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山椒の実

Category: Books

カワサキ・キッド(東山紀之)

カワサキ・ディープサウスの話で、少年隊・東山紀之の自伝。「○○ったらない」のような表現を多用して、素直に感動したことを書き連ねる形。けっこうドラマチックな半生だったのね。個々の話が読みやすいし、けっこう面白かった。

彼がディープサウス民とは知りませんでした。しかも桜本のコリアタウンなんてまさにスラム街の中のスラム街。そのへんに死体が転がっているのが日常というイメージ。まあ東京者からすると川崎市自体が全部、足立区並のスラム街なんですが、川崎の中でも南部はその中心、公害もひどくてまあ、言っちゃ悪いがまともな人の住む場所ではない。さらにディープサウスともなると訪れるだけでかなりの勇気を要する。武装したボディガードを雇わずに行く気にはなれないような、ね。ニンジャスレイヤーでも「タマ・リバーを渡るとき、全ての希望を捨てよ」というアレ。絶望の橋ですよ絶望の橋。実際はそこまでひどくはないはずなんだけど、近場だけどちょっと気軽に行ける場所ではないですよね。

青天の霹靂(劇団ひとり)

本当に意外な良い出来の小説で、普通に面白い。映画化もされてたそうです。

前の「陰日向に咲く」もだいぶ以前に読んだけど、悪くなかったなぁ…冴えない男が人の思いというものを知っていき、最後はちゃんと辻褄も合って、スッキリした読後感を誘う。なんていうか、安心して読めますよね。文章自体も読みやすい。

私も子供を持つ身になってみると親のありが云々…というテンプレート的な話は置いておくと、子供の価値というのは「成長すること」と「必死になれること」だと思います。観察してると、生まれたときからあらゆることに必死ですからね。息するだけのことでも、精一杯、一生懸命やってるの。成長していくと歩くのも走るのも泣くのも遊ぶのも、必死になってやる。そういう気持ちがいつまで続いてくれるのかな、と思っているし、親としてはちょっと付き合いきれんなと思うこともある(笑)。

漂流者(マック鈴木)

マック鈴木の自叙伝。言ってみればそれだけの本なのだが、いろいろな経験を積んだ人らしく、なかなか読ませるものがある。今は淡路島でジムをやったり、野球に関わるアクティビティに関わって暮らしているらしい。

なんとなく、高校野球である程度は活躍してたのかなぁと思っていたけど、強豪校(ぐぐると滝川二らしい)で注目はされてたけど、1年で問題を起こしまくって中退してたんですね。で、アメリカに追い出されて野球チームの雑用係をやっていたと。そこからメジャーリーグにのし上がるんだから、まあ大したもんではあります。ただ怪我の影響があって投球の出来は常に不本意ではあったようだ。

未必のマクベス(早瀬耕)

東アジアで企業の犯罪のその他いろいろの小説。無理やりマクベス?

そうです、シェイクスピアのマクベスをベースにして無理に似たような展開に持ち込んでいく。この無理矢理感をしっくり来る言葉で書くと「未必」ということなのか…文章が良いのですらすら読んでいるうちに朝の4時半になってしまった、そんな感じ。翌日は仕事中にあくびが止まりませんでした。どうしてくれる。

まあ話の展開としてはいろいろと唐突感もある。ここまで普通にやってたのに、なんでこうことするの、という類のね。それもこれもマクベスに引っ張られてのこと。登場人物の人数が若干多めだったので採点はなし。

オズの魔法使い(ライマン・フランク・ボーム)

題名は非常に有名だが読んだことのなかった名作。しかしオズがあんな体たらくとはね。がっかりだ。作者はなんでこいつをタイトルにしたんだろう。

オズの魔法使い

登場人物採点ひとこと
オズ4.0あまりにも無力! 使えない奴。しかも逃亡!?
ドロシー5.0魔女を倒したのは幸運にすぎないが、幸運を呼び寄せた
トト5.0しゃべれないというハンデを克服できなかった
かかし(MoM)6.5無敵! あまりにも無敵!
ブリキ5.5木こりとしては標準的な活躍
ライオン6.0ほんとにほんとにほんとにほんとにライオンだー
ネズミ女王5.5けっこう活躍したよね。印象には残らないけど
飛行サル5.5飛行する…サル! ちょと何を言ってるのか分からない
魔法使い東5.0登場時にはすでに事故で死亡…哀れな
魔法使い北6.5魔力で言えばこいつが最強…だがオズの真相を見抜けず
魔法使い西4.5一度は主人公に勝利するも水に弱い…パンでできてるの?
魔法使い南6.0こいつが主人公でも良かったんじゃないの?
カンザス人4.5活躍の場を見せられず

思うに(オズは置いといて)魔女の魔力で比較すると北南の良い魔女は西東の悪い魔女を圧倒している。特に北の魔女の魔力は卓越していて、おでこへのキスだけで悪い魔女に手出しできない手下を作れるわけだ。ここまでの戦力差があるのに、しかし西東を滅ぼさずにおいたということは何かを暗示しているのでは? そしてその均衡を部外者のドロシーが偶然にも崩してしまい、世界の平和が乱されたという構造だ。北の魔女がドロシーに味方しつつも靴の使い方すら教えないというのは、部外者に対する親切心と敵対心の葛藤が見られる。

オルファクトグラム(井上夢人)

異常臭覚を手にした男が姉を殺した犯人を追う話。セリフが与えられなかったミッキーがかわいそう…まあそこはいいとして、この犬に勝てる異常臭覚ですよ。凄い話だね。しかもこれ実話なんだってね!(←嘘です)

それはそうと、これはかなり良い読書体験だった。設定ですでに勝っている上に、ストーリーや描写も設定負けしていない。

新堂冬樹「無間地獄」「鬼子」

エロ/グロ/バイオレンスの描写力でいけ好かない登場人物を地獄に落とす話。

立て続けに2作品を読んでみたが、どちらの作品も見事に誰も救われない。すべての登場人物が信じがたいほど呪われる。まあでも文章が良くて描写が凄いのでどうしても引き込まれる。

そしていけ好かない主人公的人物。これが凄くしょうもない奴らなんですよ。背中で語れない男たち。風間令也にしろ、玉城慎二にしろ、ほんと薄っぺらくて気取り屋でいけ好かない。しかし憎めないのですよね。風間はフランスかぶれの小市民で、ウェイターを呼ぶのに「ギャハッソ〜ン」ですからね。それで客から一目置かれたと思い込んで悦に入っているわけです。玉城もカモを引っ掛けて美容製品にカネをつぎ込ませるだけで、別に悪いことはしてないんですよね。1度ならず2度も金貸しに騙されて。自分のルックスやセンスに酔っている描写にしても、あくまで自称ってだけですからね。遠之山になってからでもそんなにひどくない顔なんじゃないかって気がしますよね。

ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト(ポール・アレン)

マイクロソフトの共同創設者、ポール・アレンの自伝。ビル・ゲイツを説き伏せてマイクロソフトを作り、仲違いして追われ、しかし巨万の富で充実した人生を送っている。ああ、仲違いと言っても今は普通に和解しているそうです。まさしく「金持ちケンカせず」ですな。

当時のことはいろいろ言われている。IBMやCP/Mのあたりとかね。この本は当事者としては申し分のない人が書いているから、かなり真実に近いんだろう。そしてマイクロソフトがなぜここまで大きくなったのか? それは技術的にも計算機の発展的にも必然だったということが丁寧に説明されている。要は自分がそれを見通したのだ、という自慢ですね。

ラーニング・レボリューション MIT発 世界を変える「100ドルPC」プロジェクト

全ての子供にパソコンを。OLPC, XO, Sugarと世に出してきた人々を描く。成功も失敗も。Sugarみたいなものには注目したいと思っていた。Sugar on stickとかありましたよね。この本を読むとXOの技術的なことについてもある程度書いてあって面白い。ディスプレイがそんなふうになってるなんてね。

最初は壮大な夢で注目を集め、100万台以下では取引しないとか高飛車だったが、徐々に現実を見るようになっていく様子はある意味生々しい。教育に関してはかなりいいことを書いているように思うし、随所に挟まれる小話も面白い。50個のゆでたまごを食べる話とか、ファインマンの摩擦発光の話とかね。

犯罪小説家 (雫井 脩介)

この人の小説は終盤があまり上手くなくて100%の出来にはならないのは分かっていた。最初に読んだ「火の粉」はそれでもかなり良かったが「栄光一途」の終盤のとっ散らかりっぷりの後なので正直読むのをためらった。しかしこちらはだいぶ良かった。これなら次も読める。

中身はまさに多摩沢文学。なかなか凄いが、やはり終盤にはもうちょっと救いがある展開にしても良かったんじゃないかと思う。たぶん、そのへんを考慮しないから終盤が上手くないという印象を受けてしまうんだろうね。序盤から中盤はいつも他に類を見ないほど良いのに。