朝まだき、川霧が田の畦を低く流れ、村はいつもより半刻早く目を覚ました。山の社から牛車が下りてくると聞いたからだ。先頭を歩く長老の樫兵衛のうしろで、荷台のむしろがやけに丸く盛り上がっていた。
触るな。まず寄合だ。
樫兵衛の声は低かったが、村の者はみな足を止めた。むしろがほどかれると、そこには桃があった。桃と呼ぶには大きすぎる、石臼ふたつ分の丸い実だった。薄紅の皮には、川面のような筋がゆらゆらと走っている。
朝まだき、川霧が田の畦を低く流れ、村はいつもより半刻早く目を覚ました。山の社から牛車が下りてくると聞いたからだ。先頭を歩く長老の樫兵衛のうしろで、荷台のむしろがやけに丸く盛り上がっていた。
触るな。まず寄合だ。
樫兵衛の声は低かったが、村の者はみな足を止めた。むしろがほどかれると、そこには桃があった。桃と呼ぶには大きすぎる、石臼ふたつ分の丸い実だった。薄紅の皮には、川面のような筋がゆらゆらと走っている。
炭が、ぱち、と鳴った。
夜番の詰所は、廊下の角にへばりつくようにある。几帳の裾から入る冷えは遠慮を知らず、壁際の火桶だけが、ここはまだ人の居るところだと赤く言い張っていた。
乙丸は、その火桶へ両手をかざしたまま言った。
「わしは今日、三度、死にかけた」
向かいの末成がすぐ食いつく。
「三度とは小さいな。おれなど五度だ。いや六度でもよい」
「勝手に増やすな。六度も死にかけるやつは、もう一度くらい本当に死ぬ」