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山椒の実

Category: Books

10年後、生き残る理系の条件 (竹内健)

東芝のフラッシュの立役者で現在は中大教授の竹内さんの書籍。この界隈では有名な方ですよね。私も前職で少しはまぁ…。内容はタイトルの通り、技術者がこの先生きのこるには、という話。書籍の種類としては自己啓発本なので、普通なら私が読むような種類の本ではない。心にはあまり響かなかったけど割と面白く読めるという、珍しい本ですね。

ただやはり技術者で研究者で教育者なので、自信のないところは分かるように「ではないでしょうか」「かもしれません」みたいな語尾になるんだよねー。そこは感じられる。ほとんどの文章が経験に基づいていて、伝聞に基づいている部分は少ない。良心。正常性バイアスみたいな話は実際にあるからなぁ。

神様のリング (林 壮一)

亀田昭雄とアーロン・プライアー、2人のボクサーの人生と再会を描く。すごく良い本だった。亀田昭雄は身体的にも恵まれた天才ボクサーだったが努力せず、マッチメークがクソだったこともあってやる気を失っていく。弱い奴には適当にやっても勝ててしまうし、弱い奴としか対戦できないからどんどん努力しなくなって泥沼にはまっていくパターン。天才ゆえに練習しなくても勝ってしまうんだ。そして世界ランキング1位、指名挑戦者として初めて挑んだチャンピオンが稀代のボクサー、歴代パウンド・フォー・パウンドの上位として議論されることになるアーロン・プライアーだった。両者、情報がなかったり準備期間が乏しい中で対戦し、相手の意外な強さに驚き、驚きつつ拳を交えて。

困難な選択 上 (ヒラリー・クリントン)

活動家、弁護士、知事夫人、大統領夫人(ファーストレディ)、上院議員、国務長官(日本でいう外務大臣)、そして今度はもうじき大統領になろうかというあの人の、国務長官時代のことについて述べた本。民主党の予備選でオバマ現大統領に負けて、国務長官への就任を依頼されそれを受諾してからの激闘の日々…なんだけど。

はっきり言うとつまらない本だった。この人にどの程度の意識があってこの本を書いたのか疑ってしまう。経歴からすると「ガリア戦記」を書いたカエサルと比較されるような立場ですよこの著者。真面目にやれよ。いや、真面目にやりすぎなんだよ。眠くなるよ。

外道クライマー (宮城公博)

沢ヤの生態を描く。ワイルドですね。山男のうちで沢登りに魅せられた人種というのは普通とは違った奴らという話。普通は山を目指すところ、沢を目指すわけだ。何度も死にそうになりながら、時にはダラダラしつつ遡行を続ける。そのロマンは伝わってきました。単純に言えば、面白かった。こないだ那智の滝を登って逮捕されて大いに話題になったのもこいつら。やるなぁ(尊敬の念)。

私はアウトドア派ではないこともあって、ゴルジュという単語は初めて聞いた。そこに唐突にストロングスタイルという聞き慣れた言葉が合わさったりする。

つかこうへい正伝 (長谷川 康夫)

つかこうへいの評伝。つかこうへいの劇団員でライターで今も芝居に関わる仕事をしている著者が丹念に描く。結構長い本でした。

死んでたんですね、つかこうへい。私は芝居やら映像やらは見てないんですが、小説は読んでました。中学時代かな。その頃すでに代表作がいくつもあったと記憶している。そんなんで、私には小説家という印象しかないんです。何かの小説で早稲田のラグビー部と試合をすることになった主人公がボロボロになりつつ「オラァ、慶應よ」と啖呵を切るセリフが印象に残っている。あの頃は自分が慶應に行くのかと思ってましたが、自宅から遠いやら何やらで結局、早稲田に行くことに…。そんな私ももう40のオッサンですから、そりゃつかこうへいも死にますよ。

ヒキコモリ漂流記 (山田ルイ53世)

あのルネサーンスの人が波乱に満ちた半生を綴る。相方の樋口との出会いのあたりから先は随分あっさり書いてる。

その生い立ちは凄まじい。朝顔の話とか、ランドセルの話とかはとにかく凄い。まあでも「盛ってる」感もあるんだけどね。自己分析は割と正当なものかもしれないな。少なくとも間違っているという気はしなかった。頭は良かったんだろう。何が彼をそうさせたのか。慢心、環境の違い…

万引き老人 (伊東ゆう)

いわゆる「万引きGメン」のベテランである著者が、老人による万引きの実態について記す。救いのないエピソードも多い。というかほとんど、どのページにも救いなんてない。たまにあることはあるんだけどね。

最後の方の、人生にどうしようもなくなって妻の墓前で自殺することを決めた(という遺書を隠し持っていたことが後で分かる)老人が、手ぶらで墓参りに行けないからとスーパーで花や線香を万引きして、著者に捕まる。そして著者がちょっと目を離したすきに服毒自殺してしまう…という話なんかは、究極の救いのない話。死に場所と決めた亡き妻の墓…そこにすらたどり着けてないんだもん。最後の最後で泥棒になって…名誉なき死…安らかさとは無縁。絶望しかないよ。

ありえないデザイン (梅原 真)

デザイナーとして高知の田舎で活躍した人の本。沈下橋が美しい四万十川のあたりを拠点に活躍する。自慢するだけあって良い仕事してますね。そういうデザインもありますよね。私は田舎で育ったこともあるし都会で育ったこともあって、ことさら田舎が良いものとは思わないんだけど、それでも主張してデザインを使って問題を解決していくそのパワーの強さが文中から読み取れる。

さらっと読むと工夫して地方創生がんばってます、みたいな話だけで終わるところだけど、それだけじゃないよね。まあ楽しい本だったよ。

インテル 世界で最も重要な会社の産業史 (マイケル マローン)

インテルの歴史本。3人(2人+1人)の創業者の系譜をたどる。ショックレー、フェアチャイルドから始まって今に至るまで。

まずこの本は文章量が多い。内容量と比べると文章量が多すぎて、技術者が読むとストレスを感じると思う。たぶん一度に書かれたんじゃなくて、長期連載か別媒体で書かれたものをまとめた、みたいな本なのかもしれないな。何度も同じ話を蒸し返すし、名前の表記も一定していない。時系列も頻繁に前後するし。名前の表記については、グローブの生い立ちからの話で名前が変わるのはわかるんだけど、それ以外のところね。

Unix考古学 Truth of the Legend (藤田 昭人)

例の本。Unixの歴史と対立による停滞と…をなぞっていく。

読む人によってポイントが違うんだろうけど、mbufが出てきたところでぐっとこう、懐かしさがね。あったねmbuf。Linuxだとskbuffか。私はそのへんの世界はFreeBSDから入ったクチだけど、今はもうLinuxとMac以外に触ることは珍しい。もう基本ユーザランドだしね。Windowsにはほとんど触らないで生きてけるんだ。

以前に読んだPaul Allenの自伝を思い出したりもした。あとUSENIX FASTでKirk McKusickの受賞演説を聞いたことあるんだぜおれ、ということも思い出したり。いろいろあったんだな。