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山椒の実

Category: Mystery

ネクスト・ギグ (鵜林伸也)

音楽の流れる推理小説。ロックで、その表現が素晴らしい。こういうことなんだよなー。鳴ってるもんね、音が。文章で鳴らすのは想像以上に難しいはずだ。こういうことなんだよなー。こういう本を読んで暮らすのが理想の生活なんだよね私にとっては。

謎も、謎解きも良かった。折々に衝撃展開もありながら、ラストの読後感も良い。ロックとは。真っ直ぐで、それでいて色んな方向に曲がり転がる。いやー、ほんといい本を読んだね。

名探偵と海の悪魔 (スチュアート・タートン)

なかなか重厚で素晴らしい物語だった。しかし最近だと2段組は珍しい。

登場シーンの少ない囚われの謎解き人の周囲の人々が、船中に巣食う呪いを解いていく。いくんだけど、いろんな事柄と死が起こって、果たしてこれはどうなるの? どう収拾つけるの? と疑問に思いながらも読み進める。トム爺…じゃなくてトム翁か、コミカルな名前とは裏腹に、かなりのホラーが入ってるね。ゾンビが出てきても納得するくらいな空気だが、出てこない。

かなり良い読書体験だったのは間違いないけど、このラストはどうなんだろう。この主人公は欠点がない奴だけど、傷つきすぎているし。時代背景を考えて納得するしかないのか。

ゴースト 二係捜査 (本城雅人)

このシリーズ。また穴掘り事件だ。前作前々作に引き続き。これまでは、悪人がただただ悪人であるという特徴があるが、今回はどうか。タイトルを見て、ゴーストとはもしや、、、ポケモンでは? と思ったが、結末はどうだったろうか。

今回もまあ、そうだった。こういう謎解きは時として鮮やかなものだが、犯罪とはなんなのかな。このシリーズは、毎回そんな気持ちになるよね。人生の間違いは、それと気づかぬうちに始まっている。

いくさの底 (古処誠二)

ちょっと珍しい時代設定の推理小説。二次大戦中のビルマの村に、日本軍だ。チジマスターだ。戦闘シーンはあまり出てこないので安心だ。殺人事件は起きるから、死人は出るのだが。

かなり面白かった。まさか、そう来るとはねえ。謎解きも良いし、謎解き以上のものも良かった。次郎長と石松。有能すぎる人物も出てくる。

真実の檻 (下村敦史)

あーこれ「同姓同名」の著者ですね。なるほどそうだったのか。昨日よりも大きな檻。

冤罪をテーマに事件の真相を追っていく。その本丸は死刑囚の、実父。この著者で、このテーマは燃えるね。必然だ。案の定、序盤からズルズル、音を立てるように惹き込まれた。

のだけど、中盤以降の展開のスピードが…ちょっと描写が薄いまま物語が進行して行くので、そこは抵抗があった。詰め込みすぎじゃないだろうか。幾重にも折り重なる真実の多面性は鮮やかだが。

ある誘拐 警視庁刑事総務課・野村昭一の備忘録 (矢月秀作)

被害者との接点なしの難事件に、久々の現場に出る。現実世界でも、虚構世界でも、なかなか成功しないよね、誘拐って。作中にあるようにランサムウェアのほうが成功率が高い。まあその場面は、だいぶ非現実的な描写だったが。

描写を見るに、身代金の受け渡しを考えると犯人を捕まえるのはイージーだと思った。シンプルにビットコインでも要求すればいいのにな、という感じがする。やっぱ時代はマルウェアだよな。物理人間の誘拐なんて割りに合わないよ。

名探偵の生まれる夜 大正謎百景 (青柳碧人)

近代日本の人物や故事を元に探偵物語が繰り広げられていく。この作者はこういうの好きですよね。持ち味を存分に発揮した作品が続く。中村屋のボースで開幕しつつ、ラストの衝撃もしっかり確保。これは期待できる。思わずWikipediaを読みふけってしまう。なるほど史実ベースでひねりを加えて、こうなるのか。新解釈というか。

まあ、そういう話です。この著者らしいあっさり感。意外な悲劇も起きないし、爽快感もあり、こういうのも悪くないね。ただ、もうちょっとネットリ書いたやつのほうが好みというひともいるだろうね。

戦力外捜査官 姫デカ・海月千波 (似鳥鶏)

活躍の余地がなさそうなキャリア警察官とカラテマンの刑事が西東京を走り回って犯人を追い詰める。最後は東京駅から皇居に突入(してない)か。割と楽しめた。

個人ブログとかもう死に絶えてるんだよなあ、と思うシーンもあった。なんに殺されたのかは議論の余地がある。まあオタクならしょうがないか、などと納得するのだが。あと今は自動制御のドローンだから、犯人もこんなことする必要がない時代になった。犯罪もはかどる技術革新。

豹変 (今野敏)

一人称を「わし」にしようとして何度失敗したことか。我が人生を振り返ると失敗の連続しかない。そんなことを思う開幕からの、事件の連続。息をつかせない展開。悪くなかったね。怪異であってサイエンスでもある、説得力ね。能力者の能力が、覚醒する。この襤褸襤褸たる身体に宿りし邪悪なる…そして背中の傷跡すらも聖痕となりて…

結局狐は狸だったのか、まさかそんなことがあっていいのか。主人公の偏見的な物見はどういう方向に向いているのか分からなかったな。なんかのスパイス的な意味があるんだと思うけど、あんまり効いてなかったというか、必然的な描写ではなかったと思うなあ。解説を見るとシリーズものだったので、この性格づけは他作で行われたものなのかもしれない。

レゾンデートル 存在理由 (知念実希人)

アンパンマンのテーマのようなタイトルだな。そう思って読み始めたこの物語だが…

剣豪伝説? 達人級の連続殺人鬼とは言え、いくらなんでも殺しすぎじゃないですかバトルロイヤル形式ですか、と言いたくなるくらい死んでいった。文章は普通に上手いので一気に読めた。こんだけ死んでスプラッターにならずに済んだのは著者の医学的知識によるものか、犯人の腕の良さか。これがデビュー作らしい(犯人ではなくて、著者の作家デビューね)。伸びしろとかを感じるべき? もう、今さらだよなあ。