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山椒の実

Category: Books

ウォー・ゲーム (P.K.ディック)

ディックの短編集。らしさがあってワリと良かった。気軽にこういうのを読めると楽しい人生になりそうだ。だけどそれぞれ、あんまり印象には残らなかったなあ。後半のオモチャのやつとか、タイムマシンのやつはちょっとは残るけど、結末はもう忘れてしまった。そのくらいな感じで、どんでん返しも大団円もないし、どっぷり引き込まれる前に終わってしまうんだよな。

ディックと言えばどうしても、セルフイメージと現実とのギャップ…みたいなテーマを期待してしまうので、期待が高いと外れたと思うかもしれない。自分が通勤電車で読むにはちょうど良かった。

戦闘妖精・雪風 (神林長平)

昔読んでいた本。物理本で、まだ持ってるんだよね。シリーズに最近新しいのが出たということで、通しで読もうと思った。深井零、懐かしいなあ。相変わらず、お元気そうですねえ。まるで実家のような緊張感だ。剣呑。共感できそうでできない、人間らしくもあり人間らしくもない主人公。どこか現実感のない、まるで地球からフェアリィを見ているかのような雰囲気で物語が進むんだよな。

改めて、これが1980年代に書かれたことを思う。このあと実際に無人機が地上の人間を殺戮して回る世界が来て、今はもっと安価なドローンも主役級に躍り出ている。この40年。

忍者に結婚は難しい (横関大)

なんかこういう映画ありましたよね。夫婦がお互い隠れて殺し屋やってるみたいな。スミスとかなんとか…それがこの本は忍者で甲賀と伊賀だ。そして突然の推理からのモヤっとしたエンディング。テンポも良くていい感じだった。ホームドラマと組織ドラマを組み合わせたニンジャスレイヤー、みたいなものか。

この小説はTVドラマにもなったらしくて、私は以前にこのドラマのロケに出くわしたことがある。見てなかったがタイトルだけは記憶に残っていた。なるほどこういう話だったのね。映像にしても面白くなりそう。美女とマッチョがニンジャでアクションだ。そしてホームドラマと組織ドラマ…は映像的には余計で蛇足になる可能性もあるが、全体的には面白くならないとは思えない。見ればよかったな。

銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド)

人類史の概略を示して論考を加えていく。結局のところ、我々とは何なのか。再現性のない長い歴史から何がわかるのか?

人類到達の時期と大型動物の絶滅と家畜の存在、資源と軍事力の差、農業と定住による人口増加がつながっていく。あくまで一度しか起きない物語と、その捉え方が全編を貫く。

支配するものとされるもの、どうして差がついたか…慢心、環境の違い? 慢心ではない、環境だ。人類史における民族や地域の差は、環境からくる必然で説明できるのだ。

アナザーファイト (草花由)

闇キックの物語。何だそのまとめ方は…これは格闘技による男たちの救済の物語。しかし展開の都合が良すぎるぜ。普通はこうは行かない。ただ現実は小説よりキックなり、ということわざもあるくらいで。

メインイベントでの下段蹴り主体の戦術は妥当なところだろう。両者ハンデ戦でしたが、主人公側のブランクとトラウマイップスと完全アウェイと…は過剰だったかな。セイジもキャラクターの造形やバックグラウンドの深さと、セリフの浅さのギャップがあり、強制的な違和感が支配していたわけだが、それだけにラストのアレは何なんだと。

「年収6割でも週休4日」という生き方 (ビル・トッテン)

んなこと言ったってなあ。今の6割じゃ子供を大学にやれないんだよ。

と言いたくなるタイトルだが、会社帰りに通りがかるところにビルがある会社の、名物社長さんが15年前くらいに書いた本。

個人の小規模農業はいいなと思った。ド素人の私から見て、人糞肥料はぎょう虫との関連からやめたほうがいい気がしたが、まあそんなに大きな害でもないのかもしれない。肉に対しては味的な好意を持っているので、自分が肉食をやめるシーンは想像できない。クリーンミートには期待している。

フランケンシュタイン (メアリー・シェリー)

これ青空文庫にあるんすね。それもそうか。派生物も多く、その後の人類に多大な影響を与えたホラーSF長編。

物語のスジはもともとは知らなかったのだが、そしてSF超入門を読んであらすじを知ったのだが、なかなかの良さがあった。鳥山明が同じ物語を書けばそれは人造人間とドクター・ゲロになったんだろうし、仮面ライダーとかもその系譜かな。

創造主と創造物。それぞれの苦悩、というテーマは十分に深いから、その大きな流れを伝える一作、という評価になるんだろうねえ。後世の作品はそれなりに縒れるけど、このフランケンシュタインと怪物はどうか。

普通に出来が良くて、現代人が読んでも充分に楽しめる内容だった。読んで良かった。身勝手な天才にふりまさわれた犠牲者と、犠牲者の犠牲者を思うと、悲しくてしょうがなかった。つまりこれ、主人公だけが群を抜いてクソ。

ブラッドベリは歌う (レイ・ブラッドベリ)

SF系の文章家、ブラッドベリの短編集。中村保男訳の版。

フワッとした、結末にインパクトを置かないものがほとんどだが、中ではリンカーンを暗殺するやつが良かったかなー。SFらしさもあり、SFらしくなさもある。

ディケンズのやつもそうだけど、なんか狂った人が出てくる話ばかりだな。小説は少なからず、みなそうか。

ヘリコプターが頻繁に出てくる。当時はもっと一般人が使う乗り物になると思われていたんだろうか。

あとは、ディケンズをなにか読まなければならなくなった。なんという誤算。そういうことするから信用できないんだよ、昔の作家ってのは。ブラッドベリにとっては別に誰だって良かったんだろうけど、ディケンズかー

川崎怪談 (黒史郎)

川崎市に伝わる怪談を集めた本。統一感はないし小粒なものが多いけど、それだけにリアリティがある。いろいろ集めて回った成果が見える。なかなか楽しめた。

地元だけに、自分が見知った土地でそういう謂れがあったのかという。まあそういう、地元民向けの本だよねえ。住んでいたあたりで言うと家内橋や金井観音というのがあって、割と血生臭い伝説が伝わっていた。幽霊は出ないが。別の場所で、墓地の近くで幽霊が出るとかいう話は、聞いたことがある。夜間墓地の近くを通りがかることは幾度もあるが、実際に幽霊に出会ったことは、ない。

SF超入門 (冬木糸一)

基本読書の人が書いた、SFを使って現代や将来を見ていく本。書評だけど、テーマが良くて面白かった。文章も読みやすく、次々に興味をかきたててくれる。すでに現代は総SF時代。現実になったものも多いし、これから現実になるものも多い。横浜駅SF(全国版も)なんかももう、ほぼほぼ現実だからな。

なんて思いながら読み進めた。この分野は全く、飽きることがない。あとがきを見ると、私の読書の傾向は著者とだいぶ似てるなあ。質と量はだいぶ違うけど、傾向が。時代小説、古代中国、ミステリ、SF…私も流れはほぼ同じだ。神林長平、ハマるとヤバいっすよね。わかります。