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山椒の実

内乱記 (ユリウス・カエサル)

名著「ガリア戦記」の続編。まあオマケみたいな扱いだが、ガリア戦記の素晴らしさと比べるとだいぶ落ちる。翻訳も「新訳 ガリア戦記」と比べると良くなかった。

なぜ落ちるかというと、内乱だけに激戦が少なく簡単に投降してきたり裏切りが多く、爽やかさが全くない。あと敵対勢力のほころびを大きく言い過ぎていて、有り体に言えばバカにしすぎていて、ガリア戦記で見せた冷静な目がなくなっている。ガリア戦記を読んだ後はこれ、後世の書物はいらないんじゃないかとさえ思えたけど、内乱記を読んだら、もうちょっとうまく書いた本がないとダメだよな、と思えてくる。カエサルも筆力が衰えたんだな。いろいろ都合もあるんだろうけどね。

教誨師 (堀川惠子)

浄土真宗の僧侶、渡邉さんの半生を描いた伝記。彼は広島で被曝、長じて東京で僧侶となってから長期間、死刑囚の教誨師として過ごした。途中アル中になったりして。

救いとは何か? という話ですよね。結局そこ。そこに、死刑囚であるが故に、という話がからむ。まあ、読んでみるといいですよ。

新訳 ガリア戦記 (ユリウス・カエサル)

あのカエサル本人が書いたベストセラー。ローマの英雄ね。淡々と平易な文章でガリア戦争の経緯を書いている。勝ち戦も負け戦も、感情や自慢をなるべく交えずに1段上から書いており、非常に良い。わかりにくいのは人名くらいで、臨場感があって読みやすいのもいい。カエサルがこんな本書いてたなんて。これからはシーザーサラダももっと味わって食おう。

司馬遷の「史記」もそうだけど、現代の小説や歴史書と読み比べても、読み物として優れており、俺達は一体2000年以上も何をやってたんだと思わなくもない。紀元前にこれをすでにやってたわけだ。ほんと、進歩してないよね。

ミレニアム(永井するみ)

2000年問題で大変だった当時のソフトウェア業界を舞台にした推理小説。

2000年になった日、私はまだ学生だった(2000年の4月に社会人になった)ので大した仕事はしてませんでしたが、バイト先で2000年問題対応のBIOS入れ替えとかの作業をして回った記憶があります。当時の社会人に聞くと「ありゃ大変だったよね」という話を聞きますが。

この小説もまあ当時の技術の話も出てきて、それなりにリアリティがあったんじゃないでしょうか。インドラツールがどうとか、あのへんは怪しさ全開でしたけどね。あれ系の人手でやってる知的作業を自動でやっちゃいます的なものは定期的に出ては消えていきますよね。まあ当時から比べて、ある程度は良くなってますけど、今でもコードは人が書いたり修正してます。論理の部分は現在でもマシンではうまく回らない。いつまで続くのやら…

カワサキ・キッド(東山紀之)

カワサキ・ディープサウスの話で、少年隊・東山紀之の自伝。「○○ったらない」のような表現を多用して、素直に感動したことを書き連ねる形。けっこうドラマチックな半生だったのね。個々の話が読みやすいし、けっこう面白かった。

彼がディープサウス民とは知りませんでした。しかも桜本のコリアタウンなんてまさにスラム街の中のスラム街。そのへんに死体が転がっているのが日常というイメージ。まあ東京者からすると川崎市自体が全部、足立区並のスラム街なんですが、川崎の中でも南部はその中心、公害もひどくてまあ、言っちゃ悪いがまともな人の住む場所ではない。さらにディープサウスともなると訪れるだけでかなりの勇気を要する。武装したボディガードを雇わずに行く気にはなれないような、ね。ニンジャスレイヤーでも「タマ・リバーを渡るとき、全ての希望を捨てよ」というアレ。絶望の橋ですよ絶望の橋。実際はそこまでひどくはないはずなんだけど、近場だけどちょっと気軽に行ける場所ではないですよね。

青天の霹靂(劇団ひとり)

本当に意外な良い出来の小説で、普通に面白い。映画化もされてたそうです。

前の「陰日向に咲く」もだいぶ以前に読んだけど、悪くなかったなぁ…冴えない男が人の思いというものを知っていき、最後はちゃんと辻褄も合って、スッキリした読後感を誘う。なんていうか、安心して読めますよね。文章自体も読みやすい。

私も子供を持つ身になってみると親のありが云々…というテンプレート的な話は置いておくと、子供の価値というのは「成長すること」と「必死になれること」だと思います。観察してると、生まれたときからあらゆることに必死ですからね。息するだけのことでも、精一杯、一生懸命やってるの。成長していくと歩くのも走るのも泣くのも遊ぶのも、必死になってやる。そういう気持ちがいつまで続いてくれるのかな、と思っているし、親としてはちょっと付き合いきれんなと思うこともある(笑)。

漂流者(マック鈴木)

マック鈴木の自叙伝。言ってみればそれだけの本なのだが、いろいろな経験を積んだ人らしく、なかなか読ませるものがある。今は淡路島でジムをやったり、野球に関わるアクティビティに関わって暮らしているらしい。

なんとなく、高校野球である程度は活躍してたのかなぁと思っていたけど、強豪校(ぐぐると滝川二らしい)で注目はされてたけど、1年で問題を起こしまくって中退してたんですね。で、アメリカに追い出されて野球チームの雑用係をやっていたと。そこからメジャーリーグにのし上がるんだから、まあ大したもんではあります。ただ怪我の影響があって投球の出来は常に不本意ではあったようだ。

未必のマクベス(早瀬耕)

東アジアで企業の犯罪のその他いろいろの小説。無理やりマクベス?

そうです、シェイクスピアのマクベスをベースにして無理に似たような展開に持ち込んでいく。この無理矢理感をしっくり来る言葉で書くと「未必」ということなのか…文章が良いのですらすら読んでいるうちに朝の4時半になってしまった、そんな感じ。翌日は仕事中にあくびが止まりませんでした。どうしてくれる。

まあ話の展開としてはいろいろと唐突感もある。ここまで普通にやってたのに、なんでこうことするの、という類のね。それもこれもマクベスに引っ張られてのこと。登場人物の人数が若干多めだったので採点はなし。

オズの魔法使い(ライマン・フランク・ボーム)

題名は非常に有名だが読んだことのなかった名作。しかしオズがあんな体たらくとはね。がっかりだ。作者はなんでこいつをタイトルにしたんだろう。

オズの魔法使い

登場人物採点ひとこと
オズ4.0あまりにも無力! 使えない奴。しかも逃亡!?
ドロシー5.0魔女を倒したのは幸運にすぎないが、幸運を呼び寄せた
トト5.0しゃべれないというハンデを克服できなかった
かかし(MoM)6.5無敵! あまりにも無敵!
ブリキ5.5木こりとしては標準的な活躍
ライオン6.0ほんとにほんとにほんとにほんとにライオンだー
ネズミ女王5.5けっこう活躍したよね。印象には残らないけど
飛行サル5.5飛行する…サル! ちょと何を言ってるのか分からない
魔法使い東5.0登場時にはすでに事故で死亡…哀れな
魔法使い北6.5魔力で言えばこいつが最強…だがオズの真相を見抜けず
魔法使い西4.5一度は主人公に勝利するも水に弱い…パンでできてるの?
魔法使い南6.0こいつが主人公でも良かったんじゃないの?
カンザス人4.5活躍の場を見せられず

思うに(オズは置いといて)魔女の魔力で比較すると北南の良い魔女は西東の悪い魔女を圧倒している。特に北の魔女の魔力は卓越していて、おでこへのキスだけで悪い魔女に手出しできない手下を作れるわけだ。ここまでの戦力差があるのに、しかし西東を滅ぼさずにおいたということは何かを暗示しているのでは? そしてその均衡を部外者のドロシーが偶然にも崩してしまい、世界の平和が乱されたという構造だ。北の魔女がドロシーに味方しつつも靴の使い方すら教えないというのは、部外者に対する親切心と敵対心の葛藤が見られる。

オルファクトグラム(井上夢人)

異常臭覚を手にした男が姉を殺した犯人を追う話。セリフが与えられなかったミッキーがかわいそう…まあそこはいいとして、この犬に勝てる異常臭覚ですよ。凄い話だね。しかもこれ実話なんだってね!(←嘘です)

それはそうと、これはかなり良い読書体験だった。設定ですでに勝っている上に、ストーリーや描写も設定負けしていない。