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山椒の実

Category: Books

寂しい狩人 (宮部みゆき)

下町の古本屋を舞台にした連作短編推理小説集。昭和末期くらいかな、文章の空気感がいい味を出す、この著者が好きそうな舞台設計。私も嫌いではない。

犯罪起こりすぎだけどね。推理小説だからしょうがないけど。短編集だからミスリーディングとかはあんまりなくて、少しひねるだけで、ほぼストレートで解決に向かっていく。そこに一家の問題が絡むところで統一感が出ているというか。その問題は、殺人とかと比べると他愛のない話ではあるんだが、当事者にとっては重大。

サッカーピラミッドの底辺から (後藤貴浩)

少年サッカーの現場を取材した本。よく書けてると思います。私も小学生の子供がクラブに所属してるんだが、見聞きしたこととだいたい一致している。関係していないと分からない構造を解き明かしてくれている。価値のある、いい本だよ。著者は学者でもあり、サッカー人でもある。そういう人が書いた本。

ソレッソ熊本。名門クラブですね。こないだ全国大会的な大会で川崎と対戦して勝ってた気がする。出身Jリーガーがいるっていう話だったので調べてみたら、こないだすげーゴールを決めやがった奴も出身者だった。なるほど。全国的にもエース級のクラブ。

私が語りはじめた彼は (三浦しをん)

なんつーか、小説ってスゴい、と思わずにはいられなかった。村川融マジ村川融。誰だよ。核心人物をほとんど描かずにコレだ。とんでもないな。悪魔的だ。どうなってんだ、おい。

おそらく村川融自身は、他人から見た人物とは全然違う中身なんだろうな。鋼のような男も実は小心者、みたいな。そこは描かずに、我々の想像に任せてくれている。

こういう小説を読むと、どんどん次も読みたくなってくるんだよね。困ったもんだ。中毒性がある。この凄まじい技巧で紡ぎ出される文章を身に纏った登場人物、そしてストーリー。あまりのことにこっちの語彙力がなくなっていく。まるでミルクを飲み続ける赤子のように、我々は文章を読み続けるしかないのだ。

「かっこいい」の鍛え方 (里村明衣子)

センダイガールズプロレスリング社長のレスラーが、これまでの歩みをつづった本。勢いがあって良かった。夢を追い、現実で戦った、激動の人生。失敗と気づき、そして成長。爽やかな振り返り。輝ける主人公は、こういう人間でないと。

成長の過程で傷つけてダメにした相手もいたんだろうけど、こうやって実績を積んで経験を還元できるのはいいことだよね。

黄金の国ジパング伝説 (宮崎正勝)

ワクワク伝説ってのがあったんですね。楽しい語感だなずいぶん。日本と共にジャワ島にも黄金伝説があったとは知らなかったな。いろいろ楽しい歴史の本だった。奥州の金が尽きて銀山が発見され、黄金の国から銀の国になったとか。カネの匂いがする史実って、なかなかいいもんだなあ。

金銀島の探索あたりは資料も多く残っているみたいで臨場感がある内容だった。思いがけず北海道の話か続いたのも印象的。砂金でゴールドラッシュの頃があったんだな。

教養悪口本 (堀元見)

タイトル通りの本。元はコンピュータサイエンス系の人なんですねー。次々に雑学が繰り広げられる面白さはあるが、実用性は…あるのかなコレ? 使いたいと思えるものが、あったとしても長くて覚えられなかった。

この人の雑学力がすごいのは確かで、読書量と理解力に秀でたものがあるんだろう。しかし教養悪口で食っていけるプロフェッショナルがいるなんて、世界は広いなあ。

コロナに翻弄された家 (末利光)

コロナ初期に妹2人を失った元NHK記者の手記。生々しい話に無念さがにじむ。心情を歌う短歌を散りばめてある。趣味なんだろうな。

ひどかったよな、あの頃。誰も彼も、ただ右往左往するのみで。特に重症化率、死亡率の高かった老人にとってはたまったものではなかったろう。

治療薬については、放っておけば死ぬ&改善の可能性があるかも&副作用が無さそう、という状況なら使ってほしいという心情は理解できる。一方で大きな病院がエビデンスに乏しく保健外になる薬を投与するのが簡単でないのも当然と言える。研究に使うことすらある程度のハードルがある中で、治療に使うとなるとねぇ。

新 日本の階級社会 (橋本健二)

「とくに本書を手にとった読者などは、高学歴のホワイトカラーで」という文がすごかった。それ言うの? そして、最後の章なんかは対象読者の多くが望んでいないとされた方向の解決案を提示するという構図になってたような…違ったかな。

階級社会についての真面目な本。2015年までの調査が元になっている。資本家階級、新中間階級、旧中間階級、労働者階級の4階級に加え、アンダークラスの出現で5階級に分類して分析を加えている。現在はまたこの現象が進行しているだろうか。いろいろあったからねー。コロナとかさ。

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (安倍晋三)

2度目の首相登板となるに当たって、前回の本に少し書き加えて完全版と称した本。政治家としての考え方を説明して、自分が総理大臣にふさわしいことを示すための。理路整然としているようでいて、感情的でもある。そこが魅力か。実際は前回の本そのままで、最後に短い1章(書き下ろしではなく雑誌に出た演説原稿みたいなやつを収録)が追加された小規模なアプデだった。

第一印象としては、句読点の使い方が気になって集中して読めないよ、というもの。老人によくある。ただ読んでいくと気にならなくなる。不思議なもので。少ない言葉でテンポが良いためかもしれない。全体的には、難しさがなくシンプルなのが受け入れられやすかったのかなと思った。都合の悪い結果は全部野党とマスコミのせい、という構図も分かりやすさがある。過去の政府の批判もあるけど、自民党の批判という形にはしない。…そういう本だから、そこはしょうがないか。

織田信忠 天下人の嫡男 (和田裕弘)

割と学術寄りの、織田信長の後継ぎの人物に関する本。若死にしたが、家督も受けているし、軍功も多い。この年でここまでの経験と実績を持つ武将もいねえな、という著者の感覚ももっとも、と思えた。

本能寺の変での死を避けられるルートが実際あったが、それを選べなかった…というのも事後諸葛亮と言うべき指摘。あの時点で味方の時は有能だったはずの明智が実は無能…というのは分からないよ。無理からぬことだし、その後の展開を知らずに低く評価することはできまい。