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山椒の実

Category: Books

正義を振りかざす「極端な人」の正体 (山口真一)

高校から大学にかけての時代、私は中庸でありたいと思っていた。今でもそう思ってる。この単語は「凡庸」と混同している人も多いのだが。本来の意味は、偏らないこと、そして変わらないこと。それを保てなくなることをこそ、私は恐れるのだ。自らの老いにより判断力は日に日に鈍り、ネットの気を利かせたお節介なパーソナライズにより受け取る情報は偏っていく。それに抗うために、この本から何らかの示唆が得られるかどうか。

別に応援してるスポーツのチームの情報をパーソナライズしてくれるのはいいんですよ。今は競技で括るような雑なカテゴライズじゃなくて、チームで見てくれるし。ただ、時事問題みたいなものはもっと広く知っておきたいわけよ。いろんな意見と対立軸、論点を押さえておきたいと。

11の国のアメリカ史 分断と相克の400年 (コリン・ウッダード)

アメリカの建国神話の新説? 新説なのかどうかはよくわからないが…割と楽しく(?)読めた。

高校生の頃に(子供向けの)アメリカの歴史の本を読むという英語の授業があった。自分にとっては割と難しかったんだけど、そこで大体どういう建国のされ方をしたかというのを知った。だいたいね。なぜかピンポイントで「プエブロ」という単語を覚えているのはそのせいだ。逆に世界史の一部でアメリカ史を習った記憶はないんだよね。まー私立の付属校だったから、カリキュラムが標準からは外れてたみたいで。

ワン・モア・ヌーク (藤井太洋)

狂人の天才が集まって悪いことをする話…? まあその表現は表現として、面白い話ではあった。主要登場人物がそれぞれ別の思惑を持っているのがいい。それぞれ主役を張れるくらい中身がある。騙し合い、腹の探り合い。その果てにあるものは?

この本を読もうと思ったのは、勤めている会社の近くの地理が出てくるという話を聞いたから。のっけからアラブではあるんだけど、確かに出てきた。なるほどあのへんか。

しかし、事実は小説よりさらに先を行き、東京オリンピック2020はコロナで延期…まるでSFの世界なんだな、我々が生きているのは。

電話をしてるふり (バイク川崎バイク)

BKBの人の書いた、ショートショート集。なかなか良くできていて、ファンの人以外の人の鑑賞にも余裕で耐えられるクオリティ。本のタイトルにもなっている一編は抜群に良かったが、それ以外もなかなかの腕前だった。

小学生の息子も読んでましたが、後から自分も読んでみたら、ちょっと小学生が読むには早いかなーと思う、夜の街が舞台になっている内容が多かったかな。

中高年ひきこもり (斎藤環)

ひきこもりに関する本。

目立たないけど、割と多いんですね。今回のコロナのおかげで私も外に出ることは少なく、家族以外の人間との接点はなくなってしまいました。まあ会社の人とは通話もあるしたまに会社に行くこともありますけど。だから、自分の場所からは、「ひきこもり」という生活は薄い壁の向こうにあるという感覚がある。紙一重とまでは言わないが、岩盤が我々を隔てているとは言い難い。

この本はいろいろ書いてあって参考になった。人間の脳ってへんてこりんな反応をするようにできてるんだろうなと想像する。依存症に関してもそうだけど、刺激の与え方一つで簡単にバグるんだ。神ですらない、狭い世間の匙加減ひとつで人生が変わる。その柔軟性が種としては強みであるのかもしれないね。

トマト缶の黒い真実 (ジャン=バティスト・マレ)

トマト缶。なんと平和な物体だろう。しかしその先には深い深い闇があった。またすごい本を読んだなぁ。

アメリカではケチャップは正式に野菜と認定されていて、ケチャップがドバドバかけられたピザがサラダという扱いで給食に出てくるらしいです。カロリーゼロ理論に近い。

それはともかく、缶詰やケチャップに使われるトマトはなかなかブラックな作られ方をしている。アメリカ・カリフォルニアの機械化の話は確かに残酷な面はあるが非人道的とまでは思えなかった。究極の効率を追い求めつつ、アメリカ的な話だよね。中国の新疆ウイグル自治区の話もまあ、アメリカ方式を目指してるんだろうなって。軍との関係はかなり勉強になったよ。イタリア南部の話はわりとひどいな。マフィアが仕切り、移民をこき使って…

レームダックの村 (神林長平)

世界が滅亡に向かう。その時、日本のムラでは…

この著者らしい、長台詞の思考が現実になっていくやつね。割とクセになる。ちょっと無理があるんじゃないか、という感想を塗り潰していく長い台詞と展開。読者は徐々に世界設定を捉えながら、どれがハッタリでどういう思惑で…と考えながら読み進めることになる。

昔はただ好きってだったんだけど、この年齢になって読むとこれ、著者はかなり大変な作業をしてるんだろうなと想像してしまう。動きは少ないが目まぐるしく変わる状況と登場人物それぞれの思惑、無駄のない長台詞と思考の応酬…

ゴールデンスランバー (伊坂幸太郎)

逃亡者系の小説。なぜか人望がある奴なんだけど、逃げ切れるのか、それとも?

ちょっと都合が良すぎる展開もあるんだけど、それでもなかなかいい感じに読ませてくれる。損得で言えば全員マイナスになってて、大きな謎も残されたまま。ほとんど誰も報われないんだけどね、まあなんだかんだで楽しく読めたから、それでいいか…って感じ。

下流喰い (須田慎一郎)

小泉政権末期、2006年ごろの本。当時は消費者金融が激動期を迎えていた。今は当時よりは下火かな。歴史を感じる。そのあとの、過払金請求の弁護士側のビジネスも、もう少ないんじゃないかなという印象がある。なかなか悪辣だったよね。竹内力の『ミナミの帝王』とか好きだったなぁ。

当時のこういう、貧乏人から絞り尽くすビジネスって今はどうなってるんだろう。思いつかないな。さらっと出てこない。もうちょっと知識にアップデートかけてかなきゃなー、と実感した。人類にとって、この方向のビジネスがなくなるわけはないんで、我々はその罠を避けて生きなければならない。

私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏 (永江朗)

ヘイト本対策委員会、みたいな本。ヘイト本というのは何だろう、ネットから拾ってきた言説で中国とか韓国を叩くだけの、内容のない本ね。ネトウヨ向け? 割とよくある。確かに世の中の本屋で並んでいる光景を見たことがあって、誰が買ってるんだろうと思ってた。ネトウヨは実は読書習慣がある人が少なくて、むしろ老人男性がよく買っているらしいよ。で、国内の老人男性は偏った尊皇攘夷? 思想化が進んでいる。あいつらなぜか反米ではないんだよな不思議と。かつて祖国を占領し今も陽に陰に支配下に置いているというのに。屈辱感じねーの? こないだ読んだ日本マンセーみたいなノリの気持ちの悪い本もこの範疇にある。