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山椒の実

Category: Books

九尾の猫 (エラリイ・クイーン)

高校の頃、推理小説が好きな同級生が語ってくれた、この作家のやつを読んどけば間違いないという扱いの著者を示すリストの筆頭にエラリイ・クイーンがいた。当時すでに古典。それから20年以上の時を経た今、読んで、どう感じるのか。

まあその20年以上の間、私はあまり網羅的には読まずにつまみ食いで推理小説の読書を嗜んでいたわけだが、エラリイ・クイーンのこの本の新訳版が出てた。ので、興味を引いて読むことに。

謎に迫る手がかりに全く手がかからず、全く進展のない展開がひたすら進み、読者も登場人物もフラストレーションを溜めていく。ジリジリしつつ、最後はうまいこと収めた? いやオレは収まってないと思うけどね。

僕の人生には事件が起きない (岩井勇気)

お笑い芸人のほのぼのエッセイ集(?)のようなもの。

まああんまり印象に残る話は少ないかな…葬式の話と、相方への評価のところは残ったか。日常の一コマとは言いつつ、引きつけるところは引きつけ、ダラダラならないようにしてあって、割と文章は上手いと思う。

ただ自分が悪いんだけど、私の最近のお笑い芸人に関する知識が絶望的なので…まあお笑いのことはあんまり書いてないから、どこかで芸人やってる人が書いた文章、という読み方でも全く問題なく読めた。そのへんの構成も上手いと思った。熱のあるファンにとっては物足りないのかもしれないが、おそらく私のような世情に疎い読者をターゲットにして書いているのではないか?

人質司法 (高野隆)

日本の司法の闇を知り尽くした法律家が、その闇の闇たる部分を解説した書。なかなかすごい。読んで良かった。人質司法というのは、身体拘束をするかしないかを決められる権限を使って不利益を受け入れさせることを迫るという構造を指している。実際自白せずに保釈されるケースは異常に少ないらしい。まあ自白したからって保釈が認められるとは限らないみたいだけどね。

ひとたび被疑者となったら、何の武器も防具もなし、スッピンで戦わなくてはならないのか。恐ろしいな。まあ、これが「中世」と表現される状況なんだなあ。その異常性を認識しない市民が多いというのも違和感があるよね。なんかの術にかかってるのか?

流れよわが涙、と孔明は言った (三方行成)

なんて言うのかな、SFというジャンルでいいんだろうか。SFベースの、ふざけた文章。人気あるんだろうか。

短編集だけど、この中では『闇』が良かったかな。まあ謎という謎が何も解き明かされずに雰囲気だけで終わるんだけど。ただまあ、この路線で長続きすることはないような気も…軽い気持ちでサクッと文章を読みたい時にはいいかもしれない。

余談になってしまうがタイトルの元ネタはディックの小説で、私は若かりし頃P.K.ディックが好きだった。ディックの小説に出てきたフレーズを長めのパスフレーズとして使っていた時期もある。そこでディックがよく扱ったテーマがベースにあるのかも、と思ってこの本を読み始めたわけだが、全くそんなことはなかった。

アルテミス (アンディ・ウィアー)

あの名作『火星の人』のアンディウィアーの第二作。それだけで読まずにはいられない。出来はどうか。

月面基地観光都市での大立ち回り劇…という表現が適当だろうか? 映像化を意識しすぎかなーと思った。説明が多いのも気になった。まあ説明は必要だよ? だけど、分量が。あとは現実感が少ないかな。

最後あの状況で誰も死なないなんてことがあるんだろうか? 子供や病気持ちだっているだろうし。

ワイルドサイド (スティーブン・グールド)

ゲートの向こうに、人類の発生しなかった別の地球が広がり、少年たちの冒険が始まる。

いやー著者の名前から、あのワンダフルライフのグールドだと思って図書館で借りてみたんだよね。途中まで読んで生物相の話に近いものがあったりしたんで、こういうのも書いてたのかーとも思いつつ、でも少年少女向けの本だし…と調べてみたら別人だった。普通に読めたから、まあいいや。

ちょっと全体の構成がわかりづらいところはあった。一体何が目的なの…というね。40も半ばを過ぎたオッサンが読むような話でもなかった気がするけど、暇な夏休みの読書としては、これでいいかと。

アンダークラス (相場英雄)

外国人実習生の問題とか、戦後の貧困とか、いろいろな世代が絡みつつ、人が死んで、事件を解決していく。かなり読み応えがある展開にはなったが、一気に読めた。

ジャンル的には社会派ミステリっていうのかな? まあパッと分かるモデル企業はいいとして、そのリアリティがなかなか凄い。実際にそういう世界があるっていう現実の怖さがある。人間の尊厳とは。

吠えない犬 (マーティン・ファクラー)

日本にジャーナリズムがどのように政治に打ち負けるようになったのかを記した本。著者はニューヨークタイムズの記者の人。ジャーナリズムを殺しにかかったというのは安倍政権の一番暗黒な面では。トランプの戦略もメチャクチャではありつつ狡猾だったようで、まあ対比させて論じられてしまうのは妥当なのかもしれない。

それでだ。ジャーナリスト世界がこんなに脆弱なものだったとは。まあ思ってはいたけど、こうやって突きつけられるとやはり改めて感じるよね。自分の感覚ではネット世界の言論の歪みに関しては電通の仕事が大きいんじゃないかなと。ジャーナリズム世界ではどうなんだろう。確かに誤報があったりはするけど、偉い人の失言なんかとの頻度の違いで言えば、新聞の方がまだヒット率は高いでしょうよ、と思っているけれども。

星系出雲の兵站 (林譲治)

ハードなSF。人類は地球とは異なる複数の星系にまたがる存在になっていたところ、敵対的な異星人が…の、第1部(4巻セット)。なかなか読ませる。最初はあまり期待していなかったが、割と夢中で読むことになった。第2部も読みたいねえ。

息詰まる展開、相手への理解の進め方、勝利と敗北、エピローグの後味。いやーそれにしても1巻のエピローグはすごかったなー。

しかしこれ、宇宙戦と考えると移動も生産も補給も、スピード感が早すぎるよね。現実的には。