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山椒の実

マーガレット王女とわたし (アン・グレンコナー)

英国上級貴族の娘で、子供の頃からの王女の友人で、女王の妹であるその王女の女官として仕えた人物が語る、その半生。第二次世界大戦時に少女で、エリザベス女王の戴冠式で裾持ちをした時の話とか、エピソードもまあ、上の方の貴族そのもの。陶器の行商をしてた話は良かったな。紅茶ばっかり飲んでたんだろうな、どうせ。

あとは破天荒な大人子供みたいな夫との生活。生活? って感じではないが、妙にウマがあったんでしょうね。楽しそうな記述だ。充実感がすごい。王女が夫との不和に悩んでいるのを見て若い男の貴族をあてがったりと、気の利く女官としての振る舞いが…

世界でいちばん透きとおった物語 (杉井光)

いやーすごい本を読んだね。戦慄が走ったよマジで。目を疑うとはまさにこのことだ。何というか、とにかくすごい。他に言葉が出てこない。ウソでしょこれ。とんでもねえなこの作者。そして、どうすんのよこれ。大騒ぎだよ。前知識なしで、紙の本で読んだ自分を褒めてあげたい。偶然の神引きか? そうかもしれない。

世界は透きとおりすぎている。

帽子蒐集狂事件 (ディクスン・カー)

帽子をめぐる殺人事件。ウィリアム・アイリッシュのときも思ったが、外出に帽子が必須みたいな習慣が当たり前に描写されているんだな。オレもハットの習慣を持とうかな、と思わなくもなくもないね。オペラハット、鳥打帽…その違いが謎を作る?

残りページ数からして早く解決しすぎだとは思ったが、最後こうなるとは思わなかったな。わからないものだ。読んでよかった古典の名作、楽しめたよ。

SPEED (金城一紀)

The Zombies Seriesと銘打ってるから、こりゃホラーかスプラッターか、と読み始めたところ。実際は疾走感のある青少年のアレで、思いがけなく爽やかな読後感だった。なんでズンビーニンジャ出てこないの?

主人公の印象的なシーンは映像化を念頭に置いたものか。どうしたって、映えるだろうねえ。文章だけですでに神々しいものがある。

しかしこれ、地名的には舞台のモデルは私の母校の可能性があるな。学生の当時は学園祭にはあまり参加しなかったが、一応は格闘系に分類される運動部だったから、警備側での参加というつもりで読むシーンもあった。まあボコされる側になるわけだが。

フランダースの犬 (ウィーダ)

アントワープのルーベンスのあれ。

以前に誰殺を読み、今回原作小説の訳を読んだからには、あのアニメ見てなくても語れるよね、パトラッシュ。もう遅いぜ。

犬の寿命と人間の寿命をうまいことミックスさせたところがミソなんだろうなあ。このわりとアッサリした作品を、よく論評したなあ、誰殺は…

影踏亭の怪談 (大島清昭)

怪談の短編集、呻木叫子シリーズ(?)。もうちょっとこう、夏に読んだ方が季節感が出たかな。まあそんなことはいい。

本格的な理論派のオカルト推理小説? って感じかな。この種の小説にあんまり手を出してこなかったから、どんな出来なのかはよく分からない。娯楽としては、なかなか悪くないと思う。推理小説だけに人は気軽に死んでいくのだが。

オカルトルポの原稿編と推理本編が散りばめられて、原稿では匿名、本編では実名という書き方の違いが文章のリズムになっていて云々…

親の家を売る。 (永峰英太郎)

相続した家を売った自分の体験をもとに、割と網羅的に必要事項を丁寧に説明した本。まあ、参考にはなるね。なるけどね。

幸か不幸か、自分も相続の処理をしたことがありますけど、なんだかんだで、カネを残すのが一番っすよね。面倒がない。

しかしですね、上場もしてない/電子化されてない変な端株だの、騙されて買った山林(しかも登記の処理を複数代に渡ってしていない!)だの…もう無視するしかないよ、こんなの。義務化は知ってるけどさ、何人の先祖の生まれてから死ぬまでの戸籍謄本を集めなきゃいけないんだっての。2人でも大変だったんだからさ。郵便局に通っては定額小為替を買ったり送ったり、コンビニコピー、封筒に詰めて、返ってきた謄本を読み解いて次の送り先を調べて…

デス・レター (山田正紀)

不思議な人探しの物語。連作短編。第1話のインタビューのところがなかなかいい出来で、グッと引きつけられる。

問題はだ、手紙で、フリガナがあることだよ。青いインクの手書きの手紙。そこにフリガナふる? 人と書いてラヴ…この不自然さ。縦書きなの? 横書きなの? 気になってしょうがないよ。

転機になる、ヘミングウェイのやつが良かったな。あと高校生のやつもかなり良かった。

読んで思ったのは、無理にオチをつけなくてもいいのに。だった。どうしたって無理があるよねえ。まあ、これがストーリー的にメタな話になるのは、妥当なんだろうけど。

暗闇にレンズ (高山羽根子)

動画を映すレンズと、それにまつわる一族の物語を軸にして、Side AとSide Bの落差と、つながっていく過程が楽しめる小説。特に、Side Bのリアリティがいいね。まるで学術記事さながらだ。ちょっとした表現へのあこがれで「さながら」言いたいだけだが。文章はまさにプロだねえ。上手い。相当な達者と言えるだろう。

途中から様子がおかしくなっていくのがこういう、優秀なSFだよね。ABそれぞれで動く物語。ラストも淡々として、それでいてすごい。余韻がある。

民間人のための戦場行動マニュアル もしも戦争に巻き込まれたらこうやって生きのびる (S&T OUTCOMES, 川口拓)

危機的状況を生き延びるための知識を集めた本。著者は自衛隊の教官?

興味深い知識はあるし、自衛隊がどんなことを想定して守備しようとしているのか、窺い知ることができる。まあ実際は想定通りには来ないんだろうけど、前触れがあるだろう、という想定はどうか。ウクライナでのそれのような大規模な侵攻を考えれば、前もって危機の情報を得られるのは事実だろう。

それで、その情報を見てから準備していたんじゃ間に合わないことは想像できるよ。そこでこういう本なんだな。