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山椒の実

Category: Books

夫に死んで欲しい妻たち (小林美希)

現代は結婚・家族制度と仕事社会が悪魔合体している。その歪みが導いた地獄を描写する。まあこれ妻が一方的に悪いよね絶対、と思わせるような例もあったが、憎悪を持ち続けながら生活している様子が淡々と描かれる。不幸のオンパレードだ。テンポ重視の文体で、著者は学術的な人ではなく、文筆家。それ系か…

これは大体10年前くらいの本ですね。団塊だの氷河期だのと年齢表記があるけど、おおむね10年プラスして考えればいいだろう。答え合わせ的な? まあ10年前にこれで、今の状況はほとんど変わってないわけだから、不作為も甚だしいことが知れる。

子どもは「この場所」で襲われる (小宮信夫)

犯罪機会論の本。犯罪者自身や犯罪者の生育環境に原因を求める犯罪原因論に対して、犯罪機会論は危険な場所を知り、そういった場所を減らしたり近づかないようにすることで犯罪を抑止する理論。判断基準は入りやすさと見えやすさにフォーカスしている。

入りやすく見えにくいのが❌で、入りにくく見えやすいのが⭕️。たとえば樹木よりも網のフェンスが勝つ。シンプルだ。ただ群集心理とかもあって、多くの人が行き交う場所であれば「見えやすい」の条件に合うので良いかというとそういうわけでもなかったり、そういった応用編はある。なるほど。

凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体 (川合伸幸)

キレッキレの老人が戦う話ではなく、瞬間湯沸かし器と化した老人の脳どうなってんのよ、という話。アンガーマネージメントやろうぜ。この本はちゃんとした学者の本なので安心して読める。

冒頭で、それほど凶暴なわけではないですよ、という数字が示される。そこから、怒涛の実験から導き出される怒りの衝動の科学。なるほどヤバい。誰しも自制心を失った人間にはなりたくないだろうが、私はとりわけそうなんだ。だってオレがひとたび激怒すれば天は落ち、地は割れ、海は干上がり、世界は闇に包まれる可能性があるからだ。わかったか? わからせてほしいのか??

ラストパス (中村憲剛)

Last Passなのか、Pathなのか。ダブルミーニングか。

川崎の歴史書を書くとしたら、3段ぶち抜きで書かれるであろう、伝説の名選手による引退までの5年間の手記。さすがに憲剛ともなると、文章力もあるなあ。よくあるスポーツ選手の本に見られるゴーストライターっぽい文章ではないけど、自分で書いたんだろうか。スポーツ選手の本にしては分厚い(380ページ)。それでも書き足りないくらいの熱量がある。

自分で引いた線。40歳までの5年間を過ごしたアスリート。真似できかねる偉業をやってのけた。理想の引退の形と言えるだろう。大怪我から復帰してなおJ最強チームで活躍していたし、まだ何年か一線でやれたのは確実だが、その状態で辞めたかったのだ。

オーパーツ 死を招く至宝 (蒼井碧)

「ぺき」っていう名前も私の世代だとかなり珍しいけど、最近は多いんだろうな。それはどうでもいいとして。この本は、冒頭からぶっ込んでくるドッペルゲンガー設定をどのくらい生かせるか、という話になる。密室特化の推理小説。いわゆる本格ってやつ? 暇つぶしには悪くないか。実は生き別れた双子だった、なんてことがあればと思ったんだけどね。そこは謎ではないのね。

結論としては、まあまあ楽しめた。1本1本がそれほど長くないし、記述も素直で気楽に読める。

エフィラは泳ぎ出せない (五十嵐大)

兄の死という事件と向き合う。死が導くその先にあるものとは?

うかつにこんな重い話を読み始めてしまった。推理要素のある娯楽小説のつもりだったんだけどな。気づかないよ読む前に。後悔しても遅い。重たいが、読まずにはいられない。

個人の人格を無視して、寄ってたかって。まさかねえ。描写は巧みで、現実感がある。そして、鉛筆画ですかね、描いた絵をあんまり人に見せなかったんだなあ。お金があれば、たまにギャラリー借りて個展でも開いたらどうだったかな。そんなことを思う。主人公や幼馴染は責められていたが、立場的には何の罪もなかろう。実際のところは、大人が悪い。

君が手にするはずだった黄金について (小川哲)

なんというか、プロローグがここまで良い小説は珍しいんじゃないか? これだけで完結してもいいくらいの物語。短編集だが、著書自身のような読書家の小説家が語る、虚構なのか自伝的小説なのかエッセイなのか。そんな感じ。

文章はかなり上手かった。記憶改変は誰にでも起きること。

私は裏主人公の片桐とババを思う。虚飾に彩られた社会との関わり。虚構の魔術師並のスキル持ち著者の記憶が都合よく改変されがちな状況からの描写だけどさ、そこは差し引いたとしても、どういう人生だ。自分でない何者かになろうとして、それが叶わない苦悩なんてのは、ディックが好むテーマでもある。

あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント (立川志の春)

なかなか良き話であった。著者や落語への興味も導きながら軽快に話が続く。私は落語とは縁のない人生を歩んできたものの、楽しく読めた。実際敷居の存在を感じていたが、機会があれば、という気にまでなった。

あとはこの人、こういう人生もあるんだなあと。超エリート街道から落語家にドロップアウト? して、多種多様な気づきと学びを得て進んでいく。若い頃というのはこういう、一生夢中になれるものを見つける時期であって、この人が落語を発見できたというのは良かったなと。シンプルに。いい話だよ。

ふうてん剣客 狂太郎きてれつ行状記 (菅野国春)

赤穂浪士の討ち入りをベースにした娯楽時代小説。重厚さには欠けるか。暇つぶしにはいい読書だったかもしれない。それ以上の感想は特にないような?

まあちょっと簡単に斬りすぎですけど、そこは時代劇だからなー。題材的に、登場人物のほとんどが死亡エンド確定ですからね。

あとは、同題材で用心棒日月抄(藤沢周平)ていう傑作があるのも辛いところ。どうしても比較の対象になってしまって、分が悪い。まあ読み始めたのも、あれと同じ時代だなと思ったためだから、違う題材なら読んでなかっただろうし、そこはどうとも言えないな。

シャングリ・ラ (池上永一)

序盤を読んで、かなりの良作では? と思った。ニンジャスレイヤーにも似た世界観の狂った東京で。重金属酸性雨ではないが殺人スコールが降り注ぐ。スモトリとジュージツ使いが戦い、ブーメランが戦車を切り裂く。次世代兵器、経済戦争。これが真のニンジャのイクサだ。

主要人物の描写はいろいろと問題作になりうるなあ。常識人がいない。センシティブな表現が惜しげもなく並び踊っている。書かれたのはまだせいぜい平成中期までだなと察してしまう。令和でこの表現は成立しない。トシもとるわけだよ、ホントにさ。