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山椒の実

Category: Books

赤ちゃんの値段 (高倉 正樹)

割と凄い話。日本の子供が海外に売られていくという話なんでね。

問題はいろいろあるけど、一番大きいのは日本では養子という制度があまり発達していない。そのため施設が預かった子供は9割方独立するまで施設で過ごすことになる。それよりは養子で家庭に入ったほうが幸せに人生を送れるんじゃないかというところ。そのへん発達している国は普通に養子に出したり受け入れたりする。ジョブズとかも養子なわけだしね。

そんな中でわざわざ海外から子供を取り寄せるというのはどうなのか。自分の子供として育てるからには返せと言われたくないし、生みの親とのつながりを持っていてほしくないという気持ちはわかるし、海外からもらってくればそういうトラブルが起きる可能性が少なかろうというのは、まああるかな。ただこれって完全に養父母側の視点でしかなく、子供視点で考えれば長じて実父母を探したいとなったときに海外よりは国内のほうがいいんじゃないかな。日本なんて基本言葉通じないし。それに割と裕福な日本から海外に貰われていくというのはやっぱり違和感があるよね。これも結局は貰い手がいないのが一番の問題。

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 (井川 意高)

あの100億スッて伝説になった不死身のギャンブラー、大王製紙の会長が書いた懺悔録(?)。懺悔録とは言ってもあんまり反省してない。正直そんなに悪いことしたわけじゃないと本人も思ってるだろうし、実際私も金持ちがギャンブルでスるというのは特段悪いこととは言えないと思うよ。

まあ100億という金額はスッた額で、自身が過半の株式を持つ子会社の余剰資金を借りたカネの総額は85億とかそのくらい。明るみに出た時点での残債は55億くらいだったらしいが。で、100億で何をしたかって、マカオに毎週末もうでてバカラに明け暮れていただけ、というね。ホント、他愛もない。摘発されたってゆうけど、それ悪事なの? っていうね。

心理試験 (江戸川乱歩)

明智小五郎シリーズの第2作。割と良く出来ていると思ったが、ラストが急で、デウス・エクス・明智みたいな感じの印象になってしまうのが難点。

しかしこの事件、これで解決でいいのかな。中世を生きる現代日本司法の自白偏重の先駆けとなった作品と言えてしまうのでは? という懸念も。

やっぱ少年探偵団シリーズのほうがいいなと思ったよ。

D坂の殺人事件 (江戸川乱歩)

明智小五郎の初登場作品。なかなか凝った作りになっている。楽しめた。

この頃の明智小五郎はまだ変装もしないし武闘派でもない、ただの書生。書生ってどういう立場なんだろうな。学生? それとも今で言うニート?? 語り手も同じ立場のようで、喫茶店で時間をつぶすカネくらいは持っていたみたいだが。

少年探偵とか出てこない、純粋に大人向けの話。SMとか出てくるもんね。ラストもそれほど鮮やかではなく、小林くんが刑事だったりして(小林少年の父親かなんかかな?)。

沈黙のフライバイ (野尻 抱介)

最近流行りのリアル宇宙SF。うーむ、いい話だなぁ。同作者の「太陽の簒奪者」が凄く良かったから読んだんだけど、この本も読んでよかった。短編集なので大団円があるわけではなく、それぞれに日常が過ぎていくという趣なのだが、それでもまとまりもあって。

にしても、軌道エレベータはやくできるといいねぇ。いろいろと夢のある話だったり、夢のない話だったり、短編それぞれあるけれども、根底にあるのは宇宙と科学。そのへんは本当にSFの真骨頂と言える。科学をベースにフィクションを加えて物語を語る。

太陽の簒奪者 (野尻 抱介)

ファーストコンタクトもののSFですね。割とハードなやつという感じ。非常によく書けてるということが伝わってくる。このリアル。

途中までは凄く良かった。まあこれコンタクトしたところで「うーん」となるんじゃないかというね。まあそうだよなぁ。実際コンタクトするまではかなりリアルに書けても、コンタクトしたところはリアルに書けないよね。

私としてはかなり好きな部類。この作者の本はもうちょっと他にも読んでみたいところ。

少年探偵団 (江戸川乱歩)

またも青空文庫で少年向け古典小説。

しかしまあ、子供向けとはわかっていてもグイグイ引き込まれるストーリーテリング、そのテクニック。凄い。今でも色褪せない。永遠とはこういうことを言うための表現なのかもしれないね。

まあ言葉狩りが進んで最近だと許されない表現もチラホラ。それも含めての古典、だよねー。まさかまさかで最後の爆発オチも今後に期待を持たせてくれて熱く、良い。やっぱ江戸川乱歩は凄かったんだな。

サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった (中村 慎太郎)

作家志望の中途半端な青年がFC東京というどうでも良いJリーグクラブのサポになるまでを描いた本。文章はあまり上手くないけど、伝わってはくる。まあ私は現場を知ってるから言いたいことは分かるというね。ただ知らない人にこれが伝わるのかどうか、それはわからないな。東大の大学院まで出た文筆家にはFC東京はちょうどいいクラブだと思うよ。近いし、適度に強く、そして強すぎない。俺たちと同じ、マゾ体質? まあ、クラブ選びは成功してると思った。

日本航空一期生 (中丸 美繪)

JALの元スッチーにして伝記作家(?)が描いた、日本航空の初代社長の一代記。…で、いいんだよねこれ?

最初のほうは初代のエアガールへのインタビューとかをもとにいろいろ書いていて、なるほどこういうのが続いて現代まで行くのかな、と思っていたら途中から松尾という初代社長が主人公になって、松尾が死んで本が終わったという…ちょっとあっけに取られてしまったのはボーッと読んでいたからかもしれない。

現代語古事記 決定版 (竹田 恒泰)

大和の成り立ちが書いてあるという古事記。神話の解説をしつつ、(当時の)現代の天皇の御世に至るまでを記す。まあ悪いけどロクでもない記述なんだろうな、という印象を持っていたけど、思った通りだった。「史記」や「ガリア戦記」を思うと、この書物の価値は低いと思う。

なんでかというと、単に神々と天皇家の婚姻や内輪喧嘩の記録で、名前が大量に出てくるけど実際名前を記録するだけのための記述にとどまっている。事蹟が記述されるケースが少ないのだ。倭建命の冒険とかは割と書いてある。まあただ、歌がたくさん出てくるので歌集のように使うことはできると思う。ひどいのは誰と結婚して誰を生んだ、そんで死んだ、みたいなだけの記述だったり。何をしたか、どんな人物であるかが大切な現代のような時代とは異なる価値観を持つ時代だったということなんだろう。誰と結婚して誰を産んだか、が重要視される世界。いやだねー。