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山椒の実

正体 (染井為人)

なかなか重厚な冤罪逃走劇だった。分厚いから時間をかけて読みたいなと思っていたんだけど、内容はスリリングで、一気読みしか選べない。

名作の一つだな。これ系のは名作が多いよね。ショーシャンクの空に(逃げるまで)、グリーンマイル(逃げてない)、ゴールデンスランバー流人道中記(逃げてない)、etc…いろいろあってそれぞれに深い。破獄(冤罪じゃない&ノンフィクション)とかもあったなぁ。

なんだかんだで、冤罪や逃走というのは魅力のあるテーマなんだろう。逃走者に善人としての魅力と周囲の善玉の援助がないと困ってしまうから、こういう非の打ちどころのない奴を持ってくるしかないのだよな。実際は冤罪を喰らうのはそれなりに普通だったり悪い寄りの人間もいて、実際はそういうのも問題なんだと思うんだよね。

アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風 (神林長平)

前作よりもだいぶ読みやすくしてきましたね。ゲームチェンジャーになる登場人物が登場したのは意外だった。ジャムはなかなか出てこないので、これはゴドーのようにジャムを待ちながら読み進めるやつか、と思っていた。最後まで出てこない説も考えていたけど、結局出てきたので逆に安心した。次作はいつになるだろう。武器となる人材を得て攻勢に転じるという期待があるのだが。

ジャムになった大佐は何食って生きてるんだろうな。もはや生物ではないから、何も食わずに生きられるのかも?

アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (神林長平)

外出するたびに「ダメだ、この惑星は居住に適さない…」と呟いてそこを去りたくなる日々が続きます。この猛暑。そこで夜更けにSFだよ。夏ってのはSFが捗る季節なんだ。

起きるのはすべて、起きて当然のことなんだ。

しかしなかなか話が見えないぞ? 感覚がおかしくなった登場人物がそれぞれに長台詞の考察を続ける、この著者特有のストーリー進行。だけど、現実とは思えない矛盾が目立ち、どうなってんだこれ、と。その謎を解明しながら物語は進んで行くのだけど。そもそも前提となっている地球とフェアリイをつなぐ通路という設定がある。なんだ通路って。お前の心には物理法則とかないんか!

退職代行 「辞める」を許さない職場の真実 (小澤亜季子)

読点が気になる文章。シンプルに読点が多すぎて逆にのっぺりとしてメリハリが…ここ数年かな、割と多いんですよねーこういう文体。文字も大きめだし、もしかしたら老人向けの本なのかもしれない。この種の文体の流行り廃り、分析してくれてる人とかいないかなー

それはともかく、この本の内容は退職代行を受け付けている弁護士の述懐。家族や自分の事情を記述しつつ、自分のビジネスについて説明を加えていく。なかなか興味深く読めた。もうちょい本格的なやつを読みたかった? そんな気もするが、弁護士で事業者である人が実感を持ちつつ書いた内容という価値はあるだろう。この本が書かれたのは今から5年前か。退職代行もだいぶ市民権を得てますからね。

グッドラック 戦闘妖精・雪風 (神林長平)

アイスキュロスだ、とりあえずは。アイスキュロスの逸話を適切なタイミングで話せる大人になりたい。そう強く感じた。とんでもないやつもいたものだ。恐るべし、だ。まさに。

これ、だいぶ昔に読んだはずなんだけどな。内容を完全に忘れていた。つまり楽しく読めた。しかし、こんなダイナミックな展開だったかなー。死にそうで死なない奴が登場してまあまあ活躍した記憶はあるから、読んだのは間違いないのだが。後半はワールド全開な感じがして良かった。

ウォー・ゲーム (P.K.ディック)

ディックの短編集。らしさがあってワリと良かった。気軽にこういうのを読めると楽しい人生になりそうだ。だけどそれぞれ、あんまり印象には残らなかったなあ。後半のオモチャのやつとか、タイムマシンのやつはちょっとは残るけど、結末はもう忘れてしまった。そのくらいな感じで、どんでん返しも大団円もないし、どっぷり引き込まれる前に終わってしまうんだよな。

ディックと言えばどうしても、セルフイメージと現実とのギャップ…みたいなテーマを期待してしまうので、期待が高いと外れたと思うかもしれない。自分が通勤電車で読むにはちょうど良かった。

戦闘妖精・雪風 (神林長平)

昔読んでいた本。物理本で、まだ持ってるんだよね。シリーズに最近新しいのが出たということで、通しで読もうと思った。深井零、懐かしいなあ。相変わらず、お元気そうですねえ。まるで実家のような緊張感だ。剣呑。共感できそうでできない、人間らしくもあり人間らしくもない主人公。どこか現実感のない、まるで地球からフェアリィを見ているかのような雰囲気で物語が進むんだよな。

改めて、これが1980年代に書かれたことを思う。このあと実際に無人機が地上の人間を殺戮して回る世界が来て、今はもっと安価なドローンも主役級に躍り出ている。この40年。

忍者に結婚は難しい (横関大)

なんかこういう映画ありましたよね。夫婦がお互い隠れて殺し屋やってるみたいな。スミスとかなんとか…それがこの本は忍者で甲賀と伊賀だ。そして突然の推理からのモヤっとしたエンディング。テンポも良くていい感じだった。ホームドラマと組織ドラマを組み合わせたニンジャスレイヤー、みたいなものか。

この小説はTVドラマにもなったらしくて、私は以前にこのドラマのロケに出くわしたことがある。見てなかったがタイトルだけは記憶に残っていた。なるほどこういう話だったのね。映像にしても面白くなりそう。美女とマッチョがニンジャでアクションだ。そしてホームドラマと組織ドラマ…は映像的には余計で蛇足になる可能性もあるが、全体的には面白くならないとは思えない。見ればよかったな。

銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド)

人類史の概略を示して論考を加えていく。結局のところ、我々とは何なのか。再現性のない長い歴史から何がわかるのか?

人類到達の時期と大型動物の絶滅と家畜の存在、資源と軍事力の差、農業と定住による人口増加がつながっていく。あくまで一度しか起きない物語と、その捉え方が全編を貫く。

支配するものとされるもの、どうして差がついたか…慢心、環境の違い? 慢心ではない、環境だ。人類史における民族や地域の差は、環境からくる必然で説明できるのだ。

アナザーファイト (草花由)

闇キックの物語。何だそのまとめ方は…これは格闘技による男たちの救済の物語。しかし展開の都合が良すぎるぜ。普通はこうは行かない。ただ現実は小説よりキックなり、ということわざもあるくらいで。

メインイベントでの下段蹴り主体の戦術は妥当なところだろう。両者ハンデ戦でしたが、主人公側のブランクとトラウマイップスと完全アウェイと…は過剰だったかな。セイジもキャラクターの造形やバックグラウンドの深さと、セリフの浅さのギャップがあり、強制的な違和感が支配していたわけだが、それだけにラストのアレは何なんだと。