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山椒の実

Category: Books

新釈走れメロス 他四篇 (森見登美彦)

自分には激怒したことを相手に伝えるために考え抜かれたフレーズがある。

「激怒させたらメロスかオレか」「マジでやばいよ、オレが激怒すると」「天は落ち、地は割れ、海は干上がり、世界は闇に包まれるよ?」

そんな与太話はいいとして、ご存知、初手激怒のあの男がタイトルにある。その実、堂々たる主人公は京都の李徴子こと斎藤秀太郎さんだ。天才的!

えー、京大文学というジャンルはあるのかな? あるのなら、そこに属することになるのだろう。

三百年の謎匣 (芦辺拓)

なんだコレ…収拾つくの? 不安になる。

バラエティ豊かな物語の数々をまとめてスッキリ謎を解く真の主人公の風格。もうちょっと描写があってもいいよねえ。ちょっとは考える時間を作って、悩め。

物語自体は年代も場所も様々で、まあ多様すぎた面はある。というわけで、翻訳したっつっても限度があるだろうと思うよ。最近のAIだと各種の各年代の言語からうまいこと翻訳できる、という設定でも入れとくか? と思ったりもした。300年なら、それほど変わってないとも言えるが、日本語だって300年前の言葉は今はだいぶ通じないし、普通の人には読めない、古文書の類だよねえ。

灼熱 (葉真中顕)

ブラジル移民の話。あのワイルド・ソウルを思い出しながら読んでいく。棄民、勝ち組と負け組の抗争…田舎の村に殖民した人々の人間模様。

太平洋戦争の勝敗が裏返るのはディックも書いたようなテーマだけど、この勝ち組負け組問題は、大小さまざまあるんでしょうね。史実があるから説得力もでかい。

この本自体は、なかなか重厚な物語だった。序盤から不穏な表現が散見されるが、それが明らかな伏線になっていて、しかしなかなか姿を現さない。後半の展開もかなり衝撃的だ。名乗りもしっかりアツい。

ネクスト・ギグ (鵜林伸也)

音楽の流れる推理小説。ロックで、その表現が素晴らしい。こういうことなんだよなー。鳴ってるもんね、音が。文章で鳴らすのは想像以上に難しいはずだ。こういうことなんだよなー。こういう本を読んで暮らすのが理想の生活なんだよね私にとっては。

謎も、謎解きも良かった。折々に衝撃展開もありながら、ラストの読後感も良い。ロックとは。真っ直ぐで、それでいて色んな方向に曲がり転がる。いやー、ほんといい本を読んだね。

名探偵と海の悪魔 (スチュアート・タートン)

なかなか重厚で素晴らしい物語だった。しかし最近だと2段組は珍しい。

登場シーンの少ない囚われの謎解き人の周囲の人々が、船中に巣食う呪いを解いていく。いくんだけど、いろんな事柄と死が起こって、果たしてこれはどうなるの? どう収拾つけるの? と疑問に思いながらも読み進める。トム爺…じゃなくてトム翁か、コミカルな名前とは裏腹に、かなりのホラーが入ってるね。ゾンビが出てきても納得するくらいな空気だが、出てこない。

かなり良い読書体験だったのは間違いないけど、このラストはどうなんだろう。この主人公は欠点がない奴だけど、傷つきすぎているし。時代背景を考えて納得するしかないのか。

遊びの時間は終らない (鈴木光司, 天祢涼, 嶋中潤, 都井邦彦)

競作短編集。統一テーマは、終わらない時間?

最初の樹海のやつがすごかったな。回り回って。これは終わらんよ。でもまあ、そのうち終わるかなあ。いやもうちょっと続くだろうな。なんて思いながら読んでいく。楽しい時間だ。読書ってのは、こうでないと。

他のやつもそれぞれ、かなり良い出来だった。それぞれに、それぞれの臨場感がある。終わらない時間というテーマに関しては最後の銀行強盗のやつが一番テーマに合っていたかなあ。あれは終わってない。吉祥寺は元々人多いから町おこしみたいな流れにはならないと思うけどね。

ゴースト 二係捜査 (本城雅人)

このシリーズ。また穴掘り事件だ。前作前々作に引き続き。これまでは、悪人がただただ悪人であるという特徴があるが、今回はどうか。タイトルを見て、ゴーストとはもしや、、、ポケモンでは? と思ったが、結末はどうだったろうか。

今回もまあ、そうだった。こういう謎解きは時として鮮やかなものだが、犯罪とはなんなのかな。このシリーズは、毎回そんな気持ちになるよね。人生の間違いは、それと気づかぬうちに始まっている。

巨大IT企業クラウドの光と影 (ロブ・ハート)

なにこれw 紹介の文言がおかしいだろ。光と影と題しておいてフィクションの潜入ルポルタージュて。ふざけるにも限度がある。どうせ貧弱な著者の想像力に任せた先入観しかないデタラメ並べてんだろ? そう思って読み始めるのだが…

とりあえずこの描写だとドローン通販会社であって、IT企業じゃなくないか…まあAmazonとかはAWSがあるし確かにIT企業なんだけどさ。

「俺はそういうのが好きなんだ」どういうこと?

このディストピアで、3人の物語がそれぞれに進み、クライマックスへ向かう。設定はかなり壊れているが、ふわふわ感は少なくて、描写には肉感というか、リアリティを感じる。この分野も発展していっているということなんだろうな。まあ小説としては面白くできてるんじゃなかろうか。終盤の壊れっぷりも悪くなかった。クラウドバーガーうますぎワロタ。やばい。

をんごく (北沢陶)

樒なんて「樒/榁」の本を読んで以来だ。そうじゃなきゃ読めないよ「しきみ」なんて。

しかしユーモアのあるホラー、面白かったな。恐怖がありつつも、それだけではない。愛があり、愛嬌がある。当然、ホラーもある。

かなり楽しめたし、美しさのある物語だった。商家の関西弁と、時代設定の勝利だろうなあ。商売繁盛!

花歌は、うたう (小路幸也)

歌うたいの物語。ずいぶん都合がいいな。町内の人物の闇のない独白が続く。闇がなさすぎて逆に怖い。現実感が薄い。結末も早くから見えている。この空気で何かが決定的に傷つくわけがないんだよ。どうしよう、読むべきか、やめるべきか。一応最後まで読んだ。

表現は難しいな。そう思った。天才とか、才能があるだのないだの、それを文章で表現するわけだけど、まあ出来ないよねえ。どういうイメージなんだろうな。尾崎豊あたりで考えればいいのだろうか。流れ星のようにステージを駆け抜けて、いなくなってしまった歌手。