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山椒の実

Category: Books

これが最後の仕事になる (講談社編)

先日の捨てるやつと同じシリーズで、第二のぷにょぽんを探して読んでみたというわけだ。今度は最後の仕事がテーマ。タスク管理で、todoが、あるいはready状態にある項目が残り1つになってしまう、ある意味わびしい状態か。

今作は飛び抜けて良い作品はないけど、佳作が多かった印象。特別に引き込まれたり余韻が残ったり癖になりそうだったり、そういう作品はない。良かったやつと言えば、デスメタラーのバスガス爆発の話、スフィンクスの謎掛け二本足の話、看護助手の話、離婚する話。このあたりか。作家側は、それぞれに実力を見せたんじゃないかな。

ゾンビのいた季節 (須藤古都離)

ChatGPT調べによれば、ゾンビは夏の季語として使えるだけの性能が確認されているとのことです。そして冬は冬眠するやつもいるとか。知らなかったー、ためになるなぁ。

呪われた銀山跡を舞台にした、まるで美しい映画のようなストーリー。その安定かつスリリングなストーリーテリングで、さすがの技巧が冴え渡る。ゾンビから逃れて核シェルターに立て籠もった著述家が書く物語とは。

なんだこれは。まずは視点がたくさんありすぎる。小説家、マフィア、ギャング、編集者、警察官、映画人、軍人、マニア。人数の少ないジェスローの中にもいろんな家族がいてそれぞれのキャラクター、生きる世界がある。群像劇というか…多少混乱したがどうにか読み進めた。最後は前代未聞の無撮影爆発エンド。そんなのってあり? かえすがえすも教会は撮っておきたかった。あんだけ燃やすことを熱望していたのに。

スワン (呉勝浩)

ショッピングモール大量殺人事件の、その後を描く。大量の死者と怪我人、犯人は全員死亡…そして集められた証言者。これ以上何を解明するというのか。もう「犯人が悪い」で、いいじゃないか。それ以上に悪い人なんているかよ。誰しもがそう思うところ。

果たして、読み進むほどに不穏とリアルが増していき、嘘は暴かれ、謎は解けてゆく。かなり傑作よりの良作だった。全ての人物に多面性が織りなしているし、イーストウッドでも出てきそうな…いやー、何書いても無粋なネタバレにしかならないような気もするが、とにかく読んで良かった。

タイム・リープ あしたはきのう (高畑京一郎)

うるう秒のアレだっけ、それとも時刻同期がずれて修正する時のやつ?

実際は高校生がタイムスリップだ。なかなか熱い設定ですよね。どうせタイムリーパーを出すなら、やっぱ高校生くらいがいいですよね。老人とか出しても燃えないですもんね。…という方向性を決定づけた、割と名作の扱いの小説。

果たして読んでみたが、なかなか良かった。物語やキャラクターに魅力があって完成度も高い。今読んでも問題なく楽しめる。

SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか (毎日新聞取材班)

2020年の本。あれから5年。悪化してるよね。どうだった?

いろんな物語を集めた、マスコミの取材班が作ったありがちな本。出自的に常識的な内容になることから、面白さはないが安定的に時代を理解できる、という利点がある。NHKの本とかは結構パンチがあることもあるんだけどね。

読んでいていろいろな出来事を思い出す。ネットの世界は時間が過ぎるのが早すぎて、もはや矢だ。光陰さながらだ。…というか、そのものだが。

思うに、人類の脳がポンコツに過ぎなかったということを白日の下にさらしたのがSNSという見方もできるのかもしれない。学問の力でごまかそうとしたものの、過去最高レベルの学力を誇る現代でもダメだったワケで。こりゃディープステートの陰謀とかで片付けられたほうが絶望は浅い。

月を盗んだ男 NASA史上最大の盗難事件 (ベン・メズリック)

いいじゃん月の石くらい貰っても。でかいんだし。地球の石と大して変わんないでしょうよ。領地も確定してないんじゃないの。自然物だろう。これが財産だとしたら、そもそもがNASA自身が月から盗んできたものだろ。

あらすじとしては、、、

婚前交渉の咎で実家から勘当され絶望の淵を彷徨ったユタ州のモルモン教徒がエース級サイエンティストに転生、NASAデビューをきっかけに陽キャ化。しかし駆け落ちしたモデル妻とは不仲になっており、ベルギーの石マニアと悪魔合体したFBIも暗躍を始めていたのだった。そこに謎の研修生美女がロケットめいて高速垂直リフト射出され…

城は踊る (岩井三四二)

戦国時代の小さな城攻めの話。散々命のやり取りをして、多大な犠牲を払う。その先にある徒労。とんでもねーな。危険に次ぐ危険を冒した挙句、誰一人得をしていないというね。

でも、ハラハラドキドキ楽しめた。まあ、怪我しすぎだなあ。実際は動けないよ、こんな怪我してたらさ。

白い部屋で月の歌を (朱川湊人)

ホラー小説。中編2つ。拝み屋チームの話と、田舎に流されたサラリーマンの話。

表題作よりも後ろの鉄柱ていう作品のほうが良かったかな。そっちの方がオカルト色は薄い。表題作は不気味で自我に問題のある主観者の正体が明らかになるクライマックスは衝撃があって良かった。それぞれに後味も残る。

だけどまあ、この救いのなさはどうにもならないね。ホラーはどうしても、こういう結末になるからなあ。

なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図 (渡瀬裕哉)

選挙プランナー? っていうのかな、そういう活動をしてきた著者が現代の分断を説明する。米国でも活動してきたらしく、米国の事情にも詳しく触れている。この本は全体的に、選挙中心の考え方でできている。選挙と民主主義が世界を構成するという世界観で書かれているというわけだ。

序盤のつかみが非常に良かった。選挙の基本原理は分断を煽ることだ、と。現状のレギュレーションで成功するためには仕方のないことなのか。それがつける傷は深いぞ。こりゃ罪深い。罪深い必然。民主主義の行き着く先なのだ。あたかもエントロピーが増大するかのように? マジかよ…

兄弟 (なかにし礼)

三國さんの本に出てきたニシンの去った街、増毛に関わる、自伝的小説。出だしが凄い。兄の死の知らせを受けて、万歳と。

読み進めると、果たして想像以上にハチャメチャだった。これはたまったものではないだろう。巻き込まずに一人でやれなかったのか兄。増毛のニシンのバクチも早速出てくる。倍プッシュに失敗…それも序章に過ぎない。

兄だけじゃなくて、本人も割とハチャメチャな人生ですね。戦後すぐの時代に特有のやつかな? 子供ができた途端に奥さんをポイ捨て、しかも兄をダシに使う場面はドン引きするしかない。クズじゃん。自伝でヤバいこと書く人いるんだよねえ。と思ってしまう。