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山椒の実

私のように黒い夜 (J.H.グリフィン)

とりあえず、凄い本だった。こういう本が読みたかったんだよ俺は。そういう、冒険でもあり正義でもあり歴史でもあり…まさにこれぞ名著。生きててよかった。

第二次世界大戦でゲシュタポのコロスリストに載り、日本軍とも戦った白人の英雄が失明し、小説家となり、視力を取り戻したのちにやったこととは…薬と顔料で皮膚の色を変え、黒人として生活を体験して日記を公開するという…行き先は、人種差別が激しかったころの、その中でも最も苛烈な米国南部。何が起きたのか。のっけから興味津々よ。記述が生々しい。現代にも通じまくる。すげーわこいつ。マジで。私はなぜ今までこの本を知らなかったのか。

トラックドライバーにも言わせて (橋本愛喜)

肩書きがうるさいライターが、過去に実家の工場を経営をしていた時期に大型トラックを運転していた。そのころの経験を元に、トラックドライバーの事情について述べた書。

確かYahoo!ニュースか何かでよくこの著者の記事が載っていて、それで著書を読んでみようということになったんだと記憶している。中身は知らなかったことが多く、非常に参考になる。

自宅の近所の大きな公園…まあ等々力緑地だが、そこにトラックがよく待機している場所がある。おそらく時間調整と休憩なんだろうけど、駅に向かうバスの通り道にもなっているし、地元の中学生の通学路にもなっている。そこに入るための道路の片方は生活道路だったりもするから、邪魔だと思う人も多いだろうと思っている。近所の工事の車とかだったら事情もわかりやすいけど、ほとんど無関係な通り道で止まってるとしたら、なおさら。

人種は存在しない (ベルトラン・ジョルダン)

「人種」とは何かを説明した本。そもそも人類は現在、他の旧人をことごとく滅ぼした新人のみになっているから、種族は1つしかないんだよ。他の動物に比べて広範囲で交配を繰り返してきたため、多様性も少ないみたい。まあつまり、ほぼ同じだ。何が同じで、何が違うのか、という話は非常に微妙な話になる。

それで、では指輪物語のエルフやドワーフ、ホビットは種族なのかどうかという話に…はつながらなかった。そういうファンタジーの世界の話ではなく、リアルな学術の話が続く。

幼な子の聖戦 (木村友祐)

中編2本の本。

1本目は田舎の選挙の話で、2本目はガラス屋(ビルの窓拭き)の話。どちらもなかなか印象的な物語だった。

選挙の話は、構図としては善と悪をはっきりさせた上で、主人公をうまい場所に立たせて語らせ、動かした感じ。唐突とも思える終わり方の余韻もじっくり味わえるよね。

ガラス屋の話は、死亡フラグの回収がどうもね、引っかかるんだよね。ただ描写がすごく良かった。自分が通っている会社のビルにも窓拭きの人が来ることがあるんだけど、自分がやることを想像すると足が震えるところではあるよね。俺としては、中から拭かせてもらいたい。あるいはロボットで拭けるようになるといいのかも。自分の家の近所に高所作業の会社の事務所があった。普通のアパートの一室に看板立ててたなー。今は移転したみたいだけど、あるイベントでそこの会社のブースで高所作業体験みたいなのをさせてもらったことを、今でも覚えている。あそこは巨大建造物の検査とかの会社だったから、窓拭きはやってないのかもしれないね。

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 (ジョーン・C・ウィリアムズ)

アメリカの民主党の支持者が、トランプを勝利に導いた支持層を分析した書。かなり正確だと思わせる分析だ。合点がいくし、日本もあるいはこの路線が主流派になる日がありうるかも、と思わせるものがある。最初はこれアメリカ特有のものなのかなという感じもしたけど、日本にだって応用可能な話だと思ったんだ。

ホワイト・ワーキング・クラスというのはアメリカの白人労働者層で、今までは「中間層」つまり富裕層でも貧困層でもないという部分に一括りにされていた人々。それをエリート側(専門職)とそうじゃない側(ワーキング・クラス)に分類し、ワーキング・クラスの苦悩に対応しているのがトランプだった、と。ワーキング・クラスが欲しいのは援助ではなく、安定した仕事。それを勤勉にこなす人生を誇りとしている。

そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常 (早川史哉)

あるサッカー選手が大病を患いました。その復帰までを記した自伝。公式戦に戻れるまで、3年以上かかった。話としては知っていたけど、詳細は知らなかった。途中契約凍結していたらしいので負担は少なかったのかもしれないけど、3年待ったチームも頑張りましたよね。その間にJ2に降格し、選手も大幅に入れ替わった中で。似た境遇としてすぐに思い浮かぶ大宮の塚本もこの本に出てくるけど、塚本はプロ選手には戻れなかったが、大宮で活動を続けている。

奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態 (巣内 尚子)

技能実習生の話。国によって制度が違う中で、ベトナムから来る人たちはかなりひどい状況に追いやられているらしい。多額な借金を負って日本にやってきて、ひどい扱いを受ける。なかなか凄い話で、凄い本だった。

いやーほんとひどい話よ。許されてるのこれ。ベトナムしっかりしろ。借金を強いられる制度を改善すればだいぶマシになると思うけど、どうかな。家賃の話とか、日本側もひどいんだが。人権ってのは基本的にホモ・サピエンスの全員に与えられているもので、基盤だと思うんだけど、それがない立場ってのがあるのか。

13th 憲法修正第13条

netflix産の長編イメージビデオ? アメリカの黒人の苦難に関する語り。これはビデオではなくて本で読むべき内容ではあるが、最近はこういう難しい内容も動画で見る需要があるんだろうね。映像自体の持つ力も大きい。私もYouTubeで無料公開だったので見たクチ。いま話題のやつですね。

合衆国憲法の修正13条。南北戦争の後、黒人を含めた人権に関する項目になったが、犯罪者を除くという項目が悪用される。結果、世界の囚人の4割をアメリカが占めることになった。そして囚人は黒人の率が多い。マイナスイメージの流布もあって…

我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち (川端 裕人)

アジアの原人たちの多様性について。監修の海部さんという学者の研究に密着して紹介する。

人類。今はホモ・サピエンスつまり新人しか世の中にはいないんだけど、かつては猿人・原人・旧人がいたわけだ。共存していた時代もある。アフリカから出て地球に広がった原人の子孫はいなくなって、改めて新人がアフリカから出てきたというわけだ。

で、地球の人類はなぜ我々新人だけになってしまったのか。

という謎が根元にあり、アジアの原人の化石をいろいろ研究していっていろんな新しいことが分かってきて…という話ですね。凄いよこの研究。学術に寄りつつも読みやすい文章構成が心地よい。

王国 (中村文則)

前作「掏摸」の兄妹作。前作の登場人物も出てくる。相変わらずの不気味さと、夢見がちな犯罪者主人公。

なかなか楽しめた。のはいいんだけど、こういう小説は感想を書きにくいね。ネタバレとかにつながると野暮だし。

唐突に本名を知られる衝撃や、主要人物が偽名なので呼び名が変わるのでぼんやりしてると混乱する傾向がある…のは前作と同じような展開かな。