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山椒の実

Category: Labor

ワイルドサイドをほっつき歩け (ブレイディみかこ)

時代の流れにあらがう英国ワーキングクラスの初老男性たちを描いたエッセイ集。解説つき。アマゾン/ウーバー本でも読んだ英国労働者階級の苦境ね。

緊縮財政やNHSの話とか、ブレグジットとか。ある見方だと壊れていく世界だし、逆から見ると正常化しているわけだ。類型はどこにでもある。そんなことを思いつつ、軽妙な文章で楽しく読めた。

英国の状況はなんとなく伝わってきた。NHSというのは、無料化されていた医療体制。で、財政が悪化して無料のままサービスを低下させてコストダウンしたと。予約を入れるために朝病院の前で行列させるとか、無料のままで、あの手この手で使わせないようにするという、バカバカしい話が。

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した (ジェームズ・ブラッドワース)

日本の人にもいましたよねこういう潜入取材の。アマゾンの倉庫とかユニクロとか。かなり面白かったなあ。そう思って読むことにしたこの本。最低賃金のゼロ時間契約による労働。実際日本でも同じ状況に近い世界があるわけで、現代社会は実に剣呑だ。どうにもならん。

ポンドの価値がよくわからないので混乱した。いまは200円くらいなのか。物価も違うから、分からないのは変わらないが。

最低賃金でフルタイム働いたら、年収は? と計算してみる。現在の神奈川県の最低賃金は時給1162円。フルタイムは週40時間が50週として2000時間だから、単純計算で232万円か。手取り200万前後ってとこ? まあ一人なら、なんとか暮らせるかなあ。これがゼロ時間契約で労働時間が不安定だと、ちょっと無理があると感じる。東京圏一人暮らしだと家賃で100万くらい、そこに光熱費通信費食費…うーん。なかなかの地獄だね。

どこまでやったらクビになるか (大内伸哉)

会社つえー

15年くらい前に書かれた本か。15年前でこんなに会社強いんだ。ほとんど無敵じゃないか。今でも強いのかな。会社員ってのも弱い立場なんだな。いや15年前? それでこれか。意外だなあ。

構造的に個人で組織と戦うのは不利が多いわけだが、それでも部分的には勝てるケースがある、という感じなんだろうな。この本が何かの参考になるのかわからないけれども、社会的な問題ではあるから、判断は時代とともに変わっていくものなんだろう。法律ができたとか改正されたとか、そういうきっかけもでかいんだろうが、実際は世間の空気みたいなものの影響が大きいと感じた。

ブラックバイト 学生が危ない (今野晴貴)

タイトル通り、 ブラックバイトについての本。すげーな。人間はどうしてこうなのか。それを思わずにはいられない。残忍が残忍を呼ぶ。将来ある若者を使い潰して暴利を貪るわけだけど、酷使に走る暴力的な正社員もまた、搾取される側なんだよね。

業界によってそういう構造が起きやすいケースがあるらしい。個別指導塾がやばいなんてね。これは規制を強化するしかない。そうなのか。そうするしかないのか。シンプルに考えればそうなるんだけど、もうちょっとインセンティブに訴えかけるようなやり方は取れないのかな。

退職代行 「辞める」を許さない職場の真実 (小澤亜季子)

読点が気になる文章。シンプルに読点が多すぎて逆にのっぺりとしてメリハリが…ここ数年かな、割と多いんですよねーこういう文体。文字も大きめだし、もしかしたら老人向けの本なのかもしれない。この種の文体の流行り廃り、分析してくれてる人とかいないかなー

それはともかく、この本の内容は退職代行を受け付けている弁護士の述懐。家族や自分の事情を記述しつつ、自分のビジネスについて説明を加えていく。なかなか興味深く読めた。もうちょい本格的なやつを読みたかった? そんな気もするが、弁護士で事業者である人が実感を持ちつつ書いた内容という価値はあるだろう。この本が書かれたのは今から5年前か。退職代行もだいぶ市民権を得てますからね。

「年収6割でも週休4日」という生き方 (ビル・トッテン)

んなこと言ったってなあ。今の6割じゃ子供を大学にやれないんだよ。

と言いたくなるタイトルだが、会社帰りに通りがかるところにビルがある会社の、名物社長さんが15年前くらいに書いた本。

個人の小規模農業はいいなと思った。ド素人の私から見て、人糞肥料はぎょう虫との関連からやめたほうがいい気がしたが、まあそんなに大きな害でもないのかもしれない。肉に対しては味的な好意を持っているので、自分が肉食をやめるシーンは想像できない。クリーンミートには期待している。

新 日本の階級社会 (橋本健二)

「とくに本書を手にとった読者などは、高学歴のホワイトカラーで」という文がすごかった。それ言うの? そして、最後の章なんかは対象読者の多くが望んでいないとされた方向の解決案を提示するという構図になってたような…違ったかな。

階級社会についての真面目な本。2015年までの調査が元になっている。資本家階級、新中間階級、旧中間階級、労働者階級の4階級に加え、アンダークラスの出現で5階級に分類して分析を加えている。現在はまたこの現象が進行しているだろうか。いろいろあったからねー。コロナとかさ。

交通誘導員ヨレヨレ日記 (柏耕一)

出版業界の高齢者が、生活に困って警備員(工事現場や駐車場での車の誘導)のバイトをする。割と本気で、取材ではなく本当にやってる。こないだのあたらしい無職に似ているけど、より振り切れてる感じだな。

しかし70代だよこれで…私の祖父は80代まで生きましたが終盤はボケて徘徊、施設に入ったらあとは寝たきりだったので、活動できたのは実質70代まででした。父は70代で病死。なので自分も70代というのは生活のためにもがく段階ではなくて、終活するイメージでいたんだけど。今後の人生設計どうしよう。年金だけで生活費出せるとは思えねーし、警備員みたいな体使う仕事せにゃならんのか? 実際こういう警備員は70代が多いんだってさ。

あたらしい無職 (丹野未雪)

フリーの編集者の日記。非正規雇用の末に転職、人生初の正社員となるも1年で辞めてまたフリーに。ツテも多くて仕事もやってて、普通にフリーの編集者まるだし! って感じで、あんまり無職って感じでもないんだけど。日記形式で淡々と必要最低限の言葉を無駄なく連ねている。まあ後半はバイトとか借金とかしたりして、生々しい話では、あるよね。

「無職って感じ」って何かと言われるとまあ…よく分からなくなっていくわけですね。この本を読んで、さらによく分からなくなっていく。この人のこの状態は果たして、無職なのか? 本の中の描写では「求職中」すなわち「無職」みたいな扱いをされた場面があったりした。「無職」は求職すらしてない、ニート寄りの意味が強まる印象がある言葉。

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた (和田靜香)

ライター稼業、バイトとの兼業で生活してきた女性がコロナ禍に苦しんで政治を思う。その思いに国会議員で話のわかる奴が応じて継続的な問答を繰り返す。その学びの過程をそのまま文章にすることで読者に伝えていく。

議員はいいヤツに描かれすぎている感じはするけど、実際悪い奴じゃないんだろうと思うよ。映画やこないだの選挙でも話題になっていた、小川さん。同じ選挙区を争うのがメチャ強力な悪人(?)だからなー。

納得させられる議論も多かったな。人口減少の捉え方とか、デフレと消費税の捉え方とか、電力の問題の捉え方とか、沖縄の基地問題とか。問題の捉え方によって論理的に対応が決まるという面が大きいので、その構図の理解の仕方で納得できるかどうかというのは非常に大きなポイント。理解を間違えなければその後は、なんとかなるんじゃないかと思う。