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山椒の実

Category: Books

ノーライフキング (いとう せいこう)

ノーキング、ノーライフ!

カタカナは濁点も一文字分の幅を使いますよね。電話もNTTの有線のダイヤル式、という道具立ては古臭いものがあるが、果たして中身はどうか。子供も大人も、噂が命。小学生のコミュニケーションと大人のコミュニケーションの戦いだ。

結局はファミコン時代の8bitグラフィックで作られたストーリーをリアルの3Dレンダリングに適用して箱庭世界からオープンワールドの移行が…みたいな? いや今のハードでも現実のレンダリング精度や物理演算の正確さ、オブジェクト密度はまだ極まってないからね。どんだけ演算性能高いの現実ってば。

インターネット文明 (村井純)

古代インターネット文明では、男も女も暇さえあれば早朝から深夜までレスバに明け暮れていた。この本は、そのような文明史について記述している。まったく最近の若いもんはネチケットも知らんでのおw

なんていうわけではなく、インターネットあれこれを書いている。昔話から最近の話まで。インターネットもできてからもう50年も経つんですね。そのうちウェブが30年。数字に衝撃を受ける。私がインターネットに初めて接触したのは…と語りたくなる数字だ。

熱き血の誇り (逢坂剛)

唐突かつスムーズな主人公スイッチ。ビヨンセに似た名前の歌手。時代とスペインと静岡をまたぐ冒険活劇。謎の地下帝国の吸血儀式。スペインの解像度と北朝鮮の解像度の違いはちょっと極端すぎないか。そういう、ワケのわからなさはあったと思いますね。

あと、ひねりすぎて主人公が忙しくなりすぎた感はある。こんな大変な時にあんた何やってんの、というね。タスクがあふれていて、ちょっとかわいそうになった。メンバー増員してやれよと。

仕事のためには生きてない (安藤祐介)

ブルシットな謎コンプライアンスの仕事をするロックンローラーの物語。サラリーマンからの共感を得やすい属性の人物を適当に撒き散らしてストーリーを進めてるんじゃないかという疑惑もありますね。私にとってはど真ん中になっていても不思議はない。

こういう小説は、なんかうまくまとめるんだよな。不気味さの残らない、後味のない物語だった。たまには読んでもいいかなー。しかしこういうのばっかり読んでたら、耐えられなくなるかもしれないな。なんで?

あさとほ (新名智)

物語の可能性は無限なんだよ。その恐ろしさを教えてやるよ。小説家がそれを語った、そんな感じの物語。

この本では物語とアイテム特性で振り切っているが、共同幻想めいた話はネットにはそこら中に転がっている、実はこれ、実にリアルな話なんだ。嘘も100回言えば本当になる。フェイクニュースだ。何度も言えば嘘になる。それが現実だ。わかったか?

このようなリアリティに不思議な恐ろしさがある話で、出てくる古典の源氏物語の亜種も、それ自体の変遷も、引っくるめて楽しむのがいいんだろうな。死んだ同級生が最後まで死んでたのが残念な感じもした。死ぬ必要あったか? それも物語の構成に影響を与える要素に過ぎないのか。しかし女子大学院生キャラって、流行ってんのかな。前も見たぞ? 今は世間に共感を得られる属性なんだろうか。

西の魔女が死んだ (梨木香歩)

次回、西の魔女、死す! デュエルスタンバイ!?

それにしても、またオズか。西の魔女ってどいつだっけ? メモによれば、一度はドロシーを倒したけど顔が濡れると力が出ないよお〜で敗北…とある。まあドロシー強いからな。西魔女は、強者ドロシーの咬ませ犬的存在? 死体未確認キャラなんていたっけ??

最近の私は実は北の魔女が最強という説を唱えている。飛んできた家に潰されて初手圧死と活躍の場はなかったが、普通は家が落ちてきたらどんな強者でも死は避けられないものだし、予測も不可能だよね。家が落ちてくる経験なんてないでしょ誰にも。しかもストーリー上は巨額なサブプライムローンの残る自宅を犠牲にして最強魔女を倒したからこそ、ドロシーの英雄物語は幕を開けたのではないか?

乱れる海よ (小手鞠るい)

渡良瀬千尋という、(実在の人物をモデルにした)人物を追いかけるルポライターの物語。テルアビブで空港乱射の人。この作家は実際に(実在の人の方と)同じ学校の後輩だったらしく。その関係もあり、かなりの情緒を持って書いていて、しっかりねっとり、読ませてくれた。期待通りで、後味もある。

まあちょっとこの実行犯リーダーに共感できるかは怪しいところだ。ではどうすれば全体の幸福が減らずに済むのか、と言われると答えを持たないのだが。こういう問題、AIが解決してくんねーかなー。だって歴史の中で、人類のみでは解決は無理だったことが証明されており…

徴産制 (田中兆子)

若い女が絶滅的に死んだあと、可逆的性転換技術を使って若い男を女化して子供を産ませようと、そういう世界を描いたディストピアSF。これは設定だけで面白いとわかりそうなものだが、果たしてどうか。

まあここまで技術が発達していれば、人体なしで子供を作れても良さそうなもんだが。

なかなか良かったと思うよ。章ごとに違う人生を描くそのストーリーも安定した水準を保っていて、ラストもしっかりディストピアしてた。

ただまあ、もうちょっと展開にパンチがあってもいい気がするけどなー。どうしても、初期設定の強さで最後まで押し切った感じになってしまう。

キッチンコロシアム (田中経一)

料理の鉄人の演出の人が書いた、料理の鉄人を舞台にした小説。いいのかこんなこと? まあ、許される立場の人なんだろうな。だったら細かい名前は変えなくていいんじゃないの、と思ったが。変えてない名前もあるし。設定は持ってきているけど、ストーリー自体はフィクションだからしょうがない部分もある。

小説としてはかなり面白く読めた。しっかり因縁を回収してラストに持っていった。読後感も良い。有名なテレビ番組をベースにしているためコンテキストを説明する必要がない点をうまく使って、ストーリーを構成してまとめあげた感じだろうなー。

古文書返却の旅 (網野善彦)

借りパク上等の古文書界隈? 壮大なアーカイブ計画が頓挫して大量に手元に残された古文書の返却をライフワークにして数十年。主要関係者の逝去も影響し…すぐ早く返せないものかねえ。管理がなってないんじゃないの? と言いたくなるが、果たしてどうか。

普通は激怒されて当然のこの状況。旧家の鷹揚さからか、著者のパーソナリティからか、不思議と怒られずにさらなる古文書を貸してもらえたり寄贈にしてもらえたりしたらしい。まあ今更持っているよりは研究機関に保管してもらったほうが、いいことが多いだろうな。現代人には、守り抜いて次代に伝えるタスクは辛いものがある。個人の努力ではどうにもならないケースも多いのでは。