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山椒の実

ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか? (高野 誠鮮)

田舎の山奥の段々畑(棚田)、限界集落と化した地区を再生させようと奮闘した役人の話。意地悪く読もうとする自分と素直に感心しようとする自分がいた。

例えば、限界集落で子供が消え、保育施設もなくなった。そこに30代の夫婦が入ってきて、何年かぶりにその地区で子供を産んだ。地域のみんなで関心を持って協力する。まあこれ美談なんだけど、子供は子供が好きなんで、まわりが大人だけってのは私にはちょっと抵抗が…。それにこの地域には小学校とかもないんじゃないか、と思ってしまうのだ。このあと小学校進んだらどうするんだろう。隣町まで通うのか…そもそも隣町にも子供はいるのか…隣町って何キロ離れてるんだよ、みたいなね。私も小学校は田舎(と言っても田舎の中では都会なほう)で、家からはかなり離れていたという記憶がある。いまGoogle Mapで測定したら、直線距離で2km。小学校低学年の足だと1時間くらいかかるかな。大人でも毎日徒歩30分の距離は遠いと感じるところ。今なら走れば10分もかからないか。この話のように山奥だとアップダウンもあるし、距離ももっとありそうな…。足腰は鍛えられそうで、自分はもともと足腰強めだったから苦にはならなかったが。

実際は役所でムチャクチャやって人脈も活かして頑張って成果を出している。まあこの場合は限界集落と言っても末期ではなくなりたてで、まだ労働人口もあって農作物はけっこう作れてる状態なんだよね。若い人がいなくなった、という段階。自分で書いてるので自画自賛にはなっているが、実際にこれをやっているわけだからね。同じことやれと言われてもできない人がほとんど全員でしょうよ。

タイトルのローマ法王献上米については、最初に天皇にトライしたが、ダメだったので地名にかこつけてローマ法王に献上することになったらしい。この時天皇路線でどうにか粘るか他を当たるかで分かれ道はあったみたい。で、ローマ法王ですよ。ああいう人って米なんて食いますかね、なんて言ってはいけない。とにかく話題を呼んで米が売れる。棚田オーナー制度も第1号はイギリス領事館員とかだったらしいが、日本人を動かすには外から認められていると知らせること、というのは真理を突いていると思う。とは言え、もともとここの米はかなり美味しいものだったらしい。過疎の限界集落といえども、それまで漫然と過ごしていたわけではないのだ。この役人が一人現れることによって救われた、というよりは報われた、と思うのが正しいのだろうと思う。あと、アメリカの人工衛星からの精度の良い測定の話とかは非常に役に立つ話。これに文句をつけた日本の商社の人の思いも分かるんだけどね。

他にもいろいろな策を打って、この集落は上向いているようだ。こういう行動力のある人って貴重ですよね。逆に、これだけやれる人が最初の5年間は月6万くらいで雇えてしまう(!)ところに日本の病巣があるのかもしれないな。

ともかく、この本では、のっけから激しい。普通にやっていてこれまでダメだったわけだから、といってやることにしたムチャクチャっぷり。役人なのに会議をせずに勝手に動いて事後承諾というスタイルを貫くという。この人は宇宙関連で実績があったという状況であるものの、普通はそれ無理でしょ。それを許した市長の器量もそうだが、こういう貴重な豪腕が身近に欲しいと思わないでもない。しかも政治家じゃなくて公務員でこれだからな。