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山椒の実

化け者心中 (蟬谷めぐ実)

江戸時代の歌舞伎役者たちの中に紛れ込んだ鬼を探す話。このでんせつてきなじけんは「かぶきおに」という童子たちの遊びとして現代にも伝わっている。ウソですが。まあそんな、ウソのようなことばかり言い出す人たちの話。

リズムが良かった。筋はちょっと複雑さがある。人数も多いけど女形と男形の違いくらいしか印象に残らない…まあもっと描写はあるんだけど、詰め込みすぎでは? 一つ一つは割と良さがあった。

途中で鬼がちゃんと出てくるのか不安になった。出てこなくても解決編を書けたんじゃないか。まあ、出てきます。鬼。ご期待ください。

とらすの子 (芦花公園)

芦花公園はロカコウエンなんですね。著者の名前で探すときはアシハナコウエンやアシバナキミゾノではないことに注意しましょう。京王線の駅名でもある。千歳烏山の隣ね。各停しか止まらん。その公園が、今や人気ホラー作家だ。いつ人間に!? なれたのか! 今度降りてみたい駅ナンバーワンの座、争奪戦に名乗りを上げたね、マジで。

殺してくれる謎の美女。描写も丁寧で、そこからの1章のラストが圧巻。一瞬で事件と推理の可能性を否定するのだ。わずかに残っていた可能性が潰え、本格的に怪異が物語を支配する。

ワイルドサイドをほっつき歩け (ブレイディみかこ)

時代の流れにあらがう英国ワーキングクラスの初老男性たちを描いたエッセイ集。解説つき。アマゾン/ウーバー本でも読んだ英国労働者階級の苦境ね。

緊縮財政やNHSの話とか、ブレグジットとか。ある見方だと壊れていく世界だし、逆から見ると正常化しているわけだ。類型はどこにでもある。そんなことを思いつつ、軽妙な文章で楽しく読めた。

英国の状況はなんとなく伝わってきた。NHSというのは、無料化されていた医療体制。で、財政が悪化して無料のままサービスを低下させてコストダウンしたと。予約を入れるために朝病院の前で行列させるとか、無料のままで、あの手この手で使わせないようにするという、バカバカしい話が。

なぜ共働きも専業もしんどいのか (中野円佳)

何をやるにも簡単じゃねえ、というわけだ。なんだこの世の中。楽園なんてものは、ないのか。ないんだな、と思った。

例えば大変だから外注やメイド/シッターを頼めると言ってみたところで、その頼まれた側の人たちの人生はどうなんだ。将来のその人たちが別の人を雇えるようになるわけでもなく、持続可能ではないよね。不幸を誰かに押し付ける方法を知りたいわけではなく、不幸を減らす、なくす方法はどこにあるのか? そんなことを思いながら読んだ。システムだよね。システム設計。

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した (ジェームズ・ブラッドワース)

日本の人にもいましたよねこういう潜入取材の。アマゾンの倉庫とかユニクロとか。かなり面白かったなあ。そう思って読むことにしたこの本。最低賃金のゼロ時間契約による労働。実際日本でも同じ状況に近い世界があるわけで、現代社会は実に剣呑だ。どうにもならん。

ポンドの価値がよくわからないので混乱した。いまは200円くらいなのか。物価も違うから、分からないのは変わらないが。

最低賃金でフルタイム働いたら、年収は? と計算してみる。現在の神奈川県の最低賃金は時給1162円。フルタイムは週40時間が50週として2000時間だから、単純計算で232万円か。手取り200万前後ってとこ? まあ一人なら、なんとか暮らせるかなあ。これがゼロ時間契約で労働時間が不安定だと、ちょっと無理があると感じる。東京圏一人暮らしだと家賃で100万くらい、そこに光熱費通信費食費…うーん。なかなかの地獄だね。

暮らしのなかのニセ科学 (左巻健男)

ニセ科学がはびこる現状について述べた本。この本が7年前か。今はもっと激しい陰謀論が渦巻いていて、この本のような活動もむなしく、状況は悪化したと言えるだろう。いやはや、ひどい話だ。

この本では、ダイエットや健康系のやつから怪しい水やらEMやらマイナスイオンまで、やばい話のオンパレード…それが紹介されている。こういう、デタラメだけど科学っぽさで人を騙す輩というのはどういう倫理観をしてるんだろう。それを想像しながら読むわけだけど、うーん…金儲けのエナジーなのかなあ。それだけで説明がつくんだろうか。大企業もやってるからね。コンプライアンス委員会とかないのかな。どうなってんだ。世も末ですよ。

右園死児報告 (真島文吉)

明治時代から続くあの現象の報告書をまとめた問題作。いいのこれ出版しちゃって。事件ですよ?

家族がこの名前を名乗り始めたらどうしよう。そんな不安とともに読み進める。日本を長らく蝕んできた、あの。

そのまま現代の闇に続いて終わりかと思いきや、終盤は議論の起きそうな展開に。そういうのを求めていたわけじゃない、という読者の声が聞こえてきそうな。アベンジャーズを意識しすぎたんじゃないか。失敗してないか。

緑の家の女 (逢坂剛)

オシャレ会話を楽しむためのハードボイルド風探偵物語。息をつく暇もなく、マシンガンのようなオシャレ会話。このリズムだよね。短編集でテンポもいい。主人公の興味の範囲がいい具合に絞られていて、統一感もある。なかなか良い作品だった。それでも最後の方の暗殺の話は偶然が過ぎたと思うが。

全体的にはかなり楽しめたし、シリーズになってるらしいので、他の作品も読みたいなあ。

大一揆 (平谷美樹)

幕末期の南部藩で起きた一揆の話。実話ベースだが知らないことばかりで、新鮮でもあった。実は私は幼少期に過ごしている地域が舞台なんだけど、マジで知らなかったな。あの辺でこんな一揆が成功していたなんて。時代の偶然もあったんだろう。

というわけで最初はファミコン版のあの音楽を懐かしく思いながら読んでいたのだが、かなり興味深く読むことになった。しかし当時の情報でこの的確な動きは無理があるんじゃないかなあ。カンだけであんなにやれるのか? 実際はもっと情報が行き渡っていたんだろうか。

どこまでやったらクビになるか (大内伸哉)

会社つえー

15年くらい前に書かれた本か。15年前でこんなに会社強いんだ。ほとんど無敵じゃないか。今でも強いのかな。会社員ってのも弱い立場なんだな。いや15年前? それでこれか。意外だなあ。

構造的に個人で組織と戦うのは不利が多いわけだが、それでも部分的には勝てるケースがある、という感じなんだろうな。この本が何かの参考になるのかわからないけれども、社会的な問題ではあるから、判断は時代とともに変わっていくものなんだろう。法律ができたとか改正されたとか、そういうきっかけもでかいんだろうが、実際は世間の空気みたいなものの影響が大きいと感じた。