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山椒の実

Category: Books

わたしを離さないで (カズオ・イシグロ)

クローン系SF。TVドラマにもなっていた(私は見てないですが)。ラストまで続く静かな進行が特徴的。こういうのも、いいよね。

臓器提供のために育てられたクローン人間の物語。まあよくあるテーマと言えばそうなんだけど、この設定でこうやるかー。というのは重苦しくも静か。無駄がなく、いやむしろ無駄しかなく? それでいてやはり悲しい。文章量も多く、リアルでいてなおかつ不自然なところがいい。このくらいディテールを書き込んでいてくれると安心して読める。いや、最後どうなるんだろうと思ってそんなに安心できなかったんだけど、この独特な読後感は万人にオススメできるだろうな。

誰がネロとパトラッシュを殺すのか (ディディエ・ヴォルカールト, アン・ヴァン・ディーンデレンら)

フランダース地方で起きた愛犬家殺人事件の全貌を追う探偵物語。

ではなくて、日本人ならば誰もが知っている「フランダースの犬」、その主人公ネロとパトラッシュ。私でもクタクタに疲れた時は反射的に「あー疲れた、パトラッシュ…」とつぶやきますからね。それについて論じた本。これは非常に良い本だった。

実際のフランダース地方(←ホントにあったんだ!!)ではこの物語は有名ではないし稀に読んだ人も嫌悪感しか持たないようだ。これ原著者はイギリス人の女流作家の女王みたいな人・ウィーダで、それでも晩年は落ちぶれていたらしいが、その人が後進国の田舎を見下して批判的に描いたフランダース地方の話なのだった。アメリカで何度か映画になったがエンディングがハッピーエンドに変更されたりしてやはり受け入れられず、日本でアニメになって受け入れられた。さすがにこの物語でアメリカンドリームを表現するのは無理ゲーだっただろうな。まあアニメは1年という期間に引き伸ばして膨らましているが、名作だよね、という。

怪奇四十面相 (江戸川乱歩)

二十面相シリーズ。二十面相が脱獄して明智・小林に戦いを挑む。大捕り物もあり、替え玉もあり、無人島にも行く。がんばれ僕らの二十面相。まあ、最後は負けちゃうんだけれども。でもまた脱獄して戦うんだ。二十面相は絶対に諦めない。

この本では二十では足りぬとばかりに四十面相を名乗る。早速のトリック、そして息をつく間も与えられぬ中、出来る限りの準備をして探偵に挑む。ここまでの悪条件でこれほど周到な段取り、準備ができるというのは超絶優秀なんだろうな、この人は。それを上回る明智・小林。二十面相という人は確かに部下を率いているんだけど、部下は名前がついているほどの大物がいないんだよな。そこが不幸か。ワンマンでは明智・小林のツープラトン攻撃に対応できないんだ。

赤ちゃんの値段 (高倉 正樹)

割と凄い話。日本の子供が海外に売られていくという話なんでね。

問題はいろいろあるけど、一番大きいのは日本では養子という制度があまり発達していない。そのため施設が預かった子供は9割方独立するまで施設で過ごすことになる。それよりは養子で家庭に入ったほうが幸せに人生を送れるんじゃないかというところ。そのへん発達している国は普通に養子に出したり受け入れたりする。ジョブズとかも養子なわけだしね。

そんな中でわざわざ海外から子供を取り寄せるというのはどうなのか。自分の子供として育てるからには返せと言われたくないし、生みの親とのつながりを持っていてほしくないという気持ちはわかるし、海外からもらってくればそういうトラブルが起きる可能性が少なかろうというのは、まああるかな。ただこれって完全に養父母側の視点でしかなく、子供視点で考えれば長じて実父母を探したいとなったときに海外よりは国内のほうがいいんじゃないかな。日本なんて基本言葉通じないし。それに割と裕福な日本から海外に貰われていくというのはやっぱり違和感があるよね。これも結局は貰い手がいないのが一番の問題。

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 (井川 意高)

あの100億スッて伝説になった不死身のギャンブラー、大王製紙の会長が書いた懺悔録(?)。懺悔録とは言ってもあんまり反省してない。正直そんなに悪いことしたわけじゃないと本人も思ってるだろうし、実際私も金持ちがギャンブルでスるというのは特段悪いこととは言えないと思うよ。

まあ100億という金額はスッた額で、自身が過半の株式を持つ子会社の余剰資金を借りたカネの総額は85億とかそのくらい。明るみに出た時点での残債は55億くらいだったらしいが。で、100億で何をしたかって、マカオに毎週末もうでてバカラに明け暮れていただけ、というね。ホント、他愛もない。摘発されたってゆうけど、それ悪事なの? っていうね。

心理試験 (江戸川乱歩)

明智小五郎シリーズの第2作。割と良く出来ていると思ったが、ラストが急で、デウス・エクス・明智みたいな感じの印象になってしまうのが難点。

しかしこの事件、これで解決でいいのかな。中世を生きる現代日本司法の自白偏重の先駆けとなった作品と言えてしまうのでは? という懸念も。

やっぱ少年探偵団シリーズのほうがいいなと思ったよ。

D坂の殺人事件 (江戸川乱歩)

明智小五郎の初登場作品。なかなか凝った作りになっている。楽しめた。

この頃の明智小五郎はまだ変装もしないし武闘派でもない、ただの書生。書生ってどういう立場なんだろうな。学生? それとも今で言うニート?? 語り手も同じ立場のようで、喫茶店で時間をつぶすカネくらいは持っていたみたいだが。

少年探偵とか出てこない、純粋に大人向けの話。SMとか出てくるもんね。ラストもそれほど鮮やかではなく、小林くんが刑事だったりして(小林少年の父親かなんかかな?)。

沈黙のフライバイ (野尻 抱介)

最近流行りのリアル宇宙SF。うーむ、いい話だなぁ。同作者の「太陽の簒奪者」が凄く良かったから読んだんだけど、この本も読んでよかった。短編集なので大団円があるわけではなく、それぞれに日常が過ぎていくという趣なのだが、それでもまとまりもあって。

にしても、軌道エレベータはやくできるといいねぇ。いろいろと夢のある話だったり、夢のない話だったり、短編それぞれあるけれども、根底にあるのは宇宙と科学。そのへんは本当にSFの真骨頂と言える。科学をベースにフィクションを加えて物語を語る。

太陽の簒奪者 (野尻 抱介)

ファーストコンタクトもののSFですね。割とハードなやつという感じ。非常によく書けてるということが伝わってくる。このリアル。

途中までは凄く良かった。まあこれコンタクトしたところで「うーん」となるんじゃないかというね。まあそうだよなぁ。実際コンタクトするまではかなりリアルに書けても、コンタクトしたところはリアルに書けないよね。

私としてはかなり好きな部類。この作者の本はもうちょっと他にも読んでみたいところ。

少年探偵団 (江戸川乱歩)

またも青空文庫で少年向け古典小説。

しかしまあ、子供向けとはわかっていてもグイグイ引き込まれるストーリーテリング、そのテクニック。凄い。今でも色褪せない。永遠とはこういうことを言うための表現なのかもしれないね。

まあ言葉狩りが進んで最近だと許されない表現もチラホラ。それも含めての古典、だよねー。まさかまさかで最後の爆発オチも今後に期待を持たせてくれて熱く、良い。やっぱ江戸川乱歩は凄かったんだな。