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山椒の実

Category: Books

コロナに翻弄された家 (末利光)

コロナ初期に妹2人を失った元NHK記者の手記。生々しい話に無念さがにじむ。心情を歌う短歌を散りばめてある。趣味なんだろうな。

ひどかったよな、あの頃。誰も彼も、ただ右往左往するのみで。特に重症化率、死亡率の高かった老人にとってはたまったものではなかったろう。

治療薬については、放っておけば死ぬ&改善の可能性があるかも&副作用が無さそう、という状況なら使ってほしいという心情は理解できる。一方で大きな病院がエビデンスに乏しく保健外になる薬を投与するのが簡単でないのも当然と言える。研究に使うことすらある程度のハードルがある中で、治療に使うとなるとねぇ。

新 日本の階級社会 (橋本健二)

「とくに本書を手にとった読者などは、高学歴のホワイトカラーで」という文がすごかった。それ言うの? そして、最後の章なんかは対象読者の多くが望んでいないとされた方向の解決案を提示するという構図になってたような…違ったかな。

階級社会についての真面目な本。2015年までの調査が元になっている。資本家階級、新中間階級、旧中間階級、労働者階級の4階級に加え、アンダークラスの出現で5階級に分類して分析を加えている。現在はまたこの現象が進行しているだろうか。いろいろあったからねー。コロナとかさ。

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (安倍晋三)

2度目の首相登板となるに当たって、前回の本に少し書き加えて完全版と称した本。政治家としての考え方を説明して、自分が総理大臣にふさわしいことを示すための。理路整然としているようでいて、感情的でもある。そこが魅力か。実際は前回の本そのままで、最後に短い1章(書き下ろしではなく雑誌に出た演説原稿みたいなやつを収録)が追加された小規模なアプデだった。

第一印象としては、句読点の使い方が気になって集中して読めないよ、というもの。老人によくある。ただ読んでいくと気にならなくなる。不思議なもので。少ない言葉でテンポが良いためかもしれない。全体的には、難しさがなくシンプルなのが受け入れられやすかったのかなと思った。都合の悪い結果は全部野党とマスコミのせい、という構図も分かりやすさがある。過去の政府の批判もあるけど、自民党の批判という形にはしない。…そういう本だから、そこはしょうがないか。

織田信忠 天下人の嫡男 (和田裕弘)

割と学術寄りの、織田信長の後継ぎの人物に関する本。若死にしたが、家督も受けているし、軍功も多い。この年でここまでの経験と実績を持つ武将もいねえな、という著者の感覚ももっとも、と思えた。

本能寺の変での死を避けられるルートが実際あったが、それを選べなかった…というのも事後諸葛亮と言うべき指摘。あの時点で味方の時は有能だったはずの明智が実は無能…というのは分からないよ。無理からぬことだし、その後の展開を知らずに低く評価することはできまい。

ヘンな論文 (サンキュータツオ)

人文系のマイナー論文で面白いものを紹介する本。芸人さんで、もとはラジオで紹介していたらしい。後日談もあったりして、割と面白かった。こういう趣味もあるんだなあ。

大きな論文誌とかじゃなくて大学の紀要とかからも持ってきていて、かなり雑食でアンテナも広いんじゃないかな。趣味的な研究が多く。それでも最後の湯たんぽコレクターの人の話はすごかった。湯たんぽが欠落した時代があったなんて。

続編も出てるみたいですね。

アルゴ (アントニオ・メンデス)

イランで起きた大使館占拠事件で人質にならなかった6人を国外へ脱出させる作戦を指揮したCIAの大物スパイによる実録本。映画、しかもかなりの名作になってるようですね。なかなかすごかったな。

人質を取る国家…というのがすごい話ではあるんだけどね。どうしてこんなにこじれてしまうのか。それが人類の営み?

山本昌という生き方 (山本昌)

中日の大エース、山本昌が現役終盤に出した自伝。この本を出して間もなく引退、というタイミングですね。50歳でプロ野球選手、しかも投手だからな。現役生活32年を中日ドラゴンズに捧げた。すげー。

というわけで、いろいろ書いてあって面白かった。こういう選手の話は、穏やかな気持ちで読めるよね。利き腕の左肘の可動域(が非常に狭い)の話も素直にすごいなと。成功者というのは、誰しも人に感謝して人生を過ごすのだな。

フィッツジェラルド短編集 (新潮文庫)

名前と「グレート・ギャツビー」の題名だけ知ってる、昔の有名な作家。

短編集だけど、中ではすごく短い、少年時代の初恋? の相手といい感じにやり取りをした挙句、人違いが分かって拒絶されるやつ(「乗継ぎのための三時間」)が良かったかな。そう来るかー。って。

他のやつはかなりゴニョゴニョ、ナヨナヨしていてイマイチだと思った。しかし、揃いも揃って、誰も幸せにならないのね。そういう作風なんだろうか。

ボマーマフィアと東京大空襲 (マルコム・グラッドウェル)

東京大空襲 戦災資料センターね。行きたいと思ったけど、交通の便が悪いんだな。さほど気軽には行けなさそうだが、いずれ行ってみよう。

この本は太平洋戦争末期に日本各地の都市に焼夷弾を落として市街地を焼き尽くすという稀に見る非道な作戦についての物語。理想を追った/現実の問題を解決した、それぞれの指揮官2人を軸にしている。ナパームの開発の話も入っている。それはそれはひどい話。

まーこのひどすぎるやつに勲章送った日本政府もたいがいだが。

優等生は探偵に向かない (ホリー・ジャクソン)

ピップの話の続き。連続性には苦心していたけど、あんまりそこはいいんじゃないかな、と思ったな。

900ポンド返すとこまでが結末だと思ったが、そこは省略された。今のレートなら日本円で16万てとこか。そんなもんか。高校生でも、このくらいのネット上のスター選手ならスポンサー案でなんとかなる範囲だろう。

そしてこの後味の悪さよね。現代社会の闇か。関わった人のほとんどが不幸になる。前作もそうだったっけ。作者、ずいぶんやらかしたな~と思ってしまったくらい。推理小説ってどうしてもそうなるけど、ハッピーエンドを志向しても、いいんじゃないかなあと思った。特にこういう青少年向けのやつはさ。