗り、気が向いたらこぐことができる。テントを含む重い荷物。過酷な戦いがはじまる。原題はRising Sonっていうね。まー息子の成長のためと言いつつ自分のためでもあるんだよな。息子に対する苛立ちも非常に分かる。

孤児列車(クリスティナ・ベイカー・クライン)

その昔、アメリカで孤児を集めて里親を探しに走った孤児列車というものがあったらしい。確かに慈善事業なんだけど、家畜の品評会のようなものを受けさせられる子供には残酷でもある。その歴史的事実を元に記された小説。売れて評判が良いらしいということから、恐らくハッピーエンドになってみんな救われるんだろうなと思って読むことにした。やはりバッドエンドで終わる後味の悪い小説は読みたくないもので。

その地獄から地獄へと向かう旅路。受け入れる里親は里親としての責務を果たさず、単に無償の労働力として扱い、孤児の人生をすり減らしていく。そして行き着く先で出会った救い。人生と人生の交錯。いろいろと考えさせられた。ヘビーではあるが割と安心して読めるところもいい。

2040年の新世界: 3Dプリンタの衝撃 (ホッド リプソン, メルバ カーマン)

3Dプリンタが今後どのように生活を変えていくのかを語った本。使い方ガイドとかそういう話ではなくて、こういう技術があってこう発展しているから将来はこういうことができるようになる、という感じの書き方。

中身を読んで、今後起きる革命について思いを馳せた私は、半分ほど読んだところで部屋を歩き回りながら物思いに沈み、そして安い3Dプリンタを発注するのだった。まあ発注したものは入荷が遅れたため、まだ来てないんだけどね。でも発注後はその日に備えて123D Designでモデリングの練習に明け暮れる日々。これがなかなか難しい。結局残り半分を読まずに図書館に返却した。3Dプリンタで遊んでああだこうだという話に関してはまた別の機会に語ることがあろう。その過程で少しはソフトウェアを書いたりすることもあるであろう。

真相 マイク・タイソン自伝 (マイク・タイソン)

あのマイク・タイソンの自伝。それはハチャメチャですね。すごい本だった。とにかくスゴイ。この本はみんな読むべき。人生のバイブル? にしてもいいくらいだった。私は図書館で借りたんだけど、これ買って繰り返し読んだほうがいい気がする。

臆病さを隠すために闘争心を植え付けられたボクシングの天才。師の死とともに糸の切れたタコのように制御不能な凄まじい人生を生きる。内面の成長が途中で止まってしまったまま手に入れた名声。稼いだカネを余すところなく搾取され続けて…ニーチェとか読みながらボクシングやってた十代の青年がですよ。

死にたくなったら電話して (李龍徳)

奇妙な若者が破滅に向かって進んで行く本。なんかスゴイね。スゴイすぎる。こういう小説もあるんだな、と思った。文章力の高さは感じさせる。セリフが多い。というかほとんどセリフだけしかない。しかし買った車はどうなったんだこれ。そのへんはあまり意味がわからなかった。そこここに俺には読めない何かがあるんだろうな。

いい読書をしたな、という感想も思うけど、もう一度読むかというと読まないだろうね。爽快感はないし、読後の人生に何かが残るかっていうと、何も残らない。ただいい読書をしたという感触だけが残っている。

東京スタジアムがあった (澤宮 優)

かつて南千住にあった東京スタジアム、そしてオリオンズ、オーナーの永田雅一の思い出を語った本。オリオンズは今の千葉ロッテマリーンズですね。映画人が私財を投じて下町に作った夢のスタジアムを舞台にしたあれやこれや。

最近の国立競技場の騒動とかを見ても、スタジアムという巨大建造物はロマンですからね。それをポケットマネーで作っちゃうなんて、マジで男の中の男ですな。それだけの人だからまあ、いろいろな話はある。ただパ・リーグがまともに人気を得たのはここ数年の出来事ですから、球場はたまにしか満員にはならなかったみたい。割とモダンな球場で、記述を見ると今あっても良い球場と評価を受けたかもしれないと思う。

しんがり 山一證券 最後の12人 (清武 英利)

巨人でコップの中の嵐を起こしてクビになった、あの清武さんが、山一證券の自主廃業と残務処理をした人たちを描いた本。さすがジャーナリスト、こういう本を書くこともできるんですね。

山一證券の廃業はまあ私にとっては歴史上の物語です。1997年に廃業ですから、まだ株式投資が私の身近に来るずっと前の話です。私はネットの時代になってから始めたクチですから。最初はDLJ Direct SFGだったかな。いったん足を洗ったあと、すぐに楽天証券になっちゃったけどね。楽天証券になってからはほとんど取引をしていなかった。口座残ってるのかな?? その後、最近になって現物株を再開して、あの証券会社とあの証券会社を併用する現在の体制に。

青函トンネルから英仏海峡トンネルへ―地質・気質・文化の壁をこえて (持田 豊)

国鉄で青函トンネルを掘り、英仏海峡トンネルのアドバイザーも務めたトンネルの第一人者、持田さんが書いたトンネルの本。あまりに淡々と技術的な話を次々に書いていくのだが、それだけでも迫力はあるね。読ませる文章ではないが、中身が純粋に事実の積み重ねだからね。真実は伝説を超える。

前半は就職以来ずっと関わっていた青函トンネルの話。オヤジがお手製で作った潜水艦を使って調査する話とか、水平ボーリングの話とか、いろいろある。技術的な要素が次から次へと語られていくのは爽快感も感じる。値段が3倍になるセメントの話なんかはとても実感がこもっていた。まあ語り口はあまりにも淡々としすぎていて主張という部分に欠けるんだけどね。正直な感想を言えば…「無茶したね」という感じ。

賭博者 (ドストエフスキー)

文豪・ドストエフスキーの異色作。本人の体験を元に、バクチに狂った人々を描く。書いた経緯がいいよね。バクチ旅行ですってしまい、出版社に泣きついて速攻で書いた(口述筆記)とのこと。さすが俺達のドストエフスキーだよ。そう来なくちゃね。

バクチの描写が良かった。バクチの場面だけは生き生きとしている。それ以外の場面はまあ、普通にドストエフスキーだな。周囲の人物の怪しさもいい。どの人物を取ってみても、まんべんなくあやしすぎる。最後まで何一つ明らかになってないし(笑)。大した伏線が張り巡らされているわけじゃないし、物語とかそんなこんなには意識を向けることなく、賭けまくる。そしてラストもいいよね。やっぱそうでなきゃドストエフスキーじゃないよ。さすがだぜドストエフスキー。俺達のドストエフスキー。