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山椒の実

タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源 (ピーター・ゴドフリー=スミス)

LLMの発達で新たな知的種族が誕生しつつあるが、彼らは進化の樹形図の中ではどのように表現されるのだろうか? その謎を解くため、我々は頭足類の世界を探検することにした。

…のだけど、なんか哲学系の人が全体図をこねくり回しながら書いているから、エディアカラやカンブリア紀だの、、、なかなかタコにたどり着かないという。

それでも興味深い話は多かった。視神経が腹と背にあって、意識上は目が見えない人が障害物を避けられる話とか。ホワイトノイズのホワイトクリスマスの話とか。200年の時を生きるメバルとか。煮付けてる場合じゃない。そして全くタコじゃねーけど。

アクロイド殺人事件 (アガサ・クリスティ)

俺、アクロイド。お前、何ロイド?

クリスティの問題作。だって悪ロイドだぜ? 悪の、アンドロイド。やばすぎる。名は体を表す。危ないよ。近寄るな!? 話し合おう?

のっけから関係者が死んでいくんだけど、ポアロ登場が序盤のキモかな。渋るんだよね。この理髪師くずれのガイジンのカボチャ農家が。そして引退宣言までするという。しかしフランス人だつけ? ベルギーだったような。

クリスティで麻雀の観戦をすることになるとは思わなかったな。日本のリーチ麻雀ではなく、中国ルールかな。花牌は出てこなかったが。しかしあの土壇場で飛び出した天和には驚いた。九蓮宝燈なら伏線にもなったのに。

川崎警察 真夏闇 (香納諒一)

「川崎警察じゃオラー!」ドガ! バキ! ドス! ガラガラドッカーン!!

沖縄返還の直前あたりの時代の川崎警察の話。ヤクザが活躍する。相変わらず、時代の空気感が良い。このシリーズいいよね。

今回も、いいやつが死んだな。しんみりするよ。

しかし謎があんまり解決してない気がしたなあ。羽田空港から車に乗って、同じ車が無事な描写があるけど交通事故に遭ってる、みたいな。地下で死んだやつも、あの場所にいる理由があんまりないままなんだよな。現実ならともかく、小説なんだから。全体的にもっと説明できてたほうがいいんじゃないか。ほんと、現実ならそれでもいいのだが。

化け者心中 (蟬谷めぐ実)

江戸時代の歌舞伎役者たちの中に紛れ込んだ鬼を探す話。このでんせつてきなじけんは「かぶきおに」という童子たちの遊びとして現代にも伝わっている。ウソですが。まあそんな、ウソのようなことばかり言い出す人たちの話。

リズムが良かった。筋はちょっと複雑さがある。人数も多いけど女形と男形の違いくらいしか印象に残らない…まあもっと描写はあるんだけど、詰め込みすぎでは? 一つ一つは割と良さがあった。

途中で鬼がちゃんと出てくるのか不安になった。出てこなくても解決編を書けたんじゃないか。まあ、出てきます。鬼。ご期待ください。

とらすの子 (芦花公園)

芦花公園はロカコウエンなんですね。著者の名前で探すときはアシハナコウエンやアシバナキミゾノではないことに注意しましょう。京王線の駅名でもある。千歳烏山の隣ね。各停しか止まらん。その公園が、今や人気ホラー作家だ。いつ人間に!? なれたのか! 今度降りてみたい駅ナンバーワンの座、争奪戦に名乗りを上げたね、マジで。

殺してくれる謎の美女。描写も丁寧で、そこからの1章のラストが圧巻。一瞬で事件と推理の可能性を否定するのだ。わずかに残っていた可能性が潰え、本格的に怪異が物語を支配する。

ワイルドサイドをほっつき歩け (ブレイディみかこ)

時代の流れにあらがう英国ワーキングクラスの初老男性たちを描いたエッセイ集。解説つき。アマゾン/ウーバー本でも読んだ英国労働者階級の苦境ね。

緊縮財政やNHSの話とか、ブレグジットとか。ある見方だと壊れていく世界だし、逆から見ると正常化しているわけだ。類型はどこにでもある。そんなことを思いつつ、軽妙な文章で楽しく読めた。

英国の状況はなんとなく伝わってきた。NHSというのは、無料化されていた医療体制。で、財政が悪化して無料のままサービスを低下させてコストダウンしたと。予約を入れるために朝病院の前で行列させるとか、無料のままで、あの手この手で使わせないようにするという、バカバカしい話が。

なぜ共働きも専業もしんどいのか (中野円佳)

何をやるにも簡単じゃねえ、というわけだ。なんだこの世の中。楽園なんてものは、ないのか。ないんだな、と思った。

例えば大変だから外注やメイド/シッターを頼めると言ってみたところで、その頼まれた側の人たちの人生はどうなんだ。将来のその人たちが別の人を雇えるようになるわけでもなく、持続可能ではないよね。不幸を誰かに押し付ける方法を知りたいわけではなく、不幸を減らす、なくす方法はどこにあるのか? そんなことを思いながら読んだ。システムだよね。システム設計。

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した (ジェームズ・ブラッドワース)

日本の人にもいましたよねこういう潜入取材の。アマゾンの倉庫とかユニクロとか。かなり面白かったなあ。そう思って読むことにしたこの本。最低賃金のゼロ時間契約による労働。実際日本でも同じ状況に近い世界があるわけで、現代社会は実に剣呑だ。どうにもならん。

ポンドの価値がよくわからないので混乱した。いまは200円くらいなのか。物価も違うから、分からないのは変わらないが。

最低賃金でフルタイム働いたら、年収は? と計算してみる。現在の神奈川県の最低賃金は時給1162円。フルタイムは週40時間が50週として2000時間だから、単純計算で232万円か。手取り200万前後ってとこ? まあ一人なら、なんとか暮らせるかなあ。これがゼロ時間契約で労働時間が不安定だと、ちょっと無理があると感じる。東京圏一人暮らしだと家賃で100万くらい、そこに光熱費通信費食費…うーん。なかなかの地獄だね。

暮らしのなかのニセ科学 (左巻健男)

ニセ科学がはびこる現状について述べた本。この本が7年前か。今はもっと激しい陰謀論が渦巻いていて、この本のような活動もむなしく、状況は悪化したと言えるだろう。いやはや、ひどい話だ。

この本では、ダイエットや健康系のやつから怪しい水やらEMやらマイナスイオンまで、やばい話のオンパレード…それが紹介されている。こういう、デタラメだけど科学っぽさで人を騙す輩というのはどういう倫理観をしてるんだろう。それを想像しながら読むわけだけど、うーん…金儲けのエナジーなのかなあ。それだけで説明がつくんだろうか。大企業もやってるからね。コンプライアンス委員会とかないのかな。どうなってんだ。世も末ですよ。

右園死児報告 (真島文吉)

明治時代から続くあの現象の報告書をまとめた問題作。いいのこれ出版しちゃって。事件ですよ?

家族がこの名前を名乗り始めたらどうしよう。そんな不安とともに読み進める。日本を長らく蝕んできた、あの。

そのまま現代の闇に続いて終わりかと思いきや、終盤は議論の起きそうな展開に。そういうのを求めていたわけじゃない、という読者の声が聞こえてきそうな。アベンジャーズを意識しすぎたんじゃないか。失敗してないか。