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山椒の実

木挽町のあだ討ち (永井紗耶子)

仇討ちをしに江戸に出た若者が芝居小屋に出入りして、本懐を遂げる。二年後に武士が芝居関係者の目撃者に聴き取り調査。インタビューにペラペラ喋る芝居関係者の人々。流石に皆さん口上が上手いなあ。さて真実は?

いやー面白かった。一気読み必至。インタビュー内容も、最後に明かされる、その後ろにあるものも。血なまぐさいオープニングなのに、読後感は爽やか。地獄を経た仏。人間だこれが。目撃談と、目撃した人の歩んだ人生、そして目撃された人の人生。それぞれ語られる内容が良い。

いつか深い穴に落ちるまで (山野辺太郎)

日本とブラジルをつなぐ地球貫通トンネル。誰もが夢見る三大建造物。軌道エレベーター、ダイソン球、日伯トンネル、あと一つは? まあ宇宙ステーションは実現しちゃったからな。あれはあれですごいと思うよ。実現しちゃったがために評価が高まらないという側面があるんじゃないか。政治とかも何かと絡むしねえ。

それでだ。日伯トンネル掘ろうの会。そんな怪しい事業会社の広報担当として長年勤めた奇妙な人物が送る半生。ラストもすごい。さすが元水泳部。この変化球。良い小説だった。突き抜けている。この文体でここまで突き抜けるのかよ!

城のなかの人 (星新一)

星新一と言えばエヌ氏たちが彗星のごとく活躍するショートショートSFだが、普通の短編や長編も悪くないことは知っていた。若かりし頃の思い出。この本は短編時代小説集だ。読んだあと、なんか若かりし頃読んだような気もするのよね。そういうところも星新一の魅力ではあると思う。ショートショートめいた独特のリズムで語られる歴史物語。短距離でズバッと進んでいく。

表題作は豊臣秀頼の生涯を描いたもの。つまりこの人がいる城とはキン肉星宮殿と瓜二つのあの城。現代に残っている大阪城公園のあの城とはだいぶ違うんだそうですが、当時の遺構も発掘されていたはず。

入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください (寝舟はやせ)

最近のホラーはかなり人気があるジャンルになってますよね。

怪談のアラビアンナイトのような話。ただし語るのが怪異で、聞くのが絶望から逃げ出して怪異との友人として過ごすことになった若者ね。怪異の方は人間態…というわけでもなさそうな描写だが、どうなのか。若者の方の洞察力は普通に高く、常に冷静さを失わない。ミスの少ない、距離感に優れた主人公タイプだな。

なんというか、物語としての展開は進まないまま本が終わった。ここで終わり? 続きがあるんだよね、と確認したくなる。カクヨムで書いてたのが書籍化されたらしく。このままエンディングに向かったところで、決着はつかない感じもしたけどな。

警官の道

警察ミステリのアンソロジー。著者のラインナップはなかなかの佳作を連発している中堅どころといった感じ? 私でも知っている、読んだ本をここでも何度か記事にしたような著者名がチラホラ。

コロナの頃に書かれているようで、そういう描写が多い。今となっては歴史上の一過性の出来事だったという感じで、こういう作品を書いちゃうと、読んだ時に時代背景を念頭に置かないといけなくなる。コロナ後に生まれた奴が読むこともあるんだろうな。俺らで言うと、戦時中はこんな感じだったのか…みたいな感情を持つんだろう。

あなたの名 (小池水音)

AIに人格を移せば不老不死じゃん、て話の物語。それを老人文学の使い手がどう描く。

序盤は直前の人称とセリフの主が違うケースが多くて、こいつ誰? が多かった。こういうセリフの見失いは最近の小説には少ないパターンだよね。昔はよくあった気がする。

死期の迫った養母の記録を続けるうちに、老女の中に記憶がよみがえってくる。混濁しながらも作業は続き…

混濁老人主観の内省文章かー。文章自体には美しさはあるな。自分の好みでは全くないが。

サムライ漂海記 (天野純希)

天王寺合戦(織田信長の本願寺戦)で織田方の水軍として戦い敗北した隻眼の青年が奴隷戦士として売り払われ、冒険が始まる。アルマダ海戦でも活躍していた。なかなか良い本だった。

イスパニアの悪辣な侵略の手先になって剣を振るい、宗教絡みの事件を機にイングランドに移籍。武人として海を駆ける。なんとも後味の悪い戦い。本願寺戦も同じカテゴリだけど、宗教が絡むとどうしてもそうなるねえ。

アイナが死んでなければな。そんなBiSH継続ルート的なものはあったんだろうか。そうもいかないのか。当時の倫理観は単純かつ複雑で。海を越えても、あの空だけは繋がっている。そんなことを思いながら読み進めた。

名探偵たちがさよならを告げても (藤つかさ)

死んだ作家シリーズ? 大作家の遺稿と呼ぶにはシンプルすぎるプロットが発見されて、その通りのミステリアスな事件が起き、探偵が活躍する。

なるほどー。ミステリだとあらゆる描写に意味があるんだよなあ。あれ、こいつ…と引っかかる部分の全てに意味があった。終盤は前半の記述を思い返してしまうグロさもあった。

しかし人が死にすぎだなこの学校は。治安が悪い。推理小説とは言え、なんなんだ。こんな修羅のサバイバル学園でほっこりしてんじゃねーぞ。

英米文学のわからない言葉 (金原瑞人)

著名な翻訳家が文化の違いによるわからなさを語る。日本語でどう伝えるか。雑学の宝庫だ。知識量が桁違いなのよ。

読んだけど、結局覚えてる知識がないところなんかも。ペチカとかマントルピースとかワードローブとか。なんだっけ、もう忘れてる…字面で勝手に想像するのとは違うカテゴリのものだったことは覚えているが。

カタカナ語により翻訳が楽になったケース、という話は興味深かった。昔は無理やり日本語や漢字の造語にしていた。これってどういうメカニズムなんだろうね。日本語の語彙が飽和したのか、楽をしてるだけなのか、それとも多くの文化が入って混合したっていうことなのか。

百年かぞえ歌 (大崎梢)

徳川埋蔵金を探す、みたいな話? フーテンの婚約者の影が…それはいいとして、大作家にまつわる100年前の謎を追う。何が謎で何の謎なのかもわからないまま調査を進める。そして後半に出てくる謎めいた数え歌だ。雰囲気あるでしょ。複数バージョンがあるところなんかもそれっぽい。

舞台は現代、謎は戦前。謎に迫る主人公パーティに立ちふさがる権力と暴力。誰も救われることのない真実に向かい決して折れることなく何度でも立ち上がる。ある種のハードボイルドだ。