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山椒の実

Category: Books

沖縄県知事 その人生と思想 (野添文彬)

日本復帰からの歴代の沖縄県知事の列伝。なかなか読み応えもあって面白かった。

とりあえず選挙は欺瞞だね。当選するためには基地反対しなければならないし、自民党の候補ですら基地反対で当選するわけだけど、実際には何をしても国は聞く耳を持たないし、当選後は言うことを変えないと党内で生き残れない。

それで、沖縄県知事ってのは基地問題ばっかだな。そこに沖縄の難しさがある。実際のところ、差別ではある。面倒を押し付けて、寄りかかっている。私は沖縄は前職の勤続10年のお祝い休暇の時に一度行ったことがあるきりだけど、確かに基地は不自然にデカくて、現地の発展を阻害していることを容易に察することができた。

トルコのもう一つの顔 (小島剛一)

トルコに魅せられた言語学者が、トルコ政府が存在を認めない少数民族の言語について長年に渡り調査する。公式にはトルコ人は皆トルコ民族でトルコ語を話す、と。しかし実際はいろんな民族がいていろんな言葉を話している。少数民族と言っても、クルド人は多いし非公式にもクルド人と思われている中にもザザ人がいたり、かなり入り乱れているようだ。多大な危険を冒して調査を進めて…

といった話。この種の真面目な本とは思えないほど、すごく面白かった。実体験、現地調査がとにかくすごい。すごい世界もあったものだ。これは日本に暮らしてるとわからないよ。日本にも少数民族はいるしその人たちの独自の言語もあるわけだけど、存在感の質・量ともにレベルが違う感じ。存在を認めてないクルド人…という印象からはせいぜい数%とかのレベルだと思ったら、1/3くらいがクルド人って。マジかよ。。。

犬がいた季節 (伊吹有喜)

捨て犬を飼って代々世話をしてきた高校生たちを描いた、連作青春小説。あんまりこういうのは好みじゃないんだよねー、と思いながらも最後まで読んでしまった。読んだ挙句、「たまにはこういうのもいいかも」なんて思ってしまったりして。

自分は男子校で陰キャだったから、あんましこういう青春は送ってこなかったなー。

中途の家 (エラリー・クイーン)

国名シリーズにぶっ込んできた非国名ミステリ。著者が気に入っているベスト幾つかに入っていたので、読んでみた。

まあ描写されるアクションやらには不自然さはあるけど、アクション小説じゃないからいいや。のっけからすごい設定と偶然だったけど、なかなか読ませるミステリだった。悪くない。

まあこういうのネタバレしたくないんだけど、これを書かずにおくのは無理かもしれない…序盤の人称への違和感が難しさを増していたかな。犯人の性別がいつ確定したんだと。

トリツカレ男 (いしいしんじ)

寓話か? と思いきや、もっと単純なハートウォーミングストーリー? だった。

得体の知れない、どんなことでも極められる顔のない男が主人公で、人語を操る異世界のネズミを相棒に起用。ロリコン教師の婚約者の謎めいた美女…設定書類だけ見れば、ホラーか。力石の亡霊がマンモス西に取り憑いてジョーを苦しめる、みたいなことを思わせる描写も。こえー。

この設定でよくハートウォーミングに仕上げたなー。それが小説家の力量か。

地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史 (ウィル・ハント)

現代の奇書を読みたければコレ! 決定版かもしれない。地底人に関する本格的な書籍? かなり真面目だ。序盤の都市の地下に関する章が特に良かった。途中でスピリチュアルな方面に行こうとしてしまうのはちょっと脱線した感じがある。ニューヨークやパリの地下世界はすごいな。そして地下に魅せられた趣味人? みたいな集団がいたり。東京にもいるんだろうか。いたらいたで、面白いだろうな。

貧民が地下で暮らす、みたいな話も思い出したりした。安全度が地上より高いとは思えないんだけど、自然環境の影響を受けにくいという利点はあるのかもしれない。

職務質問 (古野まほろ)

いかにも元官僚? 言葉遊びが好きな感じの元警察官僚が書いた、職務質問に関する本。「廬でご隠居が書いている自己満足文」みたいな感じの文体なので、読みづらいよ。この文体なら個人ブログにでも書いとけという気が。内容は悪くないにしても。流石に途中で苦痛を感じて最後まで読めなかった。よく本にしたな…

職質というのはたまに物議を醸す、なんの証拠もないし事件捜査でもないけど見た目が怪しいんで調べさせてもらいたいです、というアレですね。以前に元国家公安委員長かなんかが引っかかってトラブルになった気が。その話も、このくねくねした文体で書いてありました。

奴隷船の世界史 (布留川正博)

奴隷に関する歴史を記した本。すごい内容だった。

昔のヨーロッパのキリスト教エリアから見た世界(四方をイスラム教徒に囲まれている感じ)とか、割と「そう思って見てなかったな」と思わせるような記述も多い。そして奴隷船だよ。すごいなこれ。まず数がすごい。扱いも酷い。酷くない部分がない。奴隷船で調達するために現地で内戦を起こさせておいて、戦争捕虜の奴隷を引き取っていくとかね。連れて行かれる航海中の死亡率も高い。人間ってなんでこうなんだろう。

中先代の乱 北条時行、鎌倉幕府再興の夢 (鈴木由美)

後醍醐天皇の建武の頃に暴れ回った、北条氏の残党のヒーロー。若かったんですね。というか子供じゃないですか。

この頃の話ってややこしいから好まれていないのかとも思ったけど、戦国時代とかと比べるとややこしさは少ないんじゃないかって気がした。あとは、単純に史料があまり残ってないから、真相があやふやである、という説も。

結論としては、足利氏の戦力が強すぎたのかなあ…

九月、東京の路上で (加藤直樹)

大正期の大災害、関東大震災のときに起きた流言飛語によって引き起こされた朝鮮人虐殺を記した本。どういうメカニズムでそれが起きたのか、どうすることで防げるのかに興味があったわけだ。まーしかし読み進めるのも辛い、憂鬱ですごい話だった。しかし大正期か。あの頃で、こんな事実が許されるのか? 警察や軍も率先してやってたなんて。最終的には自警団が勝手にやったことにして全部なすりつけたの? 酷さ醜さが凝縮されている。

阪神淡路でも東日本大震災でも悲劇はあったと思うけど、関東大震災の時のようなことはだいぶ防げたんじゃないかと思った。自国民に退避を呼びかけていた国もあったよね。そういうのともリンクした。力のある国の人だと、だいぶ守られてるんだろうな。実際のところは技術…耐震設備の向上によって救われた命も多かったろうけど、人間の意識も進歩している。我々の子供の世代にはもっと進歩が進んでいるだろうか。