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山椒の実

Category: SF

夜来たる (アイザック・アシモフ)

古典SFの短編集。名作と言われている。実際凄いな。今読んでも、普通に優秀なSFとして読める。これが1941年に書かれたという事実。戦前!? かろうじて江戸時代ではない…それは言い過ぎとしても、真珠湾攻撃の年だよねえ。なんとも驚異的だ。

今宵は百万年に一度おお、と歌い出すあの曲も、この古典名作がベースにあるんだねえ。

この作品は名作だけあっていろんな短編集に含まれていたり長編に書き直されたりしているようだが、私が読んだのはグーテンベルク21のやつで、クリスマスとタイムマシンの短編も含まれていた。タイムマシンのやつ(赤い女王のレース)はかなり良かった。王道叙述トリックホラー的な。

司政官 全短編 (眉村卓)

短編集ですよ。時系列で並んでいる感じで、作中世界の変遷が感じられる。楽しくも、物悲しい。それぞれの話の長さが、ちょうどいいように思った。

最初の方の話が良かったな。後半はだんだんキツくなってくので。

無理を押し通して、それを続けることはできないんだよねぇ。

消滅の光輪 (眉村卓)

司政官シリーズの長編。少ないイベント、長い独白、限られた人々との会話。

このシリーズ初めて読みましたが、面白さはありました。設定も魅力がある。ただ、思考をたどる文体がどうも気にかかるという面があるかな。短編の方が楽しめるんじゃないかと思う。

エクソダス症候群 (宮内悠介)

鬱のようなものが薬によって克服、根絶された世界で、精神科医が…というSF。それでも減らない自殺率。舞台がいいですね。火星唯一の精神病院。これだよ、これ。本格的な書き込み情報量、不安定な主人公、人類の精神病治療の歴史をなぞり、そして…

いいSFを読めて、気分がいいよ。こういう本を読みたかったんだよ。

記憶翻訳者 みなもとに還る (門田充宏)

過剰共感と珊瑚たちの物語。ビギンズナイト?

後半は謎施設でキャピってるだけだったが、前半は悪くなかった。前のやつの方が良かったな。全体的には、あんまりパッとしなかったような気がした。期待値が高すぎたか。途中で提示された関西弁の謎は、結局なんだったんだろう。

記憶翻訳者 いつか光になる (門田充宏)

過剰共感をテーマにしたSF。他者への共感が強すぎて自分の感覚と区別がつかなくなる。そこで記憶を再生するビジネスが実用化されたという世界。

記憶や意識に関するSFで、キャラクターの作りもあって突拍子もない設定と思った。あとモンスター討伐的な話はどうかと思ったが、読み進めていくとしっかり書き込まれている優秀なSFだと分かる。社長をはじめとした登場人物のバックグラウンドもアツいし、ビジネスモデルの構築とかの側面もあるのが深みを増しているんだろうな。

まず牛を球とします。 (柞刈湯葉)

容疑者探偵の話が良かったな。深いような、深くないような。広島の話も綺麗な話ではあった。

タイトルの物理学ジョークはFedora18のコードネームにもなっていたことを思い出す。あれも10年以上前なのか。時の経つのは早いもので。今やredhat系はずいぶん減って、debian/ubuntu系ばかりになってしまった。rpm/yum(dnf)の方がdeb/aptより好きだったんだけどな。それはともかく。

タイトル作の牛球もそうだけど、リアリティのある導入部からの、流れるようなトンデモ展開。私はかなり好きで、これはクセになるかもしれない。

時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー (東京創元社編集部)

SFの短編集。割と優秀なやつだった。巡礼の話とか、あと昔のお話を織り交ぜた話とかも良かったな。飴のやつのほうね。江戸時代の怪談話をこねくり回すやつはあまり好きになれなかった。

全体的に、長さもちょうどいいし、出来もよかった。いいんじゃないかな、うん。

殺人者の空 (山野浩一)

SFの短編集。タイトルに反して、ミステリではない。短編といってもかなりしっかり書き込まれていて、ねっとりじっくり読むことができる。少し古い時代で、みんなタバコを吸っている。現代なら、登場人物は理由なくタバコは吸わない。本作では登場人物のほぼ全員が喫煙者だ。

全体的には、道具立てを不条理SFにしただけで、内容自体はすごく内向きというか、登場人物の心理に偏った内容になる。そこは引っかかってしまうよね。独白多すぎでしょ、という。カフカっぽいというか。状況を説明しているようでいて説明していない、現実感の希薄な文章が続く。この作家も相当に孤独なんだろうな、なんて思ったりして。