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山椒の実

Category: Books

アメリカン・ブッダ (柴田勝家)

SFの短〜中編集。いやワリと傑作寄りだなこれは…。めちゃくちゃ面白かった。すげえペンネームだけど。実在の歴史上の人物をペンネームにするのっていいんだっけ? 心配になってくる。

で、この本としては、特に表題作がやっぱりSFとしても大きな物語としてもいいと思った。最初のスー族の話も悪くなかった。最近の日本SFはこんなすんげえことになってるんだな。昔の本ばっか読んでられねーぞ。他の本も読みたいなー

しくじり審判 (小幡真一郎)

Jリーグ開幕のヴェルディ - マリノス戦で主審を務め、ストイコビッチにイエローカードを奪われるという経験をしている著者が、サッカー審判のトラブルあれこれを紹介。脳震盪でそのまま主審を続けていた試合の話とか、背筋の凍る話もあった。

チーム名が間違って記述されている部分があるのはちょっとどうかと思った。抗議くるぞー。札幌に関しては間違いが1ヶ所ではないので、誤植というか、編集者が間違って認識してるんでしょうね…さすがに著者は分かってて、校正の人が間違えて直しちゃったやつだと思いますが。ただ、合ってるところもあるんだよなあ…

アフリカ人学長、京都修行中 (ウスビ・サコ)

京都の大学の学長をやっているマリ出身の著者が京都のあれこれを紹介する。

外国から来た建築関係の学者というのは、京都を説明するには非常にいい立場だと思いますね。平安から京都に住んでる家系の人なんかだと観察できないでしょうし。京都はとかくネタにされがちな府民性というか…があるんですが、そういうステレオタイプを前提に、楽しく読めました。

母国のマリについての記述もなかなか興味深いものがあった。そういう住み方をする世界もあるのか、と。

あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選

後味の良さ優先のミステリのアンソロジー本。まあ短編だし割と出来の良いものが多い。謎は暴かれる。人は死なない。

まあちょっと軽すぎたかなー。後味がいいと言っても、大きな印象も残らない。死なないミステリ、しかも悪意が少なめ、なんて。この本の中の一番の悪人はあいつだろうけど、ちゃんと報いを受けて、捕まってるしねー。

姉妹本で、後味が悪いのだけを集めたやつがあるらしい。むしろそっちが先だったとか。ちょっと興味を引かれた。

交通誘導員ヨレヨレ日記 (柏耕一)

出版業界の高齢者が、生活に困って警備員(工事現場や駐車場での車の誘導)のバイトをする。割と本気で、取材ではなく本当にやってる。こないだのあたらしい無職に似ているけど、より振り切れてる感じだな。

しかし70代だよこれで…私の祖父は80代まで生きましたが終盤はボケて徘徊、施設に入ったらあとは寝たきりだったので、活動できたのは実質70代まででした。父は70代で病死。なので自分も70代というのは生活のためにもがく段階ではなくて、終活するイメージでいたんだけど。今後の人生設計どうしよう。年金だけで生活費出せるとは思えねーし、警備員みたいな体使う仕事せにゃならんのか? 実際こういう警備員は70代が多いんだってさ。

ルポ 中高年引きこもり 親亡き後の現実 (NHKスペシャル取材班)

いわゆる8050問題。50代の引きこもりの面倒を80代の親が見ているという、ある種の地獄を観察する。一種の共依存みたいなもんなのかなぁ。そして親もしくは子…そのいずれかが死ぬ。どうなるのか。能天気でもあり、しかし壮絶な話が続いた。

思ったのは、「人に迷惑をかけたくない」という意識は危険だなと。人は単独で生きていく種族ではなく、迷惑をかける/迷惑をかけられる範囲がその人物にとっての「世界の広さ」でもある。引きこもって家族にしか迷惑をかけていないなら、その人物にとっての世界は家族しかなくて、それ以外の社会との縁がなくなってしまうっていう仕組みと捉えることができるんじゃないかな。誰しも迷惑くらいかけるよ。私がこの文章を書いているのも、読まされる方にとっては迷惑の一種ではあるだろう。

楽園とは探偵の不在なり (斜線堂有紀)

特殊な舞台設定で探偵が舞う。舞台設定はある種のグロテスクなもので、天使と称される不気味な存在が飛び回り、2人以上殺した人物を地獄の業火で焼き殺すというもの。そこで揺れ動く人々の心理と、起きるはずのない連続殺人事件。探偵が解決に走る。

なかなか良かった。ハードボイルド風に寄ることもありつつ、そこに青臭い正義感も絡んでいく。

ちいさい言語学者の冒険 (広瀬友紀)

言語の学習において、子どもや外国人みたいに未習得の人の反応を見て言語の特性に気づくという話。特異な部分があり、知識がない状態だと過度に一般化して理解してしまうので、そのギャップが露わになる。微調整済みなのが大人ということになる。

自分の子供も狭いコミュニティの中で言葉を違う意味で使うようになるとか、そういう経験があった。「強気」と「弱気」とか。というわけで私も子育ての記憶をたどりながら読んだわけだが、なかなか面白い話だった。

音楽が聴けなくなる日 (永田夏来・かがりはるき・宮台真司)

電気グルーヴの薬物逮捕→自粛に関連する、「そんな社会でいいのかい?」な話。今やデフォルト側が「自粛する」方になっていて、深く考えない限り自粛、という感じになっている。そんな社会に違和感を覚える。3人の著者がそれぞれ持ち味を出して論じた本。

もう30年以上? 前に読んだ問答集? エッセイ? みたいなものの中で、確か筒井康隆だったと思うが、著者の人となりがどうの…みたいな話を振られた際に「人に興味はない。作品に興味がある」みたいな返しをしていた。ぶっきらぼうな感じがカッコ良かった。それを読んで以来、私はずっとそう考えるのが正しいと思ってきた。だからクリエイターが犯罪者だから自粛、という風潮には抗いたいと思っている。薬物犯は患者or被害者という側面もあって、なおさらそう思う。思うけど、それができているのか? この本を読みながらの自問自答が続いた。