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山椒の実

Category: History

日本一長く服役した男 (NHK取材班 杉本宙矢/木村隆太)

無期懲役囚が60年以上服役した後、仮釈放される。21くらいで強盗殺人を犯してしまった男。戦災孤児となり施設で育った、無慈悲な神の配剤。NHKらしい、丁寧な作りですね。被害者の遺族や刑務官、他の仮釈放者、受け入れ施設や何やら、取材を広げて事実を提示していく。

最後は反省とは果たして何か…みたいな話に持っていくんだけど、それはそれとして、20か80までか。人生の大半を社会から隔離された人生とは、どんなもんなんだろうな。この人は入る前も脱走者がたくさん出るような孤児の施設にいた期間もあり、自由に生活していた期間は非常に短い。自由というものを理解できないのも仕方なくて、一見不自然とも思える反応は、実は自然なものだったんだろうな。

ガマ 遺品たちが物語る沖縄戦 (豊田正義)

沖縄戦の話。遺骨がまだたくさん放置されている。ガマというのは洞窟のことで、特に凄惨を極めた南部に多くあり、避難民も兵士もそこに逃れ、死んでいった。その遺骨と遺品を収拾して遺族に返すという活動を続けていると。

そこで知られた記録をもとにつづられた物語。それがこの本。まあ沖縄戦はめちゃくちゃやったからね。ひどいもので。私は一度だけ沖縄行きましたが、その時、ちょっとした時間だけでも本当にヤバさは伝わってきたからね。

ヴィクトリア朝時代のインターネット (トム・スタンデージ)

電信の歴史を辿って今のインターネットを思う話。ネットワークはいつからある?

このタイトル(victorian internet)はもしかして、ヴィクトリアズシークレットと掛けてるのかな? 内容は、かかってない気がする。

通信塔を使った光学信号の伝達からモールス信号による電信に移り、電話の登場で廃れていく。その間の電信時代の壮大な物語を手短にまとめている。かなり興味深い話だった。

私もエンジニア歴はそこそこ長いのだが、モールス信号を解さない。世代的にはもうそんな感じで、自分の頃にはもはやエンジニアが実用する場面はなくて、あるとすれば趣味の領域だった。まあ領域を限定すれば実用している人々はまだいるんだろうけどさ。エジソンの少年時代とか、そのあたりの時代だからなあ。

プリンセス・トヨトミ (万城目学)

やっぱ名乗りが熱い話は傑作確定なんすよ。大阪城での、まさかの名乗り。ヤバかった。震えたぜ。これだから小説読むのはやめられねーんだよなー。

その後も熱い話が続いて、かなりとんでもない、良い話だった。大阪こえー。

昔の、いざ鎌倉、みたいなのってこんな感じだったのかな。

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (松岡圭祐)

つまりバリツを教えたのが伊藤博文で、彼は長州弁で武術と発音したんですな。それが人づてに口伝されるうちにバリツ…何だこの納得感は?(←この本の解釈とちょっと違います)

しかし伊藤博文か。絶妙な人選ではある。そこに大津事件に不平等条約と、すげーことになった。というわけで、とても楽しく読めた。一気読み必至だ。今日もまたオレの睡眠スコアが削られる…

この著者は多作のようだから、機会を作って他のも読んでいこう。

心 (ラフカディオ・ハーン)

明治の頃の気風をよく伝えてくれる本。時期的には、日露戦争前って感じかな。示唆に富んでいると言える。ような気がする。私は懐古主義ではないし、昔のほうが良いとか、古きに戻るべきとか、そういう気持ちになることはないんだけど。興味本位?

まあ何かしらの教訓を受けて良い将来を作れればいいだろうし。世の中はガンガン良くなっているとはいえ、微調整も必要だろうよ。その学習データとして歴史は良いものだ。

最初の停車場が凄かった。全体の方向性を決める、その決め手になるような衝撃。その衝撃のまま、読み進めることになる。

銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド)

人類史の概略を示して論考を加えていく。結局のところ、我々とは何なのか。再現性のない長い歴史から何がわかるのか?

人類到達の時期と大型動物の絶滅と家畜の存在、資源と軍事力の差、農業と定住による人口増加がつながっていく。あくまで一度しか起きない物語と、その捉え方が全編を貫く。

支配するものとされるもの、どうして差がついたか…慢心、環境の違い? 慢心ではない、環境だ。人類史における民族や地域の差は、環境からくる必然で説明できるのだ。

歴史の本棚 (加藤陽子)

新聞の連載で近現代史に関する名著を紹介したものを本にまとめたもの。のっけから全5巻だか6巻だかの長編従軍小説を出してくるのはもう、読ませる気ないだろこの人。そんな時間は残されていないなあ。いや、もっとヒマになればあるいは?

本体の論ではなく書評で、しかも新聞連載でおそらく字数も決まっていたんだろう。1つ1つの紹介は短くまとまっていて、すっきり頭に入ってくる。そこは良かった。

まあ、軽そうなやつはいくつか読んでみるよ。読みたいリストには、何冊か追加された。はける間もなく追加され続けてきた、長大なリストに。

これが本当の「忠臣蔵」赤穂浪士討ち入り事件の真相 (山本博文)

浪人繋がりということで、日本史上で最も有名な浪人たちの本も読んでおこうと。

資料をもとに、あの事件を解き明かす。私は昔住んでいた場所が大石の基地や吉良の領地に近かったりするんで、何かと気になる事件ではあった。創作が氾濫して久しい状況で、創作と史実を分類して評価を加える。

よくまとまっていたと思います。当時の武士の価値観も理解が進んだ。喧嘩両成敗。

やはりこれは浅野が悪いな。その短慮に加えて、斬りつけておいて殺害できない不始末。せめてもう一太刀! それで家来に命賭けさしてケツを拭いてもらうなんて。それはともかく、浪士の立場による考え方の違いとか、吉良の若旦那の評価とかね。立派なやつも報われない。そんな世の中。

吉原花魁日記 (森光子)

父親が早死し、借金のカタに吉原に売られた女性の日記。まあ周旋人や周りの人を恨んでどうなるもんでもなくて、どう考えても母親が悪いんだけど、そこはなかなか恨めないんだろうな。最後の方は気づいているようだったが。

生々しくもひどい話だった。随分キツイな。こんな人生もあるんだな。全ての人が幸せになる世界はかくも遠いものか。この日記の冒頭が大正時代、1924年。今からちょうど100年前。100年経過して、今はどうか。どうなのか。たとえば当時と比べて教育や経済は進んだわけだけど。