朝五時、川辺町の住宅街はまだ夜の続きの中にあった。
街灯の白い光の輪だけが等間隔に浮かび、その他はすべて青黒い影に沈んでいる。本多航は玄関の鍵を閉め、吐く息の白さを目で追いながら、リュックの肩ベルトを一度締め直した。防寒着のジッパーを喉元まで上げ、頭の中では今日のルートを反芻している。始発前のコミュニティバス、境川沿いのレンタサイクル、渡し船の始発時刻——順番も時間も、もう何十回と辿ってきた道筋だ。玄関先の鍵は、開け閉めするたびに小さく軋む。そろそろ油を差さなければと思いながら、結局今日も忘れていた。