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山椒の実

Category: Interview

アニータの夫 (坂本泰紀)

アニータって珍しい名前なのか分からんけど、アニータ呼びで日本全国通じる該当者は一人しかいない。日本で最も有名なチリ人。あの騒動からだいぶ時間が過ぎたが、本が出た。彼の伝記だ。彼のほう、夫の伝記。

この本は朝日新聞での連載を書籍化したもの。単著なんだな…チームでは対応しなかったということか? 取材期間がやたらに長い。

事件自体は組織構造に不満を持ち、夜の遊びを覚えた男が公金を横領した挙げ句、女に全部巻き上げられたというもの。長年発覚しなかった事実が示すように、横領されたのは公社が無意味に留保していた、ただただ無害なカネ。いわゆる裏金だよね。儲けを出さずにやる建前なのに、プラスを出して隠すっていう。なんて悪だろう。

木挽町のあだ討ち (永井紗耶子)

仇討ちをしに江戸に出た若者が芝居小屋に出入りして、本懐を遂げる。二年後に武士が芝居関係者の目撃者に聴き取り調査。インタビューにペラペラ喋る芝居関係者の人々。流石に皆さん口上が上手いなあ。さて真実は?

いやー面白かった。一気読み必至。インタビュー内容も、最後に明かされる、その後ろにあるものも。血なまぐさいオープニングなのに、読後感は爽やか。地獄を経た仏。人間だこれが。目撃談と、目撃した人の歩んだ人生、そして目撃された人の人生。それぞれ語られる内容が良い。

わたしの日本語修行 (ドナルド・キーン/河路由佳)

言わずとしれたキーン氏に当時の日本語学習について尋ねて、そのインタビューを本にしたもの。海軍の日本語学校があって、それがでかかった。それ以前にもいろいろな言語を学習していたらしいが、当時日本語は教える人も乏しく教材も少なかったらしい。中国に関する研究が日本で進んでいたから、中国の研究のために日本語の論文を読む、という需要はあったらしく、そのための教材みたいなのくらいしかなかったらしい。その中でまともだった教科書が長沼さんのやつだったとか。その当時の教科書を見ながらあーだこーだ。

象は忘れない (アガサ・クリスティ)

ポアロがインタビューで過去の事件をほじくり返して真相を解き明かす話。

途方もないおしゃべりが続いて、多くは無関係なんだけど事実もあって、徐々に真相が分かっていく。ちゃんと読者にも分かっていく構成はうまいなー。あとおばちゃん同士の会話のリアリティも。各人のおぼろな記憶が、重ねていくことでハッキリしてくる。解像度が上がっていくというか。

しかしこの真相も悲しくはある。正解を知っている奴がいる違和感はあった。いちゃいけない法はないんだが。ただ、その人物にたどり着くのも相手から来たってだけだからなー。結局偶然の必然というか。これならポアロじゃなくても、っていう。あのカップルが正攻法で迫ったら、ゲロってくれたんじゃないの?

インタビューズ (堂場瞬一)

平成元年から終わりまで、1つの時代を通じて渋谷のスクランブル交差点で大晦日に行われたインタビューを並べた本。

…というテイのフィクションの小説。

着眼点はすごいし時代を映す鏡みたいな感じで、懐かしいと思われる出来事や何やらを感じさせてくれた。ただ出会い系で会った人に本を勧め続けたあの人ほどの狂気は感じなかったなー。平成ってこういう時代だったよな、というのを感じさせてくれたのはそうだが、良くも悪くも、平成が終わった時点での著者の興味の範囲の中に収まっているよね。言語表現としても著者の能力の範囲を超えられない。つまり意外性が欠けていて、そこはフィクションの限界かと思う。真実っていうのはもっと、意外なものなんだ。

そして平成が終わり、令和は令和ですごい過激なことが起きてる現実を知ってるからね。明らかに激しい事象もあれば、なんとなく生きづらい世の中になったなと思う出来事もあり。昭和を振り返るために向田邦子のエッセイを読んだ、それと同じ位置付けで平成を振り返る目的では読めないかなあ。

人殺しの息子と呼ばれて (張江 泰之)

北九州のあの事件の息子との接触、そしてインタビューをTVで放送したテレビマンが、その経緯を本にしたもの。

私はこの番組、見たいと思ってはいた記憶があるが、見なかったんだよなー。なんでかわからん。長時間テレビを見る習慣がなくて、まあサッカーとかバスケの試合は別だけれども、興味を持った番組すらも見てないんだ。どうしたものか…

それはともかく。

この事件の本は以前に読んだことがあるし、似た境遇と言えばオウムの娘の本も読んだ。それに近いテーマの小説も読んだなあと。

考え方としては同じなんだろうな。これは確かに特別な事件ではあるが、特別な事件だからこそ意味を持つのではなく、実は同じ境遇の…犯罪加害者のような、非難の対象となる人物の家族という人は珍しくないはず。割と一般的な話ではあるんだ。そういう境遇というだけで、非難の対象に含まれていいはずがない。特に事件当時子供だったような場合はね。

身の上話 (佐藤正午)

宝くじの当選金を横領した人物の、なぜかヤケに詳しい身の上話を謎の男が語る。テレビドラマにもなったらしい。いろいろ事件が起きる。

この種の小説の常として、途中からもともと怪しかった人物はますます怪しく、全体的に雲行きが怪しくなり、起承転結、最後まで目が離せない。宝くじなんて最初からいらんかったんや!

こういう小説を読みたかった。この著者の他の作品も読んでみたいと思えた。