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山椒の実

Category: Books

幼な子の聖戦 (木村友祐)

中編2本の本。

1本目は田舎の選挙の話で、2本目はガラス屋(ビルの窓拭き)の話。どちらもなかなか印象的な物語だった。

選挙の話は、構図としては善と悪をはっきりさせた上で、主人公をうまい場所に立たせて語らせ、動かした感じ。唐突とも思える終わり方の余韻もじっくり味わえるよね。

ガラス屋の話は、死亡フラグの回収がどうもね、引っかかるんだよね。ただ描写がすごく良かった。自分が通っている会社のビルにも窓拭きの人が来ることがあるんだけど、自分がやることを想像すると足が震えるところではあるよね。俺としては、中から拭かせてもらいたい。あるいはロボットで拭けるようになるといいのかも。自分の家の近所に高所作業の会社の事務所があった。普通のアパートの一室に看板立ててたなー。今は移転したみたいだけど、あるイベントでそこの会社のブースで高所作業体験みたいなのをさせてもらったことを、今でも覚えている。あそこは巨大建造物の検査とかの会社だったから、窓拭きはやってないのかもしれないね。

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 (ジョーン・C・ウィリアムズ)

アメリカの民主党の支持者が、トランプを勝利に導いた支持層を分析した書。かなり正確だと思わせる分析だ。合点がいくし、日本もあるいはこの路線が主流派になる日がありうるかも、と思わせるものがある。最初はこれアメリカ特有のものなのかなという感じもしたけど、日本にだって応用可能な話だと思ったんだ。

ホワイト・ワーキング・クラスというのはアメリカの白人労働者層で、今までは「中間層」つまり富裕層でも貧困層でもないという部分に一括りにされていた人々。それをエリート側(専門職)とそうじゃない側(ワーキング・クラス)に分類し、ワーキング・クラスの苦悩に対応しているのがトランプだった、と。ワーキング・クラスが欲しいのは援助ではなく、安定した仕事。それを勤勉にこなす人生を誇りとしている。

そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常 (早川史哉)

あるサッカー選手が大病を患いました。その復帰までを記した自伝。公式戦に戻れるまで、3年以上かかった。話としては知っていたけど、詳細は知らなかった。途中契約凍結していたらしいので負担は少なかったのかもしれないけど、3年待ったチームも頑張りましたよね。その間にJ2に降格し、選手も大幅に入れ替わった中で。似た境遇としてすぐに思い浮かぶ大宮の塚本もこの本に出てくるけど、塚本はプロ選手には戻れなかったが、大宮で活動を続けている。

奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態 (巣内 尚子)

技能実習生の話。国によって制度が違う中で、ベトナムから来る人たちはかなりひどい状況に追いやられているらしい。多額な借金を負って日本にやってきて、ひどい扱いを受ける。なかなか凄い話で、凄い本だった。

いやーほんとひどい話よ。許されてるのこれ。ベトナムしっかりしろ。借金を強いられる制度を改善すればだいぶマシになると思うけど、どうかな。家賃の話とか、日本側もひどいんだが。人権ってのは基本的にホモ・サピエンスの全員に与えられているもので、基盤だと思うんだけど、それがない立場ってのがあるのか。

我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち (川端 裕人)

アジアの原人たちの多様性について。監修の海部さんという学者の研究に密着して紹介する。

人類。今はホモ・サピエンスつまり新人しか世の中にはいないんだけど、かつては猿人・原人・旧人がいたわけだ。共存していた時代もある。アフリカから出て地球に広がった原人の子孫はいなくなって、改めて新人がアフリカから出てきたというわけだ。

で、地球の人類はなぜ我々新人だけになってしまったのか。

という謎が根元にあり、アジアの原人の化石をいろいろ研究していっていろんな新しいことが分かってきて…という話ですね。凄いよこの研究。学術に寄りつつも読みやすい文章構成が心地よい。

王国 (中村文則)

前作「掏摸」の兄妹作。前作の登場人物も出てくる。相変わらずの不気味さと、夢見がちな犯罪者主人公。

なかなか楽しめた。のはいいんだけど、こういう小説は感想を書きにくいね。ネタバレとかにつながると野暮だし。

唐突に本名を知られる衝撃や、主要人物が偽名なので呼び名が変わるのでぼんやりしてると混乱する傾向がある…のは前作と同じような展開かな。

掏摸 (中村文則)

ハードボイルドな犯罪小説。主人公が優秀なスリ。これ、誰も幸せにならない話ではあるけどね。主人公の内面をぼんやりと、しかし詳細に描きながら、淡々と綴られる離れ業の連続。そして悪役。これが表現できるのが小説なんだよな。

かなり楽しめたので、続編みたいなものが出ていると知り、そちらも読むことにしたよ。

つけびの村 (高橋ユキ)

「つけび」川柳で有名になった山口の限界集落の5人殺し事件、そしてその舞台となった限界集落を追った暗いトーンのルポ。その真相に迫る。噂話と悪口ばかりの世界…まあ狭い世界ではありがちの話ではあるよね。田舎か都会かっていうよりも、小さなコミュニティではそうなりがちだ。なんでそうなるんだろうね。私はそういうの嫌いで、すごく嫌な気持ちになるんですよ。学生時代の部活で、そういう方向に行きかけたことがあって…(略)

ふるさとって呼んでもいいですか:6歳で「移民」になった私の物語 (ナディ)

イランからビザなしで移ってきた一家。超過滞在の果てに、特別在留許可をもらって日本で無事に暮らせるようになり、そして…学校にもちゃんと通って大学まで出てる。本人も親も、頑張ったよね。この人はもともと頭が良かった、という部分も大きいと思ったけど。

文化と、国と…いろいろなことを考えさせられる本ですね。

現実として、私は千代田区にある会社で働いていますけど、会社周辺のコンビニとかチェーン店の店員はほとんど外国人です。県境をまたいで田舎にある自宅付近はまだ地元のおばちゃんや学生さんが主力だったりしますけど、田舎が都心の10年後を追いかけているとすれば、まあ全国そうなるのも時間の問題です。固有の文化の継承ってのも大事ですけれども、日本は古来より渡来の文化を融合させるみたいなところに心を見いだすのが好きだったりするんで、それがいい方向に転んで欲しいものですね。だから文化を持ち込んだ人々にはその文化を大事に伝えて欲しいなーなんて思っている。

「学力」の経済学 (中室牧子)

人文系の学問の中で最も信頼できる経済学。経済学って「応用数学」みたいな感じですからねー。その経済学の先生が教育部門を経済学の手法で研究する。アメリカではもう一般的な手法らしい。日本はこの分野で大幅に出遅れている。

かなりの説得力を持っているね。効果のある教育手法を導き出すにはどのように実験し、どのように分析すれば良いのか。ただアメリカの後追いでしかないんだよね。追わないよりはマシだが。日本ってこういう実験をしづらい事情があるんだろうなー。後追いなりに、追いかけて紹介してくれる本って感じかな。