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山椒の実

Category: Books

ファーストペンギンの会社—デジタルガレージの20年とこれから

デジタルガレージの社史みたいな本、ということだが、インターネットビジネスにおける日本のエース、伊藤穰一(Joi)とその仲間たちの昔話や座談会記録みたいな本。前半部がデジタルガレージの社史っぽい文章で、後半部が座談会。

ファーストペンギンというのはよく言われる言葉で、海に飛び込む1羽目のペンギンの勇気を褒め称える言葉。餌を得るために恐怖を振り切る。ためらいなく先陣を切る勇敢さを評する表現。

前半部はさらっとしたものだったけど、それなりに楽しく読めた。IT業界らしく、めまぐるしい。栄枯盛衰。カカクコムや食べログは一線で続けてるけど、infoseekは楽天に移ってからはさっぱり? テクノラティは以前は私もよく使ってたけど(日本版は)今はサービスしてない。ブログ検索はGoogleのやつもほとんど死んだも同然になってるし、流行らないんだろうな。kakaku.comがビジネスになって買収された流れは当時けっこう衝撃あったよね。

ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか? (高野 誠鮮)

田舎の山奥の段々畑(棚田)、限界集落と化した地区を再生させようと奮闘した役人の話。意地悪く読もうとする自分と素直に感心しようとする自分がいた。

例えば、限界集落で子供が消え、保育施設もなくなった。そこに30代の夫婦が入ってきて、何年かぶりにその地区で子供を産んだ。地域のみんなで関心を持って協力する。まあこれ美談なんだけど、子供は子供が好きなんで、まわりが大人だけってのは私にはちょっと抵抗が…。それにこの地域には小学校とかもないんじゃないか、と思ってしまうのだ。このあと小学校進んだらどうするんだろう。隣町まで通うのか…そもそも隣町にも子供はいるのか…隣町って何キロ離れてるんだよ、みたいなね。私も小学校は田舎(と言っても田舎の中では都会なほう)で、家からはかなり離れていたという記憶がある。いまGoogle Mapで測定したら、直線距離で2km。小学校低学年の足だと1時間くらいかかるかな。大人でも毎日徒歩30分の距離は遠いと感じるところ。今なら走れば10分もかからないか。この話のように山奥だとアップダウンもあるし、距離ももっとありそうな…。足腰は鍛えられそうで、自分はもともと足腰強めだったから苦にはならなかったが。

アンダーリポート (佐藤正午)

15年前の殺人事件を、記憶を頼りに解決しようとする話。さすが「身の上話」を書いた佐藤正午。図書館で借りて、返却期限が迫っているのにもう一度読もうとすらしてしまう。主人公はいったい何者なんだ、というのはあるし、この女は結局どうなるのか、というのはあるんだけど、それもまた趣がある。まあ普通の人なんだけどね。普通で終わっていいのか、というね。

15年前、というのがキーになるのかなと思って読んでいた。殺人事件の時効が15年というのは今はなくて、昔の制度ではあるのだが、そういう設定なのかと。で、時間差があるので片方が時効になってもう片方が…みたいな展開になるのかと思ったんだよ。

カエサルを撃て (佐藤 賢一)

若くして全ガリアを糾合しカエサルと雌雄を決するに至ったガリア最後の英雄、ウェルキンゲトリクスを主人公に置いた話。

正直どうでもいい話が強調されていると感じる。あの凄惨な焦土作戦をどう表現するのか、アレシアの戦いやそれに至る闘争をどう捉えるのか、気になったので読んだが、ある程度の狂人として描いてはいた。

ただね、デカマッチョかハゲ中年かというのは別にどうでもいいんですよ。チンポのでかさなんて英雄としての器とあまり関係ないんじゃないの。大衆の前で野蛮なことに及んだりする、主人公側の行状でホントかどうか分からんことをわざわざ強調する意図はどこにあるのかな。だいたい、野蛮人の風習とは言え気軽に強姦しすぎで、読んでいて気分の良いものではない。

ウィキリークスの内幕 (ダニエル・ドムシャイト-ベルグ)

WikiLeaksのナンバー2で広報担当みたいなことをしていて、ジュリアン・アサンジと喧嘩別れした著者が書いた本。

まあ喧嘩別れした一方の主張だけだから、その辺の内容は差し引くとしても、WikiLeaksの内部事情を書いた読み物としては単純に面白かった。技術的にもある程度まともな状態だったみたいだ。まあ、最初と最後の方はムチャクチャだったみたいだけど。

著者はこの本を記述した時点ではオープンリークスを立ち上げたところみたい。オープンリークスはこの本で初めて聞いたくらいで、あまり存在感がないよね。ドイツ語サイトしかないのかな。

人間の顔は食べづらい (白井 智之)

タイトルのインパクトを導いた設定で押し切ったSF推理小説、と思いきや、ちゃんとまともな推理小説として成立しているところが秀逸。まあ登場人物がみんな探偵気取りで、誰が本当の探偵役なのかという話ですね。ライトノベルの系統か、角川っぽい書き方ではある。

けっこう楽しめたが、ちょっとこの設定がやっぱ受け付けないんだよね。もっと文字数を使って重厚な感じにしても良かったと思う。

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 (スティーグ・ラーソン)

2の続き。リスベットが入院中にいろいろな人が暗躍する。まあなんだかんだで良識が勝つ。ちょっと普通に勝ちすぎて気持ちが悪くなるほど。ただこういう展開のほうが読後のスッキリ感はあるだろうね。2はまあ明らかに続きがあったけど、3のラストはそれほど多くの謎が残ったわけではないし。

ただまあ、1や2に比べるとドキドキ感は薄いな。描写がいろいろあって勝つことが分かってしまっていた。1は呪われた一族による孤島ミステリで先の展開を読みにくかったし、2は狂人軍団との対決で、設定の無理さを脇に置いとけばこれはなかなかの強敵だった。そして3はスパイ小説。ジャンルを変えながらの3部作。次はSFか何かか? と思わせつつも、この著者は4を途中まで書いて永遠の眠りについたらしい。そして権利関係でモメて4の途中までの原稿も日の目を見る気配はなさそうだ。これ以上この著者の本を読めないのはちょっと残念に思う。

ミレニアム2 火と戯れる女 (スティーグ・ラーソン)

ミレニアム1の続き。前作でサブ主人公だったリスベットがほぼ主役になり、謎が解き明かされていく。まだ残っている気がするが、それは3に続くんだろう。やはり出来は良いしミカエルは見境がない。相変わらず変態率が高いが、若いカップルは正常だった。残念なことにはなるが、そこに良心を見た気がする。

これミステリとしては探偵コンビであるリスベットとミカエルが一度もまともに会わないまま終わるんだよね。そのへんも良くできてて面白かった。すれ違い的なところもあり。

あと金髪の巨人はちょっと現実感がないな。人物設定に無理があると思う。しかもこのラスト、これじゃ絶対終わらないよね。そこも3部に続くのか…

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (スティーグ・ラーソン)

スウェーデン発のベストセラー。人口900万人の国で300万部売ったという伝説の小説。字を読む大人全員が買ったレベルか。出来は良いが、正直そこまで売れるテーマではないな。

孤島ミステリ、と言ってしまえばその通りなのだが、それに留まらない良い出来の作品だった。これで三部作の1作目ですから、次も期待できるってもんです。スウェーデンの人名は複雑で、さらに富豪一族モノでもあって(姓が同じ重要人物が多い!)、ついていくのが大変だった。