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山椒の実

Category: Books

あきらめない 脳梗塞からの挑戦 (西城秀樹)

あの西城秀樹の闘病記。脳梗塞になってリハビリを続けて歌えるようになったと。実際このあと2004年の市制記念試合で私もYMCA踊りましたからね。なつかしいなぁ。声量が足りなかった川崎麻世っていまどうしてんだろう。元気かな。あれでヒデキが凄かったんだということは再認識した俺たち。

で、こないだも市制記念試合があったので、この本を手にとったわけだ。

いろいろ書いてあるけど、西城秀樹とて人間なんだなぁ、という感想が適切かな。脳梗塞はけっこうヤバいが、うまくいけばサヴァイブできないこともないね、ということは分かった。外国で発症したときの不安は察して余りある。可能な限り良い対処をして、良い医師にかかってリハビリを続けて、そして復帰できたわけだ。まあこういう本書くのは再発フラグ…というのは本当の話で、このあと再発して再度復帰するところまでがセットだよね。

黙示録3174年 (ウォルター・M・ミラー・ジュニア)

滅んだ世界がまた滅びに向かう…その人類の壮大な自殺をキリスト教の世界から描く。なかなか読ませる本だった。この本がこの私が生まれる前に書かれていたんだから、なかなか古代人も侮れんものだな。いや普通に凄いのだが。

これキリスト教以外の宗教が生き残らなかったのかね…日本仏教ベースで同じこと描いたらまた違うんだろうな。

単純化革命から知識を守るために教会がとった手段が「ひたすら隠す」というものだったけど、現代人として思うに知識の喪失を避けるためにできることは、知識を広めることだけだろうと思うんだ。

洞窟オジさん―荒野の43年 平成最強のホームレス驚愕の全サバイバルを語る (加村 一馬)

親から虐待を受けて中学生で家出して、そのまま人間界を離れて洞窟に住んだ男が壮絶な半生を淡々と綴る。なんともすげー話。シロの話とか、サバイバル関連の知識を詰めた話とか、途中で優しかった兄に会う場面なんかもいいし、ドラマだよね。ただやっぱり人間界を離れて徒歩でいろんなとこに行ったり、自殺しようと思って失敗して富士山の樹海にも行くんだけど…

凄惨な話と思いきや、本人の資質か編者の特性か、暗さがあんまりないので普通に読める。悪人ではないんだよな。ただこの人相当汚かったろう。

審判 (田代まさし)

田代まさしが最初の出所後について記した本。まあ、割と元気に再起に向けていた頃の話で、その後また薬物で捕まっちゃうというオチがあるんだけど、出版時期から言ってそこまでは書かれていない。でもそれを知って読むと薬物の怖さがむしろ分かるというこのアングルね。絶妙なものがある。

この本の出版から次に薬物で逮捕されるまでに1年ちょっとしかかかってないわけだ。それも、無分別な若者ではなく、50過ぎて紆余曲折、酸いも甘いも噛み分けたはずの、いいオッサンがだよ? 割と寛大に仲間の支援も受けていた奴がだよ??

安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生 (安田 隆夫)

ドンキの創業者が引退に際して語る、その物語。割と楽しく読めると思う。まあ若い頃の麻雀の話とかも交えつつね。

ナイトマーケットの発見、深夜営業に圧縮陳列にPOP洪水でアミューズメント性が高い店作り。どうにもうまくいかないので権限を部下に委譲してゲームのように競わせてみたら好転したらしい。長崎屋を買収したのがドンキだったというのは意識してなかったな。あんまりドンキ行かないんだよねおれは。最後に行ったのはいつだったか…そういう、俺みたいなファミリー層向けの店舗も出しているみたいだ。

科学者は戦争で何をしたか (益川 敏英)

素粒子でノーベル物理学賞を受賞した学者で左派の闘士が語る戦争と科学者の関係。平易で読みやすい。深いことは言ってない。言ってるのは非常に単純な原理、「おまえら科学者である前に人間だろ!?」と。まあホント、大したことは言ってないな。誰もが思うことなんじゃないかという気もするし、そういうことを何にも考えてない人もいるんだろうなとも思う。

実際のところ、私も若い頃こういう類のことを考えていた。そして新卒入社して、最初に上司になった人に飲み会で聞いてみたことがあった。つまり、軍事関連の仕事があったらやるべきか否か。僕は敵を殺すために就職したわけじゃないから、やりたくないと思ってたんだよね。敵といえども命は重いよ。だから良心に聞いてダメなら会社辞めるしかないなコレ、と。

この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた (ルイス・ダートネル)

文明が消滅したあとのサバイバル術、及び文明の復活のさせ方について論じた実用書。非常に興味深い。著者の知識量に圧倒される。現代はThe Knowledgeというものらしい。知識、だけじゃちゃんと訳したとは言えない言葉らしくて、うまい日本語がなくてこういう邦題になったみたいだ。

この本の魅力は、この知識量の詰め込み方。とても一冊に収まる量ではなかった気がする。こういうコスパの良い知識のタンクは一家に一冊持っておきたい気分になるよね。まあ僕は大破局が起きたら生き残ってないんじゃないかと思うけどね。けっこう判断悪いからなー。

わたしを離さないで (カズオ・イシグロ)

クローン系SF。TVドラマにもなっていた(私は見てないですが)。ラストまで続く静かな進行が特徴的。こういうのも、いいよね。

臓器提供のために育てられたクローン人間の物語。まあよくあるテーマと言えばそうなんだけど、この設定でこうやるかー。というのは重苦しくも静か。無駄がなく、いやむしろ無駄しかなく? それでいてやはり悲しい。文章量も多く、リアルでいてなおかつ不自然なところがいい。このくらいディテールを書き込んでいてくれると安心して読める。いや、最後どうなるんだろうと思ってそんなに安心できなかったんだけど、この独特な読後感は万人にオススメできるだろうな。

誰がネロとパトラッシュを殺すのか (ディディエ・ヴォルカールト, アン・ヴァン・ディーンデレンら)

フランダース地方で起きた愛犬家殺人事件の全貌を追う探偵物語。

ではなくて、日本人ならば誰もが知っている「フランダースの犬」、その主人公ネロとパトラッシュ。私でもクタクタに疲れた時は反射的に「あー疲れた、パトラッシュ…」とつぶやきますからね。それについて論じた本。これは非常に良い本だった。

実際のフランダース地方(←ホントにあったんだ!!)ではこの物語は有名ではないし稀に読んだ人も嫌悪感しか持たないようだ。これ原著者はイギリス人の女流作家の女王みたいな人・ウィーダで、それでも晩年は落ちぶれていたらしいが、その人が後進国の田舎を見下して批判的に描いたフランダース地方の話なのだった。アメリカで何度か映画になったがエンディングがハッピーエンドに変更されたりしてやはり受け入れられず、日本でアニメになって受け入れられた。さすがにこの物語でアメリカンドリームを表現するのは無理ゲーだっただろうな。まあアニメは1年という期間に引き伸ばして膨らましているが、名作だよね、という。

怪奇四十面相 (江戸川乱歩)

二十面相シリーズ。二十面相が脱獄して明智・小林に戦いを挑む。大捕り物もあり、替え玉もあり、無人島にも行く。がんばれ僕らの二十面相。まあ、最後は負けちゃうんだけれども。でもまた脱獄して戦うんだ。二十面相は絶対に諦めない。

この本では二十では足りぬとばかりに四十面相を名乗る。早速のトリック、そして息をつく間も与えられぬ中、出来る限りの準備をして探偵に挑む。ここまでの悪条件でこれほど周到な段取り、準備ができるというのは超絶優秀なんだろうな、この人は。それを上回る明智・小林。二十面相という人は確かに部下を率いているんだけど、部下は名前がついているほどの大物がいないんだよな。そこが不幸か。ワンマンでは明智・小林のツープラトン攻撃に対応できないんだ。