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山椒の実

Category: History

黒い傘の下で (ヒルディ・カン)

今となっては問題視されそうなタイトルではあるが、植民地時代の朝鮮半島の住人へのインタビューをまとめた本。名著『私のように黒い夜』の巻末の同じ出版社が出している本の広告にあってなかなか面白そうに思えたので、これも読んでみたわけ。

中身はかなり興味深い。朝鮮半島を植民地にしていた時代の話って、色々な政治的な色がついたせいであまりちゃんとリアルな様子を伝えたものがないんじゃないかっていうのは確かに、ある。この本にはその、それぞれの人物にとってのリアルが記されている。そこから読み取れることは多い。のんびりと中世を過ごしていた朝鮮人を、とても植民地経営が上手とは思えない日本人が支配する。本国と近すぎるというのもあったと思うよ。民族的にも近いし、上下関係で接するにはそれまでの歴史の関わりがありすぎた。文化的には朝鮮半島の方が進んでいた時期が長かったわけだしね。

私のように黒い夜 (J.H.グリフィン)

とりあえず、凄い本だった。こういう本が読みたかったんだよ俺は。そういう、冒険でもあり正義でもあり歴史でもあり…まさにこれぞ名著。生きててよかった。

第二次世界大戦でゲシュタポのコロスリストに載り、日本軍とも戦った白人の英雄が失明し、小説家となり、視力を取り戻したのちにやったこととは…薬と顔料で皮膚の色を変え、黒人として生活を体験して日記を公開するという…行き先は、人種差別が激しかったころの、その中でも最も苛烈な米国南部。何が起きたのか。のっけから興味津々よ。記述が生々しい。現代にも通じまくる。すげーわこいつ。マジで。私はなぜ今までこの本を知らなかったのか。

人種は存在しない (ベルトラン・ジョルダン)

「人種」とは何かを説明した本。そもそも人類は現在、他の旧人をことごとく滅ぼした新人のみになっているから、種族は1つしかないんだよ。他の動物に比べて広範囲で交配を繰り返してきたため、多様性も少ないみたい。まあつまり、ほぼ同じだ。何が同じで、何が違うのか、という話は非常に微妙な話になる。

それで、では指輪物語のエルフやドワーフ、ホビットは種族なのかどうかという話に…はつながらなかった。そういうファンタジーの世界の話ではなく、リアルな学術の話が続く。

我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち (川端 裕人)

アジアの原人たちの多様性について。監修の海部さんという学者の研究に密着して紹介する。

人類。今はホモ・サピエンスつまり新人しか世の中にはいないんだけど、かつては猿人・原人・旧人がいたわけだ。共存していた時代もある。アフリカから出て地球に広がった原人の子孫はいなくなって、改めて新人がアフリカから出てきたというわけだ。

で、地球の人類はなぜ我々新人だけになってしまったのか。

という謎が根元にあり、アジアの原人の化石をいろいろ研究していっていろんな新しいことが分かってきて…という話ですね。凄いよこの研究。学術に寄りつつも読みやすい文章構成が心地よい。

不格好経営 (南場智子)

DeNAの創業者が語る。まー創業者の言葉ってのはだいたい面白いよね。DeNAといえばビッダーズやモガべーならぬモバゲーです。私はソシャゲもやらないしDeNAの顧客ではなかったんだけど、今や彼らはブレイブサンダースのオーナーですからまあ、今は私も顧客なのか?

この本は失敗談を赤裸々に笑い語ったという形式ではあるが、成功した企業なので最後はまあ…そうなるよね。悔しくて今でも根に持っている…みたいな話はないし、失敗談もありがちな話が多いかな。結局は人が頑張ってどうにかするしかない。頑張ったんだねぇ。

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (鴻上 尚史)

特攻隊で9回出撃して生き延びた、佐々木友次さんの話。そういう人もいたんですね。すげー。その話は生々しい。

素人の司令官に宴会に呼ばれたせいで出撃することなく死んだ隊長。その隊長が残した爆弾を解き放つ仕掛けを使い、爆撃を成功させて戻る。すると上の人が面罵するわけです。で、とにかく死んで来いと命令されて何度も出撃するが、色々あって戦果は上げつつも帰還を繰り返す。

その司令官は「自分が最後の機に乗って特攻する」と常々宣言していたが、戦況が悪化すると真っ先に味方を騙して勝手に逃亡するというね。

勲章 知られざる素顔 (栗原 俊雄)

勲章に関する本。なんでこんな本を読もうと思ったんだか思い出せないが、とにかく読んだわけだ。知識はあまり入ってこなかった。

著者としては勲章に対して批判的な考えを持っているのかな。そこはひねくれているとも感じられるが、一定の理もあるなと思った。

つまり、軍人向け・公職向け・一般向けで分けていいんじゃないかと思うね。現状、公職と一般がごちゃ混ぜになっているから問題になる。公務員続けた人と民間で大きな功績があった人ってのは直線上で上下を決めることはできないんじゃないか。軍人にしても同じ。それは交わらない別の軸での評価であって。それから職責の軽重があるが、そこは報酬で報いていると思えば、勲位で差をつける理由がない…んだろうけど、だが総理大臣みたいな人と同じ勲章をもらうわけにはいかんよね、という感じもあるでしょ。職責を超えた率というのがあったとして、その率が勲位の重さに比例すればいい…のかな。

父の詫び状 (向田 邦子)

日本三大邦子の一人、向田邦子の代表作ともなったエッセイ集。文章の達人が、自分の子供時代を振り返る。昭和だよね。平成が終わりに近づいて、昭和を思う。そしてこの本を読めばそこに昭和がある。

昭和から平成にかけての時代は人類史にとっても激動の時代だと認識しているんだけど、どう捉えたら正しいのかまだ戸惑っている部分が自分にはある。昭和という時代を認識するにあたって読んでおきたい本ではあった。

暴力が終わる時代? という捉え方ができるかなと思った。今時はこんな風に子供に暴力を振るったら捕まるわけだよ。

「日本の伝統」の正体 (藤井 青銅)

日本の伝統と言われるものは数多いが、それほど長く続いている伝統ばかりではない、という事例を次々に紹介する本。雑学として多くの事例を知ることができて役に立つ感じ。

自分は伝統が長ければ尊いという思想はなく、むしろ新しいものの方が良いはずでしょ、という思想に近い。だけど歴史的なものを無視するつもりはなく、平均的な人よりは歴史が好きっていうのもある。というわけで楽しく読むことができた。

なるほどと思ったのは正座の項。正座が発明されて丁寧なものとされたのは、普段思っているよりも最近というね。普段から実に馬鹿馬鹿しい座り方だとは思っていたが。和式便器の座り方は足首の柔らかさとか脚力全般を鍛えるには悪くないと思うけど、正座はメリットが何もないよね。←実際はウォシュレットなしで生きていけないし、和式便器を好んでいるわけではないですが。

ロビンソンの足あと 10年かけて漂流記の家を発見するまで (高橋 大輔)

ロビンソンクルーソーのモデルとなったセルカークの暮らした場所を探る冒険。前半のストーリーが期待を高め、後半の発掘作業が学問と歴史の奥深さを知らしめる。

いい本を読んだなー、という感想を持った。考古学は私が考えていたほどいい加減なものではなかった。ここまで探求した者だからこそ書ける、最後の描写の臨場感ね。

セルカークその人は気難しい船乗りで、乗ってたのは私掠船という公認海賊。あまり近くにいて欲しくない人物像ではある。