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山椒の実

ただ、それだけでよかったんです (松村涼哉)

スクールカーストへの革命? を実行した中2少年の物語。

田舎の中学校みたいなクローズドサークルで誰がいじめたのいじめてないのって、そういう話だった。いじめを苦にした自殺が発生し、そこから謎解きが始まる。テーマが限定されすぎていた気がするなあ。読んでる間は、興味深く読めたと思うよ。読後感が何か残るかっていうと、アレだけども。

まあ設定が極端なんだよね。それで、辻褄が合うように物語を設計して。そんな感じの作業が浮かんでくるような感覚があった。読んでいての、勝手な感想なんだけれども。

令和ブルガリアヨーグルト (宮木あや子)

明治ブルガリアヨーグルトの50周年を記念して書かれた小説…ということでいいのかな。乳業の部門に就職したオタク主人公が奮闘する。まあ一応、物語のなかでは会社名はわざとらしく違うものになっている。

オタクという話なので、「詳細を説明したらドン引かれるレベルで調べていたので黙っていた」などの表現が散見される。

なんじゃこりゃ、と。ブルガリアの歴史が織りなす乳酸菌の擬人化創作物て。そんな度肝を抜かれるジャンル。田舎の革命と絡んで、うまいことまとめてきたけども、問題作でしょうよコレ。ブルガリアの歴史は身につくかもしれない。立地的にかなり暗黒の時代を過ごすことになったらしい。今の国境だとトルコの隣ですね。

因縁 (福田和代)

あのクロエが殺されるとは。マジか。衝撃的な事件だった。その事件を解決する、「タクシードライバー」の息子。そして豪胆な登場人物が続出して、神戸を舞台に決勝戦の熱い戦いが幕を明ける!

なんのことを言ってるのかわからないと思うが、そういう話だったんだよ。かなりよく書けていて、引き込まれた。エピローグもキレイに合わせて読後感を調整してくれた配慮も感じた。ああいうのってちょっと蛇足感もあるんだけど、安心する人もいるだろう。

ブラックバイト 学生が危ない (今野晴貴)

タイトル通り、 ブラックバイトについての本。すげーな。人間はどうしてこうなのか。それを思わずにはいられない。残忍が残忍を呼ぶ。将来ある若者を使い潰して暴利を貪るわけだけど、酷使に走る暴力的な正社員もまた、搾取される側なんだよね。

業界によってそういう構造が起きやすいケースがあるらしい。個別指導塾がやばいなんてね。これは規制を強化するしかない。そうなのか。そうするしかないのか。シンプルに考えればそうなるんだけど、もうちょっとインセンティブに訴えかけるようなやり方は取れないのかな。

バッタを倒しにアフリカへ (前野ウルド浩太郎)

カラスキリンの次はバッタだ。この本はバッタ研究に取り憑かれ、サバクトビバッタを求めてモーリタニアで奮闘した研究者の記録。タカ・トラに続いて人類を魅了するその生態。研究を深めて人類を救わんとする若者の前途はいかに。学者を目指したことのある人や、学者の世界を垣間見たことがある人なら、この本は非常に楽しめると思う。そうでない人が読んでも、たぶん楽しいと思う。それだけの情熱がある。たぶんね。

この本で知った知識はそれほど多くはなく、冒険物語としての側面が強いのだが、みなさんバッタとイナゴの違いを知ってますか? 実は日本でバッタと呼ばれている種の多く群生相がないのでイナゴという分類らしい。相変異により集団バーサーカーになるのがバッタであって、そうならないのはイナゴ。学術的にはそうなんですね。へー。

ポスドクの苦しさや、自然を相手にする難しさが伝わってくる。そしてその情熱も。とてもいい本だった。ポスドクとかその辺の、知的レベルが異常に高いのに経済圏では不遇、という状況で書き綴られる文章の時点で、もともとクオリティに優れているんだよね。この本の著者のように冒険に飛び込んでいったんなら、なおさらだよね。まさに瑞玉。

日本一長く服役した男 (NHK取材班 杉本宙矢/木村隆太)

無期懲役囚が60年以上服役した後、仮釈放される。21くらいで強盗殺人を犯してしまった男。戦災孤児となり施設で育った、無慈悲な神の配剤。NHKらしい、丁寧な作りですね。被害者の遺族や刑務官、他の仮釈放者、受け入れ施設や何やら、取材を広げて事実を提示していく。

最後は反省とは果たして何か…みたいな話に持っていくんだけど、それはそれとして、20か80までか。人生の大半を社会から隔離された人生とは、どんなもんなんだろうな。この人は入る前も脱走者がたくさん出るような孤児の施設にいた期間もあり、自由に生活していた期間は非常に短い。自由というものを理解できないのも仕方なくて、一見不自然とも思える反応は、実は自然なものだったんだろうな。

ガマ 遺品たちが物語る沖縄戦 (豊田正義)

沖縄戦の話。遺骨がまだたくさん放置されている。ガマというのは洞窟のことで、特に凄惨を極めた南部に多くあり、避難民も兵士もそこに逃れ、死んでいった。その遺骨と遺品を収拾して遺族に返すという活動を続けていると。

そこで知られた記録をもとにつづられた物語。それがこの本。まあ沖縄戦はめちゃくちゃやったからね。ひどいもので。私は一度だけ沖縄行きましたが、その時、ちょっとした時間だけでも本当にヤバさは伝わってきたからね。

宿罪 二係捜査 (本城雅人)

シリアス系の警察推理小説。シリーズなってんすか。町田みたいな東京でもない神奈川でもない、みたいなどっちつかずの場所の設定が効くのかな。狛江や福生ではなかなか、出せない味だよね。狛江と福生にはかなりの開きがあるのだが、分からないよねえ。

この物語の二係が担当するのは、穴掘り事件などと言って、死体が埋められたりして発見されていないまま解決せずに長時間経過してしまった殺人事件のこと。失踪情報や捜査資料を読みまくって手がかりを探す。

バベル九朔 (万城目学)

なんだなんだなんだこれ…と思ってるうちにガンガン物語が進んでいくこの著者ならではの小説。不安を抱えたまま走る、この疾走感がいいんだよ。何年もかけて大長編を書いてる場合じゃないんだ。

オマケの魔コの話も良かったな。本編に途中で出てきた話でもあり、なかなか楽しかった。

ヴィクトリア朝時代のインターネット (トム・スタンデージ)

電信の歴史を辿って今のインターネットを思う話。ネットワークはいつからある?

このタイトル(victorian internet)はもしかして、ヴィクトリアズシークレットと掛けてるのかな? 内容は、かかってない気がする。

通信塔を使った光学信号の伝達からモールス信号による電信に移り、電話の登場で廃れていく。その間の電信時代の壮大な物語を手短にまとめている。かなり興味深い話だった。

私もエンジニア歴はそこそこ長いのだが、モールス信号を解さない。世代的にはもうそんな感じで、自分の頃にはもはやエンジニアが実用する場面はなくて、あるとすれば趣味の領域だった。まあ領域を限定すれば実用している人々はまだいるんだろうけどさ。エジソンの少年時代とか、そのあたりの時代だからなあ。