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山椒の実

Category: Books

インタビューズ (堂場瞬一)

平成元年から終わりまで、1つの時代を通じて渋谷のスクランブル交差点で大晦日に行われたインタビューを並べた本。

…というテイのフィクションの小説。

着眼点はすごいし時代を映す鏡みたいな感じで、懐かしいと思われる出来事や何やらを感じさせてくれた。ただ出会い系で会った人に本を勧め続けたあの人ほどの狂気は感じなかったなー。平成ってこういう時代だったよな、というのを感じさせてくれたのはそうだが、良くも悪くも、平成が終わった時点での著者の興味の範囲の中に収まっているよね。言語表現としても著者の能力の範囲を超えられない。つまり意外性が欠けていて、そこはフィクションの限界かと思う。真実っていうのはもっと、意外なものなんだ。

そして平成が終わり、令和は令和ですごい過激なことが起きてる現実を知ってるからね。明らかに激しい事象もあれば、なんとなく生きづらい世の中になったなと思う出来事もあり。昭和を振り返るために向田邦子のエッセイを読んだ、それと同じ位置付けで平成を振り返る目的では読めないかなあ。

スティル・ライフ (池澤直樹)

小説。まあ小説らしい小説、だね。30年くらい前の小説かな。あまり好きなタイプの小説ではなくて、なんでこの本を読もうと思ったのか、思い出せない。子供の国語の問題に出てきた文章、だったかも。

読んだ、というだけで何の感想もなかったんだけど、まあ好きなジャンルじゃないってのはそういうことなんだろうなー

レンタルチャイルド (石井光太)

インドの貧民の話。実際この本を読むのは2度目でしたが、相変わらず圧倒されました。目まぐるしく発展していくインドのムンバイを舞台に底辺の人々が、生きるために戦う。乞食、売春婦、ギャング、青年ギャング、ヒジュラ…全員が弱者で、それぞれ憎しみ、争い、食い合う。誰も得しないよこれ…

表主人公の少年乞食のリーダー、裏主人公のガイド。少年はリーダーとして慕われていたがギャングになったり、また仲間のために乞食リーダーに戻ったりしてムンバイでもがき続ける。ガイドは乞食にも見下される底辺中の底辺の立場から、自分の力で、自分だけで這い上がっていく。救いのないリアルな話の連続の中で、このガイドの這い上がりだけが希望か。

ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論 (デヴィッド・グレーバー)

何の役にも立たない、害悪にもなるような仕事の話。かなり話題になった本。シット・ジョブではなく、ブルシット・ジョブ。シットの方は単にやりがい搾取みたいなきつい仕事で、ブルシットの方は無意味な役に立たない仕事。むしろちゃんとした仕事よりも楽で、給料はいい。著者が大事にしているのは、本人の認識。やってる本人がブルシット・ジョブだと思うのは正確性があるし、メンタルの問題になる。印象的なのは、銀行家がストをやっても影響はほとんどなかったけど、ゴミ収集の労働者がストをやったら街が居住不能になったという話とか。当然だが銀行家の給料の方が何倍も高い。社会に対する仕事の重要性とは。

一発屋芸人列伝 (山田ルイ53世)

雑誌の連載かなんかで話題を呼んでいた、一発屋芸人のその後をつづった本。

自分がテレビをあまり見なくなって、そういう話題についていけなくなった時期があって、その頃に活躍した芸人の情報が得られたという予想外のメリットがあった。引きこもり本の時にも思ったけど、文章は上手い。一発当てるにはある種の必然があり、その後の人生にも味わいがある。著者自身も一発屋だけど、多才な人ですし。

ムーディ勝山と先輩芸人によるバスジャック事件のエピソードがすごく良かった。その場の空気感というか臨場感というか。そういうのが伝わってくる。

沈黙の殺人者(サイレント・キラー)・C型肝炎 250万人の日本人に巣喰う「発がんウイルス」の恐怖 (伊藤精介)

日本に静かに蔓延するC型肝炎。その感染経路は?

第5福竜丸で放射性物質を浴びた船員はその治療過程で大量に輸血を受けたが、当時の輸血用血液に問題があり、生き残ったほぼ全員がC型肝炎のウィルスを保有することになった。輸血、予防接種の注射針や管の使い回し。技術的な欠陥があった鉄砲注射。ありふれたインフルの注射で感染した人も多いようだ。どの程度広まっているのか、その実態は分かっていない。

私も子供の頃に鉄砲注射を受けたことがあります。流れ作業でザクザク注射が進んでいたが、あれは痛かったな。確かに今思えば不気味でもあった。そして、いつの間にか、なくなっていた。実際には前の人の血液とかが混入しやすかったらしく、C型肝炎の蔓延の一因になったようだ。そして記録にも残っていないとか。まるでなかったかのように誤魔化していて、被害も有耶無耶に。うん、ありえんな。

開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学 (川田利明)

タイトルなげーな。伝説のプロレスラー川田利明が郊外のラーメン屋を10年続けて、俺たち後輩にその経験を語る。

うーん、まあ、俺はラーメン屋やる気なかったけど、今後も思わないようにしとこう。文章はすごく面白かった。庶民向けの飲食業って、全般的に茨の道ですよね。単価が安すぎて割に合わないんだろう。コロナがない頃でも厳しかった。コロナで持ち帰り専門の業態にしたら逆に楽になったとか、あるのかな。ラーメンみたいな食品だと持ち帰りも対応しづらいだろうけど。

ホームレス中学生 (田村裕)

以前にかなり話題になっていた芸人本。家族解散後の少年の成長を記述する自伝。テンポも良くて、楽しめた。苦労した人は多い業界だと思うけど、その中でもかなりのレベル。いい奴だったんだろうね。助けを受けて生き続けた先に、ブレイクした後のことは読者の知識と想像に任せて…周囲の人への感謝がほとばしる。芸人本の中ではいい本の部類に入るんじゃないかな。純粋に文学としての評価は別になるだろう。

いい話にまとめようとしすぎてねーか? とか、もっとねっとりじっくり書けたんじゃないのか? とかあるけど、タレント本としてはダイレクトな言葉の流れがあってちょうどいいのかも。専業作家が書いてたら、凄い気持ち悪いことになってたかもしれない。飾らずに、事実を曲げずに書いてるんだろうと想像できる。

ソードアートオンライン3-4 フェアリィ・ダンス (川原礫)

終わってなかった、というところから始まる、続編。まーこれ、どーかなー?

内容はまあ、悪くはないかもしれんが、早くもこのシリーズを読み進めるのはやめようかと思い始めている。「通して読んでみようとは思った」なんて書いといたそばからいきなりゴメンだけど。なんつーか、まともな新キャラが美少女だけ、しかも全員主人公に恋心を抱くっていうのがついていけねえなと。そういうのじゃねーんだよな、と。ニーズの違い。シンプルに、ハードボイルド路線に行けばいいのに…。現実とその裏返しである仮想、それぞれの人間関係というアングルはいいんだけどさ。主人公も雑に初期能力が高すぎてどうかと思うところではある。

ソードアートオンライン1-2 アインクラッド (川原礫)

自分が好む犯罪者ドキュメンタリー系の本を小学生の目に触れさせないようにと思って借りた次の本は、ラノベの金字塔。

オンラインゲームの世界に閉じ込められた人々が、脱出を目指して長い戦いを続けるのだが…まあ、これがラノベなんだろうな。1巻は割と楽しめた。設定に引っ張られてたのかな。2巻はちょっとどうかと思えたが、設定の回収で物語を伸ばしたって感じ?

それで、戦いを終えた主人公が現実世界に戻ってくる描写があるんだけど、私は実生活で気づいたことがある。それは、2年間頭髪をカットせずにいると、どのくらい伸びるのかという話。私がアタッチメントなしのバリカンで削った五厘刈りの状態からクッソロン毛になるまでにかかった時間が、まさに2年だ。一度も断髪せずに。今となってはヘアゴムなしでは過ごせない。現実世界に戻った瞬間の人物に関して、筋力の衰えなどは描写があったが、頭髪やヒゲだって気になるどころの話じゃなくなってると思うんだ。