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山椒の実

Category: Books

TN君の伝記 (なだいなだ)

明治の自由民権運動の思想家の人の伝記。社会の教科書に出てくるような名前の人ではあるが、名前じゃなくて事績に注目して欲しいため、匿名になっている。ただし図書館によるタグづけは無慈悲だった。隠したいわけではなくて、邪魔になるから書かないことにした、という話なので、ネタバレと言うほどのことではないか。

文章は子供向けだが読み応えはある。濃い人生を送ってたんだなあ。

なかなかに興味深いものがあった。当時の空気みたいなのが感じられる。一筋縄では行かない、日本の民主主義の成り立ち。歴史の裏側みたいなね。表の歴史はなんとなく学習してきたんだけど、こういう人物の歴史の方が面白いもので。史記の列伝みたいな。

あたらしい無職 (丹野未雪)

フリーの編集者の日記。非正規雇用の末に転職、人生初の正社員となるも1年で辞めてまたフリーに。ツテも多くて仕事もやってて、普通にフリーの編集者まるだし! って感じで、あんまり無職って感じでもないんだけど。日記形式で淡々と必要最低限の言葉を無駄なく連ねている。まあ後半はバイトとか借金とかしたりして、生々しい話では、あるよね。

「無職って感じ」って何かと言われるとまあ…よく分からなくなっていくわけですね。この本を読んで、さらによく分からなくなっていく。この人のこの状態は果たして、無職なのか? 本の中の描写では「求職中」すなわち「無職」みたいな扱いをされた場面があったりした。「無職」は求職すらしてない、ニート寄りの意味が強まる印象がある言葉。

マジック・キングダムで落ちぶれて (コリィ・ドクトロウ)

不老不死の世の中におけるホーンテッドマンションの話…どうなんだこれは。技術によって人間が変わるところと、変わらないところがあるんだという感じなんだろうけど、不老不死でそれ気にする? とも思うし、気にする人もいるんだろう、とも思う。

自分はあっさり描かれた前妻のパーソナリティの方がスッキリと納得行くものに思えたなー。やっぱ不老不死ってのはああいう、超越感がないとね! と。

都々逸っていいなあ (小野圭之介)

俳句/川柳(575)や短歌(57577)と比べてマイナーな印象のある都々逸(7775)。現代都々逸の秀作を紹介していく本。愛だの恋だのシャレだのだけではなくて、現代都々逸はいろんな要素を入れてもいいらしいね。

こういうのに行く人はどうしても老人が多くなるようで、紹介されているのは非常にこう…ジジくさいものが多いんだけど、中にはいいものもあった。自分も作ってみようかな。

最近家族麻雀をやってるので、、、

リーチかけられツモられまして 待ちを見てみりゃドラ単騎

ノバク・ジョコビッチ伝 (クリス・バウワース)

ジョコビッチの伝記。まだトップ選手…それもトップオブトップな選手なので、伝記には早い気もしたが。

5歳の頃からプロフェッショナルで、空爆の下で命をつないで練習を重ねたピザ屋の息子にして小麦粉アレルギー保持者。食事を改善するまでキャリアの序盤では棄権や故障が多かったらしい。そういうあれこれを考えると、先日のオーストラリア入国におけるトラブルはまあ、しょうがなかったんだろうなと思える。科学的にも論理的にも、考えさせられるところのある事件だったと感じた。

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた (和田靜香)

ライター稼業、バイトとの兼業で生活してきた女性がコロナ禍に苦しんで政治を思う。その思いに国会議員で話のわかる奴が応じて継続的な問答を繰り返す。その学びの過程をそのまま文章にすることで読者に伝えていく。

議員はいいヤツに描かれすぎている感じはするけど、実際悪い奴じゃないんだろうと思うよ。映画やこないだの選挙でも話題になっていた、小川さん。同じ選挙区を争うのがメチャ強力な悪人(?)だからなー。

納得させられる議論も多かったな。人口減少の捉え方とか、デフレと消費税の捉え方とか、電力の問題の捉え方とか、沖縄の基地問題とか。問題の捉え方によって論理的に対応が決まるという面が大きいので、その構図の理解の仕方で納得できるかどうかというのは非常に大きなポイント。理解を間違えなければその後は、なんとかなるんじゃないかと思う。

令和元年のテロリズム (磯部涼)

「ルポ川崎」の著者が、令和元年に起きた大きな事件の犯人の人生を深掘りしていく。その筆致は暗い。

取り扱うのは以下の4件。

  • 溝の口で送迎バス待ちの小学生と親を刺し殺したやつ
  • それを見てゲーマーの息子を刺し殺した元政府高官
  • 京アニの放火犯
  • プリウスミサイルの老人

実際に読んでみると知らなかった事実も多々。

著者みたいな人が深掘りしないと背景や主張は理解されないし、主張自体も政治的な側面は皆無で、底辺や上辺を生きる犯人が、それぞれ異なる事情があって起こした重大事件。共通点が見あたるかというと、難しいと思う。単に時期が近かっただけであって。最初と2個目は関連があるとしても、報道に影響を受けた(逆)模倣犯みたいな感じ。テロと言ってしまうのはちょっと違うかなと思う。それとも、令和最新版の「テロリズム」の定義が、こうなっていくのだろうか。違和感がある。

宇宙へ (メアリ・ロビネット・コワル)

歴史改変SF。第2次大戦直後の米国近海に巨大隕石が落ちたと。爆発と津波の被害の末に大量に海水が蒸発し、気候変動により、いずれ地球には人類が住めなくなると判明、必死の宇宙開発が始まる。

女性/人種差別、ナチスに協力していた科学者とユダヤ人…といった、我々が経験してきた過去と、隕石や宇宙開発といった架空が入り混じり、物語が進む。まあちょっと途中からダレた感があるなー。レディ・アストロノートというシリーズものの前日譚(?)のような位置付けの小説だったらしい。地球脱出後の移住先については特に触れられていないが、火星だよね? 違うのかな?? この本自体は月面基地を作り始めるところまでで終わったが。

神前酔狂宴 (古谷田奈月)

明治の名将を祀った神社の、会館(結婚式場)スタッフの物語。なかなか良い小説でした。登場人物のキャラクターがそれぞれいい味を出していて、その舞台も魅力的なもので、かなりいい読書体験をさせてくれた。

殺人事件が起きるわけでも宇宙人と戦うわけでもないけど、こういう普通の小説だって、ちゃんと書かれている秀逸なものなら、安心して没頭できるんだよね。自分にとっては久々だな、こういう感覚は。

5つの戦争から読みとく日本近現代史 (山崎雅弘)

日本の明治以降の戦争の背景について解説した本。日本側の視点と、世界からの視点を比べた総合的な解説で、学生時代の教育の過程で蔑ろにされてきた近代史について教養を貯めるにはちょうどいい感じがするな。この種の本の1冊目に読む本としては悪くない選択になるだろう。

衝撃的な内容があるわけでもなく淡々とした解説が続くので、眠くなるかもね。自分は正直、中盤は眠くなった。しかしまあ、日本ってのはこの頃はまったく戦闘民族だったんだな。チャンスさえあれば誰にでも噛み付くっていうね。