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山椒の実

Category: Books

無限の月 (須藤古都離)

ゴリラ本に引き続き、同著者の第2作。これまたすごい話だった。ラストの蛇足? は唐突すぎるので置いといていただいて。全体的には、なんとも素晴らしき物語で、本当にいい読書体験だったなあ。木下が満場一致のMoMだ。あわれな芳澤は破滅でもしてろと。

共通する足の怪我の謎も、そんなものかと思ったがよく考えるといい味を出しているような?

SF的要素もちゃんとしていて、ドラマ部分にも強烈に引き込まれる。しかしこれ、日本と中国だったからこういう物語に着地できたんだが、例えばもっとこう、マラウイとか宇宙ステーションとかだったらどうなっていたことか…みたいな考察もありうるよな。遅延とか時差とかを考慮して。たどり着く苦難も中国どころではない。

シャーロック・ホームズの護身術 バリツ (エドワード・W.バートン=ライト)

読まずにはいられない魅力のある本だ。タイトルだけですでに勝ってるよね。子供の読書感想文に選んだら選者の多くにはストライクかもしれない。うちの子供は、読書感想文を書いて提出する宿題が出るような年齢は過ぎてしまったのだが。

日本が世界に誇るあのマーシャルアーツ。ホームズをモリアーティ教授との死闘から救い出した護身術。一説には伊藤博文が直伝で少年時代のホームズに教えた武術だったりするのだが、その謎を解明するためのキーとなるような本。この本では、バリツの最有力候補である、バーティツについて詳細に記述し、現代の格闘家を啓蒙するのだ。愛用のステッキがうなりを上げるぜ。

中身を見ると、確かに和風の武術が含まれていますね。柔術系で、中心線を意識して対角線上で逆方向の力を加えることで、少ない力で相手の体を回転させたり。後の先みたいな概念もあるし、関節技も駆使している。

隠し事 (羽田圭介)

同棲中の恋人を疑う男の話。まあ7年付き合って同棲も長いのかな、法律上は内縁の妻か? 入籍してないのもどうなのってくらいの関係で、チャラチャラふわふわしている主人公がイライラさせてくるというね。

途中からの展開は不穏で狂おしくて良かった。記憶術すごい。日常にも、こういう狂気がないといかんよね多少はw

ブエノスアイレス午前零時 (藤沢周)

雪深い温泉卵の旅館に勤める人が出会う…ブエノスアイレスってアルゼンチンのどこよ??

都市名と時刻のタイトルはワリと良作が多いよね。東京は夜7時とか。AIに聞いたらデタラメ答えるけど。

ダンスシーンが絵になりそうだなあ。

もう一遍あり、スーパーの屋上の子供向けコーナーで神秘に覚醒する男の話だったが、どうかな。こういう日常を短く長く描写するのも技術…なのかもしれないが、面白くはなかったな。技術を体感するために、自分でも書いてみようか、日常を。描写力のトレーニングのために?

香君 (上橋菜穂子)

プリマの香薫の歌が頭の中を駆け巡る。おさえきれない、この気持ち。香薫やシャウエッセンには絶大なる信頼感があるよね。この本はどうか。

農業革命を経て発展を遂げたあとの、帝国ファンタジー。またオルファクトグラムの系統か。異常臭覚発達者が八面六臂の活躍を見せつける。アクションあり恋愛あり戦闘あり推理あり航海あり登山あり農業あり。盛り盛りの、盛りだくさんだ。一粒で何度も美味しい。

確かにね、匂いというのは意外と重要な情報だから、本書の現実を前にして考えると、農業知識の発展にも役に立つのかもしれない。現実的にはセンサー技術で解決するか、異常臭覚発達者の出現に賭けるか、犬に人語を喋らせるか…日本のフードテックでの最短距離を考えてしまう。いや虚構なんですが。

愛を乞うひと (下田治美)

記憶をもとに、自分のファミリーヒストリーを追う。暗すぎる過去と、明るすぎる現在を対比させながら、時間がつながっていく。

過去の話は、凄惨なシーンも多くてショックを受けた。よく生き延びたよ。サバイバーで、暴力を再生産せずに生きたのは立派なものだ。なんという強さ。真の勝者の物語だ。

台湾編からのクライマックスには疾走感があったな。運命に導かれたかのようでいて、自分で切り開いている、その道。愛がある。

ラストも切なさがある。そうなるか。そうなるよなあ。克服することの難しさがある。

ゴリラ裁判の日 (須藤古都離)

すごい本だった。名作じゃないの。こういう本を読みたかったんだよな、という感じの本だった。文章力もすごいし、構成も良い。読後感も絶妙。度肝を抜かれた。著者は何者…

夫を殺された知性ゴリラが裁判を起こす。いやちょっと待て。と言いたくなる読者を尻目に、一瞬たりとも待たないで突っ走る。とんでもない知性。ゴリラに下品な言葉を教えるなよ。そして使いこなさないでくれ。我々読者は知性ゴリラの抑制的な独白を追いかけることしかできないのだ。ひたすら。もう、ゴリラのことしか考えられない!

片手袋研究入門 (石井公二)

日本の片手袋研究の第一人者で、今もトップランナーとして走りつづけ、片手袋界の巨人とも言える名高い著者が、研究家としての心得を説きながら片手袋に関するアレコレを熱く述べてくれた本。真夏の暑さよりなおアツい。

基本となる分類法の説明から、理論体系を丁寧に説明しており、片手袋学の入門に最適な書と言えるだろう。

中盤の片手袋ファンとの交流や、文学・アート作品の情報も興味深かった。小川未明の作品「赤い手袋」は青空文庫にあるのを読んでみたが、確かに…なんとも言えない読後感。唐突な悲劇がショッキングで、物語として成立してるのかこれ? と疑問が生まれる。大正時代の小学生はこんなの読んでたのか。彼らの将来が心配になる。他にも青空文庫には手袋に関する作品がいくつもあるので、検索して読んでみるといいだろう。

ひとりぶんのビリヤニ (印度カリー子)

スパイスのマスタリー、スパイスカレーの人が、ビリヤニの小規模調理について紹介する本。

実際のところ自分は5人分作りたいんだけどな…買う本を間違ってるww この本は2人分までしか対応していない。まあ普通に5倍量で、水加減だけの問題か。2人分で30mlダウンてことは、5人分だと120ml減らすか。あるいは週末に4-5食分作って平日の昼ごはんにするという計画も企てている。

今度やってみようと思うけど、炊飯器に匂いがつくのは苦情が出そうだから、専用の炊飯器…買ったら怒られるやつはやめて、深型フライパンでやるか。

マン・カインド (藤井太洋)

優秀なSFと聞いて読んでみることに。LLMもちゃんと活躍しているし、それっぽい技術要素がまんべんなく散りばめられている。SFっぽさも強くて、いい感じだ。人類強すぎワロタ…と言っていいものかどうか。平安時代のニンジャはこの技術を使って作られていたんだよ。古代ニンジャ文明史の幕開けだ。

ラスト付近はどうだろうなあ。賛否両論? まあちょっと無理があるかな、とは思ったが、クライマックスの後としては悪いものではないとも。あと公認ジャーナリストが公正戦闘に介入したら普通にダメだろうなあ。救った人数で正当化されるような論理があるんだろうか。