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山椒の実

Category: Books

アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (神林長平)

外出するたびに「ダメだ、この惑星は居住に適さない…」と呟いてそこを去りたくなる日々が続きます。この猛暑。そこで夜更けにSFだよ。夏ってのはSFが捗る季節なんだ。

起きるのはすべて、起きて当然のことなんだ。

しかしなかなか話が見えないぞ? 感覚がおかしくなった登場人物がそれぞれに長台詞の考察を続ける、この著者特有のストーリー進行。だけど、現実とは思えない矛盾が目立ち、どうなってんだこれ、と。その謎を解明しながら物語は進んで行くのだけど。そもそも前提となっている地球とフェアリイをつなぐ通路という設定がある。なんだ通路って。お前の心には物理法則とかないんか!

退職代行 「辞める」を許さない職場の真実 (小澤亜季子)

読点が気になる文章。シンプルに読点が多すぎて逆にのっぺりとしてメリハリが…ここ数年かな、割と多いんですよねーこういう文体。文字も大きめだし、もしかしたら老人向けの本なのかもしれない。この種の文体の流行り廃り、分析してくれてる人とかいないかなー

それはともかく、この本の内容は退職代行を受け付けている弁護士の述懐。家族や自分の事情を記述しつつ、自分のビジネスについて説明を加えていく。なかなか興味深く読めた。もうちょい本格的なやつを読みたかった? そんな気もするが、弁護士で事業者である人が実感を持ちつつ書いた内容という価値はあるだろう。この本が書かれたのは今から5年前か。退職代行もだいぶ市民権を得てますからね。

グッドラック 戦闘妖精・雪風 (神林長平)

アイスキュロスだ、とりあえずは。アイスキュロスの逸話を適切なタイミングで話せる大人になりたい。そう強く感じた。とんでもないやつもいたものだ。恐るべし、だ。まさに。

これ、だいぶ昔に読んだはずなんだけどな。内容を完全に忘れていた。つまり楽しく読めた。しかし、こんなダイナミックな展開だったかなー。死にそうで死なない奴が登場してまあまあ活躍した記憶はあるから、読んだのは間違いないのだが。後半はワールド全開な感じがして良かった。

ウォー・ゲーム (P.K.ディック)

ディックの短編集。らしさがあってワリと良かった。気軽にこういうのを読めると楽しい人生になりそうだ。だけどそれぞれ、あんまり印象には残らなかったなあ。後半のオモチャのやつとか、タイムマシンのやつはちょっとは残るけど、結末はもう忘れてしまった。そのくらいな感じで、どんでん返しも大団円もないし、どっぷり引き込まれる前に終わってしまうんだよな。

ディックと言えばどうしても、セルフイメージと現実とのギャップ…みたいなテーマを期待してしまうので、期待が高いと外れたと思うかもしれない。自分が通勤電車で読むにはちょうど良かった。

戦闘妖精・雪風 (神林長平)

昔読んでいた本。物理本で、まだ持ってるんだよね。シリーズに最近新しいのが出たということで、通しで読もうと思った。深井零、懐かしいなあ。相変わらず、お元気そうですねえ。まるで実家のような緊張感だ。剣呑。共感できそうでできない、人間らしくもあり人間らしくもない主人公。どこか現実感のない、まるで地球からフェアリィを見ているかのような雰囲気で物語が進むんだよな。

改めて、これが1980年代に書かれたことを思う。このあと実際に無人機が地上の人間を殺戮して回る世界が来て、今はもっと安価なドローンも主役級に躍り出ている。この40年。

忍者に結婚は難しい (横関大)

なんかこういう映画ありましたよね。夫婦がお互い隠れて殺し屋やってるみたいな。スミスとかなんとか…それがこの本は忍者で甲賀と伊賀だ。そして突然の推理からのモヤっとしたエンディング。テンポも良くていい感じだった。ホームドラマと組織ドラマを組み合わせたニンジャスレイヤー、みたいなものか。

この小説はTVドラマにもなったらしくて、私は以前にこのドラマのロケに出くわしたことがある。見てなかったがタイトルだけは記憶に残っていた。なるほどこういう話だったのね。映像にしても面白くなりそう。美女とマッチョがニンジャでアクションだ。そしてホームドラマと組織ドラマ…は映像的には余計で蛇足になる可能性もあるが、全体的には面白くならないとは思えない。見ればよかったな。

銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド)

人類史の概略を示して論考を加えていく。結局のところ、我々とは何なのか。再現性のない長い歴史から何がわかるのか?

人類到達の時期と大型動物の絶滅と家畜の存在、資源と軍事力の差、農業と定住による人口増加がつながっていく。あくまで一度しか起きない物語と、その捉え方が全編を貫く。

支配するものとされるもの、どうして差がついたか…慢心、環境の違い? 慢心ではない、環境だ。人類史における民族や地域の差は、環境からくる必然で説明できるのだ。

アナザーファイト (草花由)

闇キックの物語。何だそのまとめ方は…これは格闘技による男たちの救済の物語。しかし展開の都合が良すぎるぜ。普通はこうは行かない。ただ現実は小説よりキックなり、ということわざもあるくらいで。

メインイベントでの下段蹴り主体の戦術は妥当なところだろう。両者ハンデ戦でしたが、主人公側のブランクとトラウマイップスと完全アウェイと…は過剰だったかな。セイジもキャラクターの造形やバックグラウンドの深さと、セリフの浅さのギャップがあり、強制的な違和感が支配していたわけだが、それだけにラストのアレは何なんだと。

「年収6割でも週休4日」という生き方 (ビル・トッテン)

んなこと言ったってなあ。今の6割じゃ子供を大学にやれないんだよ。

と言いたくなるタイトルだが、会社帰りに通りがかるところにビルがある会社の、名物社長さんが15年前くらいに書いた本。

個人の小規模農業はいいなと思った。ド素人の私から見て、人糞肥料はぎょう虫との関連からやめたほうがいい気がしたが、まあそんなに大きな害でもないのかもしれない。肉に対しては味的な好意を持っているので、自分が肉食をやめるシーンは想像できない。クリーンミートには期待している。

フランケンシュタイン (メアリー・シェリー)

これ青空文庫にあるんすね。それもそうか。派生物も多く、その後の人類に多大な影響を与えたホラーSF長編。

物語のスジはもともとは知らなかったのだが、そしてSF超入門を読んであらすじを知ったのだが、なかなかの良さがあった。鳥山明が同じ物語を書けばそれは人造人間とドクター・ゲロになったんだろうし、仮面ライダーとかもその系譜かな。

創造主と創造物。それぞれの苦悩、というテーマは十分に深いから、その大きな流れを伝える一作、という評価になるんだろうねえ。後世の作品はそれなりに縒れるけど、このフランケンシュタインと怪物はどうか。

普通に出来が良くて、現代人が読んでも充分に楽しめる内容だった。読んで良かった。身勝手な天才にふりまさわれた犠牲者と、犠牲者の犠牲者を思うと、悲しくてしょうがなかった。つまりこれ、主人公だけが群を抜いてクソ。