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山椒の実

Category: Books

三体2 黒暗森林 (劉慈欣)

1の主人公の江森(字が違う)、出てこないじゃん。まさかのナレ死。どこで何してたんだよ…あの桃園の誓いはもはや遥かなる過去か。忘れちまったのかよ。アッサリしたもんだなおい。まあゼロの主人公も1には出てこなかったから、そういうシリーズなのかもしれないな。

史強が有能すぎた。丁儀は活躍したが脇役に。主人公はまた変換できないタイプの名前、と。

しかし本シリーズ最大のギミックは智子ですよね。なんなのあれ。もう智子が本体でいいじゃん。体、いる? いらねーよ。いらねーじゃん。物理肉体なんて最初からいらんかったんや!! 主人公っぽい名前だし。三体智子さん、日本人女性か。口調とのギャップが魅力な?

1ではあいつもこいつも三体人シンパだったが、2では分かってるやつはだいたい負け確にとらわれている。実際、智子の陰謀により基礎研究が制約を受けた状態でのイビツな発展と根拠なき大衆の楽観だから、負けるのは分かってたんだよな。探査機に対する艦隊の戦術も最悪だった。そこからの主人公面壁者の秘策。秘策つってもしっかり実験しているので、周囲の人に意図が読めないのは不自然なんだけどねえ。ラストも良かった。開幕のねっとりした描写が生きたな。

インストール (綿矢りさ)

ティーンエイジャーのダラダラした独白が続くのでウンザリする人も多いだろう。しかも親に隠れて不登校とは。ゴミの捨て方もなってない始末。そんな開幕からの怒涛の展開に度肝を抜かれる…と言ってもマンション内に限定された、コップの中の嵐なんだけど。なかなか良かった。割と、意外に、肝も座ってる感じで。

もう1つの短編(you can keep it)はちょっと恥ずかしい話だったなあ。なんというか。言い方だけど、すごいイヤな感じだった。だってそんなのって、どうなんだ。大学時代の先輩がこんな感じだったのを覚えている。最終的には、慕われていたと思う。憎まれるということを避けるにはいいのかもしれないけど、イヤな感じはする。私も一度コンビニの菓子パンを奢ってもらったことがあるのは覚えている。普通にタカっていると表現できそうな人もいた。そういう意味ではこの作品も、心に残る文芸の物語と言えるだろう。

三体1 (劉慈欣)

ゼロを読んでからだいぶ経ったなあ。と思って本編に。どういう単位でこの感想文的なエントリを書けばいいのか、という問題はあるよね。まだまだ続くから。まあ、気が向いたタイミングで書きたくなり次第、書くだろう。義務じゃないし。

本書に登場したことで話題を呼んだこのVスーツは実際に市販されており、Amazonで発注することができます。割とヒットしたと思う。置き配にも対応していたこともあり、私も試してみました。果たしてなかなかの没入感で、三体星系生活のリアルなストリート感覚が味わえた。これは登場人物がことごとくクセになるのもうなずける。ウソですが(念のため)。

全球を揺るがした球電事件で林雲と活躍した丁儀は名付きではあるがまだモブの域を出ていない。一戦交えて多大な被害を受けた中国と米国はまだギクシャクしているのか、米国人よりもNATO系の人が国内ではメインストリームとの距離が近い感じ。

ニワトリを殺すな (ケビン・D・ワン)

ひどい、殺さないで! お願い!!

ビジネス寓話。本田宗一郎モデルの。短くて老人向けのような構成の読みやすさがあり、朝の読書にちょうどいい、って感じ。

ニワトリは傷ついた仲間を寄ってたかってつついて殺してしまうらしい。事件の匂いがする。失敗して傷ついた仲間を責めるのではなく、注力すべき部分があるだろうよと、そういう話だ。銀行から飛ばされてきたビジネスマンが社長から講義を受ける。一日でどこまで行けるかな。

まあ最近はそういう会社も少ないんじゃないか? 失敗を責めるなんて。無意味だ。問題が判明したんなら、解決したほうがいい。原理的に無理なら諦めて次のことをするか。

ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス (栗田シメイ)

いやー、迫力のある本だった。「渋谷の北朝鮮」の異名を誇る物件。幡ヶ谷なんて通勤で毎日のように通過しますが。東京にもこんな秘境じみた建物があるんだなあ。むしろ東京だからこそ、か。

私もマンション時代は管理組合の理事やったことありますけどね、だいたい回り持ちで任期1年だったかな。管理会社がしっかりしてれば、たいがい大丈夫なんだけど。途中で大規模修繕や管理会社変更なんていうドラマもありましたが。このマンションは自主管理に移行して悪化したんだろうな。

作家刑事 毒島 (中山七里)

文筆業を志す人が、編集者なり先輩なり、関係者を恨んで殺す。それを毒舌の作家で刑事の毒島が解決する、と。これって内輪ネタの部類なのかな。短編で、セリフも展開もテンポが良い。あっさり解決しすぎだろうけど、軽く読めるというメリットもある。あと被害者も割とロクでもない奴ばかりというか、罪悪感がない。犯人たちの異常性も強いけど、被害者もたいがい異常という。

しかしこれってトリックはあるものの、毒舌で挑発に乗った犯人が自滅するだけ…こんなのアリ? と思ったけど徐々に謎解きしてから罠にかけるような動きになっていたので、それなりに安心できた。

冬に子供が生まれる (佐藤正午)

あのなあ佐藤、似た名前の登場人物を出すなよ。あだ名入れ替え記憶改変までやったら、もうついてけないんだよ。そもそも誰視点だよこの怪文書は??

と思いながら読み進めるワケだが、果たして期待以上の出来だった。さすが佐藤正午。この、外さない信頼感は抜群だよなあ。このテーマでコレ書けますか普通。普通じゃないことが起きる話…だけどふわふわ感をそのままに進行して、そして終わるという。

マルユウとマルセイ、そして佐渡と杉森、湊先生、ワッキーたちの物語。UFOに2度までインプラントを施された男たちの後日談が語る真実とは。ジェダイマスターが出てきて斬りまくって爽快に去っていく。自分の中のフォースを信じろ。

あの駅に願いをこめて 南大沢編/仙川編 (岩井圭也)

京王線が企画した、駅周辺を歩いて謎解きをしながらサイドストーリーを楽しむ小説。これは2期目の2-3話目。紺色の封筒に気をつけろ!

冊子は駅で配布していて、ネットで序盤だけ読める設定? と思っていたが、手近な啓文堂(京王線系の本屋さん)に普通に置いてあった。入れ替わりの時期だったからか、2冊同時にゲットできてラッキー。1期の「いつも駅からだった」シリーズは終わっていて、今は「あの駅に願いをこめて」シリーズをやっている。1期はまとめて文庫本にもなっていた。

生物と無生物のあいだ (福岡伸一)

分子生物学の勃興を振り返る本。著者はその真っ只中で、研究者として過ごした。その光と影。学者の世界を垣間見られる。

ラセンとかガン、タンパク質をカタカナで書くのはこれ系の人では共通しているのかな。タンパク質はそれほど違和感ないけど、外来語ではないよね。以前に「癌」をカタカナで書くのは怪しい素人、プロは漢字かひらがなだ! みたいなネット言説を見たことがあるが、やっぱデタラメじゃんw

もともとは校正の本に出てきた本で面白そうだと思って読むことにしたんだ。校正の本で議題に上がっていた冒頭のマンハッタンの観光船の話は確かに絵になる。

エイブリー、シャルガフ、ワトソン/クリック、マリス、シェーンハイマーを始めとして、あのシュレーディンガーまで出てくる。学術の歴史が紡ぐ、生命の神秘を辿る道。

うどんキツネつきの (高山羽根子)

評価に困る作品だよな。表題作の主人公は描写が乏しいし、明らかにグラフィックの描き込みが違う、こいつ…モブじゃないぞ! と思ったやつが一瞬でモブだったり(わざわざ名前つける意味あんの?)、故意としか思えないほど貧相な描写で裏切り続けてオチがまた。実はタヌキでした、と言ってくれたほうが良かった。三姉妹設定も生きてないし、捨て犬の捨て方の凄惨さからの一代記としても、犬自体の描写もほとんどないから。

そういう表題作の他にも独特な空気感を持って軽くSFかホラー的な風味をつけた短編がいくつか。こういうの好きな人いそうだよね。16人産む話やラジオの話など、奇妙な後味がある。