十一時五十七分、弓削栞は引き出しを閉める手つきだけが妙に慎重になった。
机の足元に置いた保冷バッグの持ち手が、青い布地ごしに小さく折れ曲がっている。朝、家の冷凍庫から出してきたプラスチック容器はまだ固く、保冷剤も二つ入れた。昼休みまでの数時間、それを足元に置いて仕事をしているあいだじゅう、栞は何度か靴先で存在を確かめてしまっていた。
「弓削さん、食堂ですか」
斜め向かいの水野悠斗が、モニターから顔だけ上げて言った。まだ二十四なのに、昼休み前だけは小学生みたいに目が明るい。
十一時五十七分、弓削栞は引き出しを閉める手つきだけが妙に慎重になった。
机の足元に置いた保冷バッグの持ち手が、青い布地ごしに小さく折れ曲がっている。朝、家の冷凍庫から出してきたプラスチック容器はまだ固く、保冷剤も二つ入れた。昼休みまでの数時間、それを足元に置いて仕事をしているあいだじゅう、栞は何度か靴先で存在を確かめてしまっていた。
「弓削さん、食堂ですか」
斜め向かいの水野悠斗が、モニターから顔だけ上げて言った。まだ二十四なのに、昼休み前だけは小学生みたいに目が明るい。
コンベヤーの音は、眠気を追い払うというより、眠気に形を与える。ふたのない刺身パックが流れてきて、柚木澄人は右手でタンポポをつまみ、左手で位置を直し、最後に透明なふたをかぶせる。黄色は赤身の横でいつも浮いて見える。薄い手袋越しに、花びらの硬さだけがやけにはっきりしていた。
「今日、タンポポ軽いね」
隣の細谷透子が言った。澄人は手を止めずに「昨日が重かったんじゃないですか」と返す。透子は笑ったのかどうか、マスクの上の目だけではわからない。
痛みには性格がある。
包丁みたいに一気に来るやつもいれば、借金取りみたいに、朝の六時にチャイムを連打してくるやつもいる。あの日の痛みは後者だった。しかも丁寧に、玄関ではなく体の内側から。
最初は、腰の奥に小さな釘が一本打ち込まれたみたいな違和感だった。寝返りを打てば抜けると思った。抜けない。布団を蹴って立ち上がると、釘はきゅっと回され、私の中でネジになった。時計は六時十二分。月曜。最低な曜日に、最低な客が来た。