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山椒の実

Category: Books

硝子のハンマー 「防犯探偵・榎本」シリーズ (貴志祐介)

こんな感じだったんだ。榎本シリーズの第一弾。ミステリークロックの時だとこんなんじゃなかった気が。本作も気球トリックを使えば実現できたんじゃないのか。この時点では思いつくほどの実力がなかったということか。成長著しいと。

本作はこれまたとんでもないトリックを、技術に秀でた泥棒が暴く。犯人側もかなり強力な知能と根気、体力、技術を持っている。被害者側もまた強い。休日出勤で秘書を何人も駆り出しているのは非効率も甚だしいが、それ以外は一分の隙もない。そんな強者同士の戦い。サブ主人公の弁護士の女性はまあ…

割と楽しく読めた。シリーズの他のやつにも手を出そうかなあ。

ぼっちママ探偵 最後の一行まで真実は謎 (南口綾瀬)

ぼっちを強調しつつぼっちっぽくない気もする描写が続く。いやぼっちか。まあいいけど、なんなんだこの空気感は。

大きな事件もなく子供の周辺で起きるトラブルを人知れず解決していく。過去の記憶、そして今の観察。それが自然な形で決着がつくように取り計らう。善意が多い。

ラストは良かったな。そうなるのねー。

脳は意外とタフである (池谷裕二)

ちょくちょく致命的にバグることで有名な脳という器官に関するエッセイ集。雑誌の巻頭エッセイを集めたもので、ひとつひとつは非常に短い。短いながらも脳に関する知見を紹介しながらうまくまとめたものが多いと思いますね。時事問題にも触れているので、ああこの頃の話かー、などと思いながら読むことになる。

まあちょっとずつ軽い気持ちで読んでいくのにはいい本なんじゃないかな。後に残る感じではないけど、気楽に医療雑学を読む、みたいな感じ。

ゲーテはすべてを言った (鈴木結生)

いやウェルテルのやつを書いた小説家だろ、と思ったら、哲学だのなんだの、変態ロリコン活動を含むいろんな活動をしていたジジイらしい。ふーん、あんたそうだったんだ。

ゲーテ曰く、ベンツよりホンダ。ゲーテ曰く、ギョエテってもしかし俺のこと?

そんな魅惑の古人の語録がふんだんに取り入れられた物語。主人公は高潔な人物だったからごあんしんください。ゲーテマニアの大学教授とその周りの話で、実際小説の出来はかなり良い。

最終的には、ファウスト読まずには済まないなこりゃ。青空文庫にある訳は良質なものなんだろうか。と思って森鴎外訳のファウストを読み始めようとしたところで…思いとどまった。この訳に関する雑文もあったので、それは読んだけれども。

君の顔では泣けない (君嶋彼方)

このトーンで人格スワップ事案、それも多年に渡る継続。結婚や出産をも経る。それを描く。なんだこの才能は。かなり良かった。ボーナストラックのアナザーストーリーもあり。

いやーこんなことがホントにあるんですね。驚きましたよ。現実とは思えない、しかし現実としか思えない、俺たちのリアル。人格入れ替わり劇の9割はヤラセって言いますけど、なんでこんなことを起こしたのか、神は説明すべき! ドンッ!!

そんな感想すら出てくる文章力と日常ストーリー。登場人物もそれぞれ、さして接点のなかった異性を演じきる胆力を見せた。うまくできないながらも、奮闘する。女同士の友達付き合いができずに破綻するとか、近い人には変化がバレてるとか、性愛とか、そういうリアルも。それぞれの友人や家族たちにも固有の熱量がある。ただセクハラ教師、オマエはダメだよ。地獄に落ちろよ。

悪母 (春口裕子)

ママ友世界の狂気的な人間関係。やばいね。やばすぎる。実際そういう面があるからね。親同士の関係、子供同士の関係、親と子供、親とヨソの子供という関係性が絡むからな。子供に危害が加えられそうとなった時に、反応するような本能があるから。こーゆうのがあるから男親は参加しづらいんだよね。やめてほしい。

そしてこのストーリーはなんのつもりかな? 気が滅入るなんていうレベルではない。やる気も希望も滅殺滅殺滅殺だ。微粒子レベルまでだよ? どうなのか。このオレですら疑問を呈する。ひどい。

永遠についての証明 (岩井圭也)

数学者という、我々(誰?)にとっては宇宙人とも言える人々に関する物語。まあそういう意味ではSFのファーストコンタクトもの?

非常に良かった。数学者としての人生。仲間の人生。変えていく。変わっていく。物語の波がある。主人公の絶頂と転落、死と再生。数学が繋いだ縁が生きている。モデルはあの人ですかねえ…数学界のことはよく知らないけども。

生活能力ないやつを野放しにしちゃダメだよなあ、と思いつつも、本書の奴のような天才ならいいけど、普通のやつにまでお世話係を置くのもどうかと思うしなあ。昔からある話。「死後評価される」という点も、昔からある話ではあるから、最初から最後まで昔からある話ではあるのか。気づいているけど、助からない。気づいてあげているけど、助けられない。

マイ・ハウス (小倉銀時)

ほとばしる狂気と狂気の激突だ。スゴいぞ!

戸建てを買って一発逆転。よく分かるよ。わかりすぎて困るほどに。理解力のない病的な先住民ありの競売物件に家族の有り金丸ごとブッパした狂戦士のような母親。そしてこの母親がマトモに見えるほどの家族、そしてさらに上を行く先住民。

時折関わる常識人や非常識人もいい味を出している。

いつかの人質 (芦沢央)

ノエルと礼遠の話は印象的で良かった。ここまで印象的に仕上げるなら時間操作とか言ってたのがあからさまに伏線だろ、と思っていたら。なるほどそうなるか。

しかしこの被害も理不尽だなあ。加害者っつっても最初の描写としてはかなり不可抗力が大きい。小学生にはどうしようもない事態だし、大人が悪いと言えば悪いわけだけど、そこまでじゃないよなあ。事故に近い。悪意がなく、だけど被害は大きい。だから被害者の家族の怒りは、筋違いではないか。

一億円のさようなら (白石一文)

カネを持ってて使わない。まさかの死蔵。なんという害悪プレイだろう。金利もつけない。何のために? あなたの手元にそんなカネが大量にあったとしたら? そんな小説。開幕一億円からスタート。全貌はさらに大きな額だが、何が変わる。

一億円とは無関係なところから次々に明らかになっていく秘密。どう対処するか、そこに一億円の影響は。金とは無関係な魅力の宝庫の中で彼は何を選ぶのか。

飲み屋で飲んで地元のうまいものを食べる。それが最上の幸せだったのか。まあ美化しすぎというか、キャラクターを理想像に近づけすぎな感じもしたのは気になった。