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山椒の実

Category: Books

ラストパス (中村憲剛)

Last Passなのか、Pathなのか。ダブルミーニングか。

川崎の歴史書を書くとしたら、3段ぶち抜きで書かれるであろう、伝説の名選手による引退までの5年間の手記。さすがに憲剛ともなると、文章力もあるなあ。よくあるスポーツ選手の本に見られるゴーストライターっぽい文章ではないけど、自分で書いたんだろうか。スポーツ選手の本にしては分厚い(380ページ)。それでも書き足りないくらいの熱量がある。

自分で引いた線。40歳までの5年間を過ごしたアスリート。真似できかねる偉業をやってのけた。理想の引退の形と言えるだろう。大怪我から復帰してなおJ最強チームで活躍していたし、まだ何年か一線でやれたのは確実だが、その状態で辞めたかったのだ。

オーパーツ 死を招く至宝 (蒼井碧)

「ぺき」っていう名前も私の世代だとかなり珍しいけど、最近は多いんだろうな。それはどうでもいいとして。この本は、冒頭からぶっ込んでくるドッペルゲンガー設定をどのくらい生かせるか、という話になる。密室特化の推理小説。いわゆる本格ってやつ? 暇つぶしには悪くないか。実は生き別れた双子だった、なんてことがあればと思ったんだけどね。そこは謎ではないのね。

結論としては、まあまあ楽しめた。1本1本がそれほど長くないし、記述も素直で気楽に読める。

エフィラは泳ぎ出せない (五十嵐大)

兄の死という事件と向き合う。死が導くその先にあるものとは?

うかつにこんな重い話を読み始めてしまった。推理要素のある娯楽小説のつもりだったんだけどな。気づかないよ読む前に。後悔しても遅い。重たいが、読まずにはいられない。

個人の人格を無視して、寄ってたかって。まさかねえ。描写は巧みで、現実感がある。そして、鉛筆画ですかね、描いた絵をあんまり人に見せなかったんだなあ。お金があれば、たまにギャラリー借りて個展でも開いたらどうだったかな。そんなことを思う。主人公や幼馴染は責められていたが、立場的には何の罪もなかろう。実際のところは、大人が悪い。

君が手にするはずだった黄金について (小川哲)

なんというか、プロローグがここまで良い小説は珍しいんじゃないか? これだけで完結してもいいくらいの物語。短編集だが、著書自身のような読書家の小説家が語る、虚構なのか自伝的小説なのかエッセイなのか。そんな感じ。

文章はかなり上手かった。記憶改変は誰にでも起きること。

私は裏主人公の片桐とババを思う。虚飾に彩られた社会との関わり。虚構の魔術師並のスキル持ち著者の記憶が都合よく改変されがちな状況からの描写だけどさ、そこは差し引いたとしても、どういう人生だ。自分でない何者かになろうとして、それが叶わない苦悩なんてのは、ディックが好むテーマでもある。

あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント (立川志の春)

なかなか良き話であった。著者や落語への興味も導きながら軽快に話が続く。私は落語とは縁のない人生を歩んできたものの、楽しく読めた。実際敷居の存在を感じていたが、機会があれば、という気にまでなった。

あとはこの人、こういう人生もあるんだなあと。超エリート街道から落語家にドロップアウト? して、多種多様な気づきと学びを得て進んでいく。若い頃というのはこういう、一生夢中になれるものを見つける時期であって、この人が落語を発見できたというのは良かったなと。シンプルに。いい話だよ。

ふうてん剣客 狂太郎きてれつ行状記 (菅野国春)

赤穂浪士の討ち入りをベースにした娯楽時代小説。重厚さには欠けるか。暇つぶしにはいい読書だったかもしれない。それ以上の感想は特にないような?

まあちょっと簡単に斬りすぎですけど、そこは時代劇だからなー。題材的に、登場人物のほとんどが死亡エンド確定ですからね。

あとは、同題材で用心棒日月抄(藤沢周平)ていう傑作があるのも辛いところ。どうしても比較の対象になってしまって、分が悪い。まあ読み始めたのも、あれと同じ時代だなと思ったためだから、違う題材なら読んでなかっただろうし、そこはどうとも言えないな。

シャングリ・ラ (池上永一)

序盤を読んで、かなりの良作では? と思った。ニンジャスレイヤーにも似た世界観の狂った東京で。重金属酸性雨ではないが殺人スコールが降り注ぐ。スモトリとジュージツ使いが戦い、ブーメランが戦車を切り裂く。次世代兵器、経済戦争。これが真のニンジャのイクサだ。

主要人物の描写はいろいろと問題作になりうるなあ。常識人がいない。センシティブな表現が惜しげもなく並び踊っている。書かれたのはまだせいぜい平成中期までだなと察してしまう。令和でこの表現は成立しない。トシもとるわけだよ、ホントにさ。

サイバースペースの地政学 (小宮山功一朗、小泉悠)

2024年のチバシティ・ブルーズ。まあギブソンあんまり合わなかったんだよね、ニューロマンサー、途中で挫折して最後まで読んでないんですよ。若かりし頃のちょっぴり痛ましい思い出。つまり同じSF者同士でも、ギブソンに毒されてるやつとは話が合わない可能性があるんだよな。

SF風ノンフィクション? モキュメンタリー風にしても良かったかなあ。語り口は果たして私には合わなかった。他に何の感想も浮かばない。書いてあることには特に意外な内容もなく、淡々と知られている事実をなんかそういう系の文体で綴っただけという。それでも、前半は割と良かったかな。キレまくっている海底ケーブル、ケーブルシップが希少で修理が大変、みたいな。実際に海底ケーブルが切れると大変だろうなっていうのは思う。

ライト・スタッフ (山口恵以子)

はじめにロゴスがあり、光あれ、と。そういう話だろうな、たぶん。と思って読み始めたこの物語。

映画の全盛期に照明チームで奮闘する若者の人生を描く。光の速さで駆け抜けた人生。展開が早い。映画の構成を意識したのかな。ワンシーンごとに絵が思い浮かぶような書き方ではあった。

まあそれぞれ、モデルはいるんだろうねえ。私にはよく分からなかったが。あれはこれか、これはあれか、みたいに読んでもいいのかもしれない。疎い人には厳しいところ。

凡人として生きるということ (押井守)

オメーは凡人側の人間じゃねーだろうが! というツッコミを待っているかのようなタイトル。

内容は机上の空論ですらないN=1の本人の人生の感想文。くだらなさ過ぎた。薄いから良かったようなものの、内容はさらに薄いというね。ジジイの独りよがりの人生訓! て感じ。まあ中盤以降は自身の経験の語りを織り込んで少しは持ち直したが。少しはね。

まー、これが許されるだけの本業の実績があるってことなんだろうな、という感想は出てきたよ。あるいは文化人枠として自分の新書を本棚に置いときたかったのかも。そういうモチベーションだったら理解できるが。仮に功成り名遂げることがあっても、こういう本は書きたくないな。いやー久々にクソ感想を書く羽目になったよ。視力が劣化して読書に支障が出ることを恐れながら、我が人生で残り多くない読書の時間。読む本はもっと厳選するべきだと思いました。マジでなんで最後まで読んだんだ?