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山椒の実

Category: Books

ジュリエット (伊島りすと)

南の島の怪談だ。楽園のようでいて恐ろしきクローズドサークルで、死を呼ぶ少女が呪いの光景を見たら何が起きるのか。この先生きのこる未来なんて見えるわけがない。そんな話。呪いかかるの早いよ。スティーブン・キングのジプシーに呪われて痩せてく話くらいの早さ。

果たして登場人物が全員病んでいるわけだが、メンタルの乱れは心の乱れ! などとわけのわからない事実を叫びそうになる。

最終的には丸く収めながらホラーらしさも兼ね備えた感じにまとめた。

特殊清掃人 (中山七里)

このタイトルは完全にゲテモノ推理小説でしよ。著者もそういう方面だし。なぜ読もうとしたのか。まあ、嫌いじゃないだろうなと、そういう感じで。

果たして凄惨な現場が続く。大変だなどころの話ではない。床の補修はそんなに簡単なんだろうか。例えば高級な床材あるじゃないですか。ああいうのは別料金なのかな。

基本的には、答えのない問いにどうにか答えを出して自分を納得させるみたいな話だったかな。たいていは、孤独死した人間が生前考えていたことなんて想像するしかなくて、想像だけで終わる。

ヒトコブラクダ層ぜっと (万城目学)

事実、名前の肥大化という現象があって、大和、大地、太陽、宇宙、etc… 現代人の名前というものの深淵を覗く思いであるが、この本では天地人の3人が揃い踏みする。それぞれの持つ3秒の奇跡がうなりを上げる。なんの代償もなしに使えるのか、この3秒は。なぜだ。

リアルで奇想天外でなんでか分からないままに惹きつけられる、まさにワールドとしか言いようがないストーリー展開。

この結末はどうだろう。終盤は蛇足感が大きかったと思うなあ。途中まではかなり好感を持っていたが。なんの部活(競技、種目)かわからないまま進んでいたが、蛇足部分でなんとなく競技が分かる感じになった。そのへんのフワフワ感もあるんだよなこの作品には。

校閲至極 (毎日新聞校閲センター)

新聞の校閲の部署がコラムを連載していた、それを本にした。担当が交代で書いているようで、本にまとめると統一感がないな。

内容は当然、校閲のあれやこれや。言葉の知識とあるあるの経験で殴りつけていく。普段触れることの多い日本語、それも新聞記事の校閲だから親しみがありますね。

この先生きのこるとか、暴力二男の話は出てこない。二とニの話はあったが。

自分もコードを書くときにtypoすることはある。厳密すぎても窮屈だけど、見かけると恥ずかしくなるやつ。使ってる製品やサービスの公開API名がtypoしてたりすると、なんとも言えない気持ちになるよね。たかが仕事とはいえ、真面目にやろうよ俺たち、と。

逆境を味方につける 日本一嫌われたサッカー審判が大切にしてきた15のこと (家本政明)

あのなあ。昔はワルだったけど改心したからエライね、という枠の人。Jリーグの名物審判ですな。古参サポには被害を受けた人も多いだろう。オレも目の前で佐原のファインゴールが取り消されたetc…(きりがないほど多い)が起きた埼スタの何か事件を筆頭に、いろいろ体験してますからね。とにかく試合が安定しなかったので信頼感の低い審判だった。家本事件と言ってもどの試合か特定できないほどに。

しかも自著で、自分は能力が高くて見えすぎているから普通の人が見えないようなファウルが見えてしまうんだみたいなことをゆってただろ。クソが。起きてねー見えてねーのに雰囲気だけで重大な判定するからだろーが。なんて本だったかな。当時の。インタビュー記事だったかもしれん。それ読んだオレの気持ちが分かるのか、それ見えてるってのか、ああん? まー特等席でサッカー見れるから審判やってるみたいなのはいい表現だと思ったよ当時。あと自転車のトレーニングのこととかも参考にはなった当時。時之栖のことも知ることができたし。

99.9%は仮説 (竹内薫)

科学というものがいかなるものなのかを述べた本。常識を疑えと。そういう世界観を持とうよと。

ともすると流行りの陰謀論に化けかねない話なんだけど、実際いろんな常識を覆して科学は精度を高めてきたし、これからもそうなんだよな。これは20年前の本だけど、今だって続いている営みだ。

反証可能性の話のくだりは良かった。なるほどと。真実と思っているものは仮説でしかなく、ひっくり返る。それが科学を科学たらしめるものなんだと。科学だからこそ、常にひっくり返る可能性を秘めていると。

飽くなき地景 (荻堂顕)

まさかの金城庵だ。あの懐かしの。思い出すなあ。好きな言葉は「ああ君たち、足くずしていいよ」です。

家伝の刀剣をめぐる冒険。象牙をめぐる名作SFを思い、あんな感じかなと考えたが、どうか。とりあえず刀身にカタナブレードツルギとは書かれていないことはすぐに確認できた。太田道灌の愛刀だ。戦後の、第一次東京オリンピック周辺の時代。東京を歩いた名家の数世代を描く物語。

裕福な生まれの主人公による短いストーリーが約10年ごとに語られていく。最初の渋谷討ち入り事件のぶっ飛び具合が良かったが、年齢を重ねて大人になっていく。死んだやつはいいやつ、というわけだな。

メロスの翼 (横関大)

ツバサとミサキとイケメンと。熱い卓球物語だった。メロスだから激怒して、メロスだから走るんだよな。わかるぜ。ましてや翼を授けられて、飛ぶ。パワー卓球で月まで飛べたね。

というわけで、なかなかの名作だった。いろいろ偉いやつがいた。ワリとどいつもこいつも偉い。そういう物語。マジで根性のありすぎるやつしか出てこないんだ。現実こんなこともあるんだなあ。フィクションなのは分かってるけど、そう思う。心や奇跡は連鎖する。

朝比奈さんと秘密の相棒 (東川篤哉)

恋ヶ窪の高校を舞台にしたミステリ。トリック重視でテンポが早い。この人あれだよね、南武線ミステリの作者か。どおりでこの作風。

人格入れ替わりをお約束にしつつ、さまざまなトリックを見せてくれた。序盤はワリと深刻な結果になっていたが、たんだん高校生らしく穏やかになっていった。最後だったか、茶室のやつは無理がありすぎるんでは、と思った。まープールのやつもたいがい…むしろ全部か。

しかし記憶を引き継ぐというだけじゃ説明できてないよね。表人格で観察できてないと思われる情報も裏人格が持っている場面があった。まあそこまでの設定は考えなくていいのかもしれないが。

Y (佐藤正午)

中年男性タイムスリッパー物語だ。高校生じゃないけど、高校時代の同級生が絡むのでギリセーフ? そんな計算のありやなしや。それを名手・佐藤正午がどう描く。まさに真骨頂だ。ジャンル的にはSFだよね? SFというもの自体の、他のジャンルと混ざりやすい特色が云々…

かなり面白かった。なぜピンボイントで行き先に確信を抱くに至ったのかには興味があったが、思えば叶う? そういうものなのかもしれない。あとは予兆のショートスリップの時もsrc側の身体は死んでんのかな、という疑問も。ロングだから死、ロングならでは死、というのも違うような気がするんで。そしたらタバコつけたまま突然死すのかと。退社ドア死も事件でしょうよ。そしてdstは入れ替わる元の人格はどうなるんだ。仮にsrc側に移行するならsrc側は死なないんじゃないの、いや死んでたし、ショートの時も移行してないよな…つまり消滅? うーん、タイムスリップの原理も、こうなると悩ましいものだ。