Skip to main content

山椒の実

Category: Biography

バッタを倒しにアフリカへ (前野ウルド浩太郎)

カラスキリンの次はバッタだ。この本はバッタ研究に取り憑かれ、サバクトビバッタを求めてモーリタニアで奮闘した研究者の記録。タカ・トラに続いて人類を魅了するその生態。研究を深めて人類を救わんとする若者の前途はいかに。学者を目指したことのある人や、学者の世界を垣間見たことがある人なら、この本は非常に楽しめると思う。そうでない人が読んでも、たぶん楽しいと思う。それだけの情熱がある。たぶんね。

この本で知った知識はそれほど多くはなく、冒険物語としての側面が強いのだが、みなさんバッタとイナゴの違いを知ってますか? 実は日本でバッタと呼ばれている種の多く群生相がないのでイナゴという分類らしい。相変異により集団バーサーカーになるのがバッタであって、そうならないのはイナゴ。学術的にはそうなんですね。へー。

ポスドクの苦しさや、自然を相手にする難しさが伝わってくる。そしてその情熱も。とてもいい本だった。ポスドクとかその辺の、知的レベルが異常に高いのに経済圏では不遇、という状況で書き綴られる文章の時点で、もともとクオリティに優れているんだよね。この本の著者のように冒険に飛び込んでいったんなら、なおさらだよね。まさに瑞玉。

三流シェフ (三國清三)

エース級…というかエースそのものの、フランス料理の料理人の自伝。偶然と必然に導かれてその道を歩む。増毛出身か。留萌本線の終着駅だが、最近縮まってもう電車通ってないらしい。そこの貧しい漁師の子だった。なかにし礼と同郷(世代は少しズレている)という奇妙な?縁。ニシンが来なくなって廃れた町か。

米屋の住み込み配達を振り出しに、持ち前の性格と技術で頂点を目指して修行を重ね、たどり着いた料理の真髄が語られる。面白かった。破天荒というわけでもなく、無知からの必死からの…

サリンとおはぎ (さかはらあつし)

異端の映画人の自伝。人の人生はそれぞれ違うといえど、ここまで通常から外れていると何の参考にもならない。ただ、面白い内容ではあった。なんかすごい人が歩んだ、その道なき道。切り開いて、続く人のない、唯一の道のり。学習障害を乗り越えてスキルを磨き、人脈と華麗な学歴と職歴を作ったものの。

サバイバーであるがゆえに、そこと関係ない物語が書けないという悩みは深いし、この人の場合は複数の事件や事故や事案のサバイバーで、後遺症もありさらに複雑で。普通はここまでの経験があるとなかなかポジティブになれないだろうな。そういう凄さもある。

キリン解剖記 (郡司芽久)

キリンの研究者の自伝。キリンの解剖を繰り返し、技術と知見を高めて首の構造の謎を解明する。胸の骨が動いて首の機能を果たし、可動域を高めるらしい。頭から見ると50cmも違うらしい。自身の成長と謎の解明。なかなか楽しい話だった。

自分からすると、学部1年からこんな学生であるというのがすでに凄い。研究者になるべくしてなった、研究するべくしてした、という感じ。前触れもなく生まれ落ちた野生の研究者、みたいな。少ない確率だが、こういうことが起きるのが人類なのだ。天職、というものは、ある。そして、さまざまな謎は少しずつ解明されていくのだ。

仕事休んでうつ地獄に行ってきた (丸岡いずみ)

ハイパフォーマーの強者が鬱を患った、そして夫への惚気を交えた記録。文章の勢いがいい。ここまで勢いのいいやつでもなるんだな、鬱って。なるほど、そういうものなのか。トム・ハンクスの小説のMダッシュシリーズに出てきた女友達がそうなったようなものか。

かく言う自分も、精神的な不安定さはあるんですが、とりたてて不安定でなくても、なるもんなんですねえ。人体の不思議よ。まるで宇宙だ。

それを薬で軽減することができる、というのも割とすごい話ではあるよね。人類、どこまで行ってしまうのか? 置いてかないで〜

さかなクンの一魚一会 (さかなクン)

昨年、館山に行ったときにさかなクンの展示があったんです。無料だったので入って鑑賞させてもらいまして、なかなか楽しかった。いいモノを見せていただいたと。それでこの本を読むことにした。館山在住なんですね。いいところだ。

しかし魚屋とか寿司屋、水族館とか魚に関する職業も一通り試して向いてなかったなんて、意外だったな。魚に関してはスーパー高校生だったのに、魚のことにしか興味を持たず勉強してなかったから魚系の大学も行けなかったなんていう話も。

破獄 (吉村昭)

昭和の脱獄王の伝記。昭和を彩るダークヒーロー? すごい話だった。淡々とした記述の連なりに我々の心は釘付けに。佐久間(仮名)ぁー

身体能力、北国の山野におけるサバイバル、心理戦、意志の硬さ。あっさり自首する正直さも。色々と人より優れているものがあって、それが脱獄という一点に向かうところに哀しさと楽しさが。

現代の脱獄ロマンと言えばカルロス・ゴーンだが、あれもすごかったよね。異国で一度は救世主になり、その後に理不尽を受けてからの空からの大脱出。かっこえー。生きるなら、ああいう人生がいいな。

マーガレット王女とわたし (アン・グレンコナー)

英国上級貴族の娘で、子供の頃からの王女の友人で、女王の妹であるその王女の女官として仕えた人物が語る、その半生。第二次世界大戦時に少女で、エリザベス女王の戴冠式で裾持ちをした時の話とか、エピソードもまあ、上の方の貴族そのもの。陶器の行商をしてた話は良かったな。紅茶ばっかり飲んでたんだろうな、どうせ。

あとは破天荒な大人子供みたいな夫との生活。生活? って感じではないが、妙にウマがあったんでしょうね。楽しそうな記述だ。充実感がすごい。王女が夫との不和に悩んでいるのを見て若い男の貴族をあてがったりと、気の利く女官としての振る舞いが…

「かっこいい」の鍛え方 (里村明衣子)

センダイガールズプロレスリング社長のレスラーが、これまでの歩みをつづった本。勢いがあって良かった。夢を追い、現実で戦った、激動の人生。失敗と気づき、そして成長。爽やかな振り返り。輝ける主人公は、こういう人間でないと。

成長の過程で傷つけてダメにした相手もいたんだろうけど、こうやって実績を積んで経験を還元できるのはいいことだよね。

山本昌という生き方 (山本昌)

中日の大エース、山本昌が現役終盤に出した自伝。この本を出して間もなく引退、というタイミングですね。50歳でプロ野球選手、しかも投手だからな。現役生活32年を中日ドラゴンズに捧げた。すげー。

というわけで、いろいろ書いてあって面白かった。こういう選手の話は、穏やかな気持ちで読めるよね。利き腕の左肘の可動域(が非常に狭い)の話も素直にすごいなと。成功者というのは、誰しも人に感謝して人生を過ごすのだな。