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山椒の実

走る奴なんて馬鹿だと思ってた (松久淳)

おっさんの文筆家がマラソンに目覚めて独りよがりの文章をねっとり書き連ねる話。自分でわかっていて、書かずにはいられないのが文筆家のサガか。うちの近所にも来てたんだな、この人。中目黒のくせに。いけすかねえ。

私は今はやめてるけど、走ってた時代がある。今は、単にブラブラ歩くだけですね。そんな徒歩も、コースによってはランナーと同じルートを通ることもある。たまに、遅いくせに抜かしてくるやつがいるんだよね。抜かしてちょっとしたらのんびり歩きやがるの。しょうがないから(同じペースで)歩き続けて抜かすんだけど、ちょっとしてから抜き返してくるわけ。こっちが走ってるならまだしも、自分としては普通の散歩の一定のペースで歩いててもそうなることがある。こういうオッサンがウザいんだよね。散歩に負けるなよ。いや、負けることを分かってくれ。分かってるなら抜かさないでくれ。ランナーを徒歩で抜かすのは気を使うんだよ。でも、遅すぎるんだ。こっちは徒歩で、スピードを変えてないんだ。

もう探偵はごめん (ウィリアム・アイリッシュ)

短編集。推理というわけでもなく、小噺風のものが多い。

中では、さわやかにオチをつけた、最初の紙幣アレルギーの話が良かったな。

裏のうちの子とペアを組むスピーディーなやつも良かった。イマイチなのも、あるね。現代的な価値観との相違が…

最後のブードゥーのやつは特に問題作だな。現代では発売できない内容だろう。さして面白くなってないし。

「消せるボールペン」30年の開発物語 (滝田誠一郎)

フリクションボールの開発秘話。断片的に知っていた、英雄達の物語。苦節30年。技術とアイデアで人類を良き方向に導いたその歩みは、まさに英雄伝説と言えるだろう。

温度で色が変わる温度計とか、子供の頃に持ってたなあ。その流れをくむのか、このフリクションボールは…

ちょっと高いんだけどね。あと署名するときとかに使えないから、そういう難しさはある。私はボールペンで書くときはそもそも消さないし。考えるときはvscodeやgoogle keepで書く。

放哉の本を読まずに孤独 (せきしろ)

どうせ読んでも孤独だろうが!

自由律俳句をもとにしたエッセイ集。かなり自由奔放に書き散らかしている。これがこの著者の本領か。楽しそうだなおい。郷愁の漂う、子供/学生時代の昔話みたいなのも多い。途中から中央線ポエムみたいになるのはどうかと思った。読む人を選ぶのでは? 私は中央線が実家で故郷だから、対象読者ど真ん中な可能性?

そして基本的に自分しか出てこない。他人が出てきたとして、無駄に他人に気を使って自問自答する自分という構図。これが孤独の側面だ。

屋久島トワイライト (樋口明雄)

屋久島でオカルト。まあオカルト小説はこうなるよなあ、という感じの展開。途中、人名を間違えたのではと思える場所があった。

屋久島の雰囲気を感じられるだろうか。将来行ってみたい島ではある。だがモンスターとの戦闘は俺のビジネスじゃないよなあ?

シリーズ第2作みたいなことがあとがきに書かれていた。意味深なエピソードはそれか。記述は露骨なのに、あとがき読むまで気づかない自分の鈍感さを自覚してしまった。

東方見聞録 (マルコ・ポーロ/青木富太郎訳)

自宅の近所に「丸子」という地名があります。そんな奇縁から読むことになったこの有名な旅行記は獄中で作家に語った内容が書物になった…らしい(獄中と言っても犯罪を犯したわけではなく、敵対国の捕虜になった)。だから、現代に起きたことであれば、著者はその作家ということになるだろうか。あるいはスポーツ選手の自伝のようにライター(インタビュアー)の名前は著者としては扱われないのだろうか。まあそんなことはどうでもいい。

寂しい狩人 (宮部みゆき)

下町の古本屋を舞台にした連作短編推理小説集。昭和末期くらいかな、文章の空気感がいい味を出す、この著者が好きそうな舞台設計。私も嫌いではない。

犯罪起こりすぎだけどね。推理小説だからしょうがないけど。短編集だからミスリーディングとかはあんまりなくて、少しひねるだけで、ほぼストレートで解決に向かっていく。そこに一家の問題が絡むところで統一感が出ているというか。その問題は、殺人とかと比べると他愛のない話ではあるんだが、当事者にとっては重大。

サッカーピラミッドの底辺から (後藤貴浩)

少年サッカーの現場を取材した本。よく書けてると思います。私も小学生の子供がクラブに所属してるんだが、見聞きしたこととだいたい一致している。関係していないと分からない構造を解き明かしてくれている。価値のある、いい本だよ。著者は学者でもあり、サッカー人でもある。そういう人が書いた本。

ソレッソ熊本。名門クラブですね。こないだ全国大会的な大会で川崎と対戦して勝ってた気がする。出身Jリーガーがいるっていう話だったので調べてみたら、こないだすげーゴールを決めやがった奴も出身者だった。なるほど。全国的にもエース級のクラブ。

私が語りはじめた彼は (三浦しをん)

なんつーか、小説ってスゴい、と思わずにはいられなかった。村川融マジ村川融。誰だよ。核心人物をほとんど描かずにコレだ。とんでもないな。悪魔的だ。どうなってんだ、おい。

おそらく村川融自身は、他人から見た人物とは全然違う中身なんだろうな。鋼のような男も実は小心者、みたいな。そこは描かずに、我々の想像に任せてくれている。

こういう小説を読むと、どんどん次も読みたくなってくるんだよね。困ったもんだ。中毒性がある。この凄まじい技巧で紡ぎ出される文章を身に纏った登場人物、そしてストーリー。あまりのことにこっちの語彙力がなくなっていく。まるでミルクを飲み続ける赤子のように、我々は文章を読み続けるしかないのだ。