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山椒の実

Category: Science

教養としてのテクノロジー―AI、仮想通貨、ブロックチェーン (伊藤 穰一, アンドレー・ウール)

クローンと相続とか、さらっと書いてるけど。私のようにのほほんと深い考えもなしに生きてると、こういう本をたまに読むと「何も見えてなかったんだな」と思い知らされることは多いか。

クローンは技術の問題の他に倫理の観点は必要とは言うけど、具体的な設問として提示されるとまた違うよね。人工授精(クローンではない)が認められるなら、人工単性生殖(クローン)が認められる余地はあるのかもしれないが…まだ越えるべき壁があるような?

マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦 (ベン・メズリック)

永久凍土の中で保存状態の良いケナガマンモスは数千年前に絶滅したにも関わらず、DNAのコードを読み取ることができる標本があったらしい。

そして、永久凍土が溶けると含まれている二酸化炭素やメタンが放出されて地球温暖化が止まらなくなるのだが、かつて生息していた生態系のように凍土の上に広がる草原をいじくる生物がのそのそ歩いてほじくり返し続けることで永久凍土を冷やすことができ、地球温暖化の暴走を防いで人類を救うことができる、と。その実験を酷寒のロシアの奥地で続けている変人研究者がいたと。

ロビンソンの足あと 10年かけて漂流記の家を発見するまで (高橋 大輔)

ロビンソンクルーソーのモデルとなったセルカークの暮らした場所を探る冒険。前半のストーリーが期待を高め、後半の発掘作業が学問と歴史の奥深さを知らしめる。

いい本を読んだなー、という感想を持った。考古学は私が考えていたほどいい加減なものではなかった。ここまで探求した者だからこそ書ける、最後の描写の臨場感ね。

セルカークその人は気難しい船乗りで、乗ってたのは私掠船という公認海賊。あまり近くにいて欲しくない人物像ではある。

ハダカデバネズミ - 女王・兵隊・ふとん係 (吉田重人, 岡ノ谷一夫)

奇妙なネズミを研究対象に選んだ物語。魅力に溢れている? まあ女王とオスと兵隊と労働者…ハチやアリのような集団生活をする哺乳類…ネズミで、土の中に暮らす。17種類の言葉を使い分けてコミュニケーションを取り、変温動物で、このサイズの動物としては異常な長寿…まあそりゃ奇妙ですよね。著者らが興味を持つのもうなずける。

読み物としての分量も適切で、イラストも良かった。

10年後、生き残る理系の条件 (竹内健)

東芝のフラッシュの立役者で現在は中大教授の竹内さんの書籍。この界隈では有名な方ですよね。私も前職で少しはまぁ…。内容はタイトルの通り、技術者がこの先生きのこるには、という話。書籍の種類としては自己啓発本なので、普通なら私が読むような種類の本ではない。心にはあまり響かなかったけど割と面白く読めるという、珍しい本ですね。

ただやはり技術者で研究者で教育者なので、自信のないところは分かるように「ではないでしょうか」「かもしれません」みたいな語尾になるんだよねー。そこは感じられる。ほとんどの文章が経験に基づいていて、伝聞に基づいている部分は少ない。良心。正常性バイアスみたいな話は実際にあるからなぁ。

科学者は戦争で何をしたか (益川 敏英)

素粒子でノーベル物理学賞を受賞した学者で左派の闘士が語る戦争と科学者の関係。平易で読みやすい。深いことは言ってない。言ってるのは非常に単純な原理、「おまえら科学者である前に人間だろ!?」と。まあホント、大したことは言ってないな。誰もが思うことなんじゃないかという気もするし、そういうことを何にも考えてない人もいるんだろうなとも思う。

実際のところ、私も若い頃こういう類のことを考えていた。そして新卒入社して、最初に上司になった人に飲み会で聞いてみたことがあった。つまり、軍事関連の仕事があったらやるべきか否か。僕は敵を殺すために就職したわけじゃないから、やりたくないと思ってたんだよね。敵といえども命は重いよ。だから良心に聞いてダメなら会社辞めるしかないなコレ、と。

この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた (ルイス・ダートネル)

文明が消滅したあとのサバイバル術、及び文明の復活のさせ方について論じた実用書。非常に興味深い。著者の知識量に圧倒される。現代はThe Knowledgeというものらしい。知識、だけじゃちゃんと訳したとは言えない言葉らしくて、うまい日本語がなくてこういう邦題になったみたいだ。

この本の魅力は、この知識量の詰め込み方。とても一冊に収まる量ではなかった気がする。こういうコスパの良い知識のタンクは一家に一冊持っておきたい気分になるよね。まあ僕は大破局が起きたら生き残ってないんじゃないかと思うけどね。けっこう判断悪いからなー。

青函トンネルから英仏海峡トンネルへ―地質・気質・文化の壁をこえて (持田 豊)

国鉄で青函トンネルを掘り、英仏海峡トンネルのアドバイザーも務めたトンネルの第一人者、持田さんが書いたトンネルの本。あまりに淡々と技術的な話を次々に書いていくのだが、それだけでも迫力はあるね。読ませる文章ではないが、中身が純粋に事実の積み重ねだからね。真実は伝説を超える。

前半は就職以来ずっと関わっていた青函トンネルの話。オヤジがお手製で作った潜水艦を使って調査する話とか、水平ボーリングの話とか、いろいろある。技術的な要素が次から次へと語られていくのは爽快感も感じる。値段が3倍になるセメントの話なんかはとても実感がこもっていた。まあ語り口はあまりにも淡々としすぎていて主張という部分に欠けるんだけどね。正直な感想を言えば…「無茶したね」という感じ。

ミトコンドリア・ミステリー 驚くべき細胞小器官の働き (林 純一)

代表的な細胞内小器官であるミトコンドリアに魅せられた研究者が、これまでの研究成果を一般向けにまとめた本。一線の研究者が研究内容について書いた本ですが、普通に書かれているので、あまり退屈せずに読めると思います。

10年以上前(2002年)に書かれた本なのでかなり古い話だろうと思うのだが、充分に興味深い内容。ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーを作り出してくれるのだが、元は現在の生物の祖先に取り込まれた生物だった、子供は母親のミトコンドリアを受け継ぐ、というくらいの知識はあった。ミトコンドリアはいろんな病気の原因という説をたびたび立てられていて、この著者はそれにまつわる様々な真実を明らかにしてきた。