なんというか、プロローグがここまで良い小説は珍しいんじゃないか? これだけで完結してもいいくらいの物語。短編集だが、著書自身のような読書家の小説家が語る、虚構なのか自伝的小説なのかエッセイなのか。そんな感じ。
文章はかなり上手かった。記憶改変は誰にでも起きること。
私は裏主人公の片桐とババを思う。虚飾に彩られた社会との関わり。虚構の魔術師並のスキル持ち著者の記憶が都合よく改変されがちな状況からの描写だけどさ、そこは差し引いたとしても、どういう人生だ。自分でない何者かになろうとして、それが叶わない苦悩なんてのは、ディックが好むテーマでもある。