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山椒の実

蜜蜂 (マヤ・ルンデ)

3つの物語が進んでいく。こういうのは最後に出会って一つになるのが王道なのだが、これは時代的・地理的に難しくないか? と思って読み進む。それぞれの物語は絶望的で魅力的で、否応なしに引き込まれる。

どうなるのか。同じ、ミツバチというテーマがある。ミツバチの飼育、そして絶滅による文明の崩壊。受粉を司っていたミツバチがいなくなると農業が崩壊して食糧不足で文明が…という論ね。

物語の上で、中国だけは奴隷労働による人工授粉で乗り切っている。そして奴隷労働者の子供が遭遇した事件が…

いくさの底 (古処誠二)

ちょっと珍しい時代設定の推理小説。二次大戦中のビルマの村に、日本軍だ。チジマスターだ。戦闘シーンはあまり出てこないので安心だ。殺人事件は起きるから、死人は出るのだが。

かなり面白かった。まさか、そう来るとはねえ。謎解きも良いし、謎解き以上のものも良かった。次郎長と石松。有能すぎる人物も出てくる。

真実の檻 (下村敦史)

あーこれ「同姓同名」の著者ですね。なるほどそうだったのか。昨日よりも大きな檻。

冤罪をテーマに事件の真相を追っていく。その本丸は死刑囚の、実父。この著者で、このテーマは燃えるね。必然だ。案の定、序盤からズルズル、音を立てるように惹き込まれた。

のだけど、中盤以降の展開のスピードが…ちょっと描写が薄いまま物語が進行して行くので、そこは抵抗があった。詰め込みすぎじゃないだろうか。幾重にも折り重なる真実の多面性は鮮やかだが。

注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 (門井慶喜)

気楽に読める骨董美術品に関連する短編集。まあでもコレ、キャラ付けがちょっとウザいね。人間っぽさを感じない。美術品に関する謎解きだから、テーマは悪くないと思ったよ。

そして謎解きっつっても超能力で答えを知ることができるキャラがいるので、どうも格好がつかない。もうちょっと、どうにかならなかったんだろうか…

悪玉伝 (朝井まかて)

放蕩に住む大阪の商人の戦い。史実をベースにしているわけだが、出来が良くて、かなり楽しめた。放っておいた疑念は全て回収されていく。まあハラハラするよ。

後半はキツイ話になるね。壊すだけ壊して、誰もハッピーになってないしな?

…と思う吉宗であった。

コンビニ人間 (村田沙耶香)

序盤からかなり驚異的な変人? が主人公であることが明かされるのだが、要はコンビニより生まれ出でし、人間のような風貌の狂気的な女性(?)が、それでも生きる。…で、いいのかな??

まあでも、実際に、いそうだよね。こんなやつ。いわゆるなんだ、なんとかっていうタイプの人ね。正しそうに見えるはず、と計算してからじゃないと擬態動作できない。最近生まれた知性と言えるAIだって、多かれ少なかれ、そうだろうよ。誰しも心の中にスコップを持っているんだ。それにしては自分に対して素直なところがあるのが厄介という。

辞書になった男 ケンボー先生と山田先生 (佐々木健一)

新明解国語辞典と三省堂国語辞典。両巨頭はかつて同じ辞書を作った仲の同僚だった。二人の男が袂を分かつ時、奇跡は起きる。お前が辞書になるんだよ!?

NHKの番組を本にしたシリーズ。毎度のNHKっぽさがあるが、まあ読みやすいし取材もNHKらしくやってるから、そんなに嫌いじゃないですね。お金と人が潤沢だからなあ。

しかし数々の辞書の著者というか編者、監修者として有名な金田一さんが名前貸ししてただけなんて、ちょっとしたショックですよね。良くない商習慣だと思う。欺瞞だ。もっとこう、顧客を騙す行為に慎重にならなければ。私も金田一京助と春彦はとんでもない偉大な(イカレ)辞書マニアの学者親子だと思っていたんだ。その実態がこれか。このザマか。

蹴りたい背中 (綿矢りさ)

この本のためにkick backを作曲したやつは誰だ。

しかしまあこのタイトルは、部屋の中で一人シャドーキックボクシングしたくなる、その欲望が抑えきれないよね。キックキック、左右に上下に打ち分けて! 続けて! 休まないよ!!

しかしタイトルとか紹介文は知ってたけど、こういう話だったとは。なかなかな感じだった。つまり感想としては…こいつ「蜷川」の字くらいは書けたほうがいいね。もう高校生なんだから。自覚を持って!

いつかパラソルの下で (森絵都)

相川のヤスというローカルヒーローが撒き散らした騒動? エキセントリックとも言える厳格な父親が死んでから起きたあれこれ。なかなか良い物語だった。最終的には、イカイカ祭りに持ってイカれた。

あれだね、構図としては私が語りはじめた彼はに近い。あの本もかなりの良作だったなあ。ドキュメント寄りなら、ネット右翼になった父か。

本書の方は、兄弟の距離感が良い。親の人生なんて、よく分からないんだよね。死者ならなおさらだ。

出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 (宮崎伸治)

英語の本を日本語に翻訳する翻訳家が遭遇したトラブルの数々。ベストセラーも持っているし、多くの本の翻訳、著書も多い。主にビジネス書の系統かな。優秀な方だったんでしょうね。

そして翻訳業から足を洗うに至った経緯が描かれている。厳しいもんだね。単独で本人訴訟やった話はかなり凄かった。これでは精神が削られるのも道理だ。終盤はどうにも壊れていく過程がよく分かる。これは書いてて辛かったかもしれないね。まるで魔境だ。