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山椒の実

Category: Books

「カルト」はすぐ隣に (江川紹子)

オウムに取り込まれた若者たちを追った本。実は自分の高校/大学の先輩も含まれている。だいぶ離れていてかぶってないので面識もないけど、部活も同じだったから、ある程度の感情はあるんだよね。地下鉄サリン事件の時に上九一色村の近くで、その部活の合宿をしていた。ニュースを聞いて「やばい」となって家族の安否を確かめる先輩の姿を覚えている。

あとは大学の近くでオウムの残党が何かやらかす、みたいな噂を聞いた日があったなあ。単なる噂で気にしたつもりはなかったんだけど、その日なぜか朝の講義の時間を1時間間違えて早く着いてしまって、教室に誰もいなくて、やってないじゃんとそのまま帰ってしまったことがあった。休講のお知らせも出てないし…帰る途中で気づいたんだけど、そのまま帰ったな。あんまり真面目な学生じゃなかったもんで。やっぱり気にしてたんだなと自己を認識した。普通なら、そんなにドジじゃなかったはず。

朝日平吾の鬱屈 (中島岳志)

大正時代の代表的なテロリスト、朝日平吾の評伝。とりあえずKとかいう文筆家は誰だか知らんが、死ぬべきである。…というような過激なことを言って本気でやったのが朝日平吾的存在ってことになるのだろうか。

財閥のトップをやってその場で自殺。激しい性格で方々で問題を起こしていた。ソリが合う人がいなかったんだろうね。ただ唯一の友人はいたみたいだし、現代でフォーカスされているような、完全にボッチの孤立でもなかったみたいな感じだよな。行動力はオバケ並み? 同棲したり、遊女と遊び回ったり。激しい弁舌で渋沢栄一に金を出させたり。文章もかなり上手かったようだ。

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 (青柳碧人)

「オズの魔法使い」の物語をベースに、紅の探偵が事件を鮮やかに解決していく復讐の旅物語。全てを統べるひとつのクッキーを火口に投げ込んで滅ぼさなければ! そのために遠くカンザスの地にビンテージワインを届ける! そのウサギの足のお守りの謎とは…なんか混ざりすぎてねえか? 「ごんぎつね」まで混ざってた気が。おまえだったのか!!

決め台詞を持つ探偵のキャラクターも悪くないしストーリーの繋がりもあって、童話風の急展開の空気感。なかなかいい出来だった。

ユニコード戦記 文字符号の国際標準化バトル (小林龍生)

ユニコードの標準化の前線で頑張っていた人の話。小学館の編集者からジャストシステムに移って、ユニコードコンソーシアムへ。

すごい話が多かったな。異体字セレクタのところはこの人の仕事みたいですね。今ではユニコードは絵文字も取り入れたりしてますが、そこでも異体字セレクタはかなり活躍している感じがあるよね。

こいつの副作用? だと思いますが、環境によっては濁点が2文字扱いになって、濁点のひらがなを書いてからbackspaceを押すと濁点だけ消えるという状態になったことがあります。MacとかPDFとかで顕著だった気が。これはこれで便利だったりするのかなと悩んだりもしました。慣れるべきか、慣れられるワケがないのか。あと中華フォント問題とかね。中華フォント問題はエンコードとは関係ない? 話だけど。

黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い (畠山理仁)

いわゆる「泡沫候補」的な人たちを丹念に取材した本。なかなか考えさせられる。奇抜なことをして人目を引こうとしている人もいるけど、それには理由があって…そして実際に政策自体はかなり真面目に考えている。資金力や知名度がないとどうにもならない世界で、どう戦うか。そしてなぜ戦うのか。

すごくいい本だった。私はこれまでの選挙ではそういう候補に投票したことがないんだけど、今度からはそういう候補に投票するという選択も考えてみようと思う。理想の政治制度とはどうあるべきなのか。

自閉症の僕が跳びはねる理由 (東田直樹)

自閉症の子が書いた本。いろんな質問に答えたり、短編小説みたいなものも。文章も綺麗だし、素直に思いを書いたって感じがしますね。

小学生の頃の友達に、こういう子がいたなあ。一緒に遊んだことをなぜか覚えている。向こうが引っ越した後に1回か2回か、遊びに行ったり。こういう世界で暮らしてたんだなぁ。今頃どうしてるだろうか。

なかなか、会社で仕事してるとこういう人と関わることは少ないが、リモートになると自閉症の人も今より活躍しやすいようになるのかもしれないですね。コロナ生活の副作用。

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました (青柳碧人)

人気昔話ミステリの第3弾。とりあえずサルがやばいということはわかった。南天丸、死すべし!

なかなか楽しめたよ。誰でも知ってる話だけど、なんとなくバリエーションがあって変化があるのが昔話。それがベースだから、というのもあるだろうな。

子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには (末富芳, 桜井啓太)

子供や、子育てをする親に対して、まるで罰を与えるかのような対応をする社会について述べた本。私も実感を持つ分野の話ですね。

いろんな実感がありますね。例えば、実際手当や補助の類は安定的に運用されておらず、臨時ボーナスみたいな扱いにするしかないです。子育てと無関係な、失業給付とか生活保護とかは安定的に運用されていて、いざとなったら頼るよねという感じで冒険もできる感覚は持っているんだけど、いざ子育て関係になると、児童手当とか学費の補助みたいなやつはどうもアテにして過ごすことができない。いつの間にか条件がついたり、改悪されたりするのよね。

諸葛孔明対卑弥呼 (町井登志夫)

例の「爆撃聖徳太子」の人の出世作(?)。同時代人が戦う。日本人にとっては夢の対決。躍動感がすごい。SF要素が強いかな。SF的な考証がなかなか楽しい。なるほどー、そういう解釈ならありうるなー! みたいな。

というわけで、かなりスペクタクルに楽しめた本だった。こういう趣の物語って、いろいろあるよね。源義経=ジンギスカン説とかさ。そういや長嶋茂雄=源義経=ジンギスカンだったという時代考証放棄の凄いやつも、若い頃に読んだことがあったなー。歴史SFはこういうのだから。

人は、なぜ他人を許せないのか (中野信子)

脳科学者が「正義中毒」に関して記述した本。まあ学術的な本ではないんだろうな。適当に殴り書きしたのかもしれない、と言ったら失礼になるか。もうちょっとエッセイ寄りにした方が読める気がしたな。軽く知識を得るという目的はそれでも達成されたはず。

正義中毒。

うーん、怖いねえ。私も正義に関する本はなんだかんだで好きではあるんだけれどもw、脳が快楽を感じてるんだろうなあ。恐るべき脳の反応。普通に考えて「どうでもいい」ことに熱くなってる人々の滑稽さが、実は中毒症状だったと。