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山椒の実

エスキモーに氷を売る (ジョン・スポールストラ)

うーん、どうすっかな。売りをどうするか。透明度か、味か、色か、封入物か、造形か…そんなことをぼんやり思わさせられるタイトル。しかし中身はそういうものではなかった。

NBAの不人気弱小チーム、ニュージャージー・ネッツを手がけた著者による、ジャンプスタートマーケティングの話。それまでいたチームとは全く違う最悪な八方塞がりな事情を前に、何をしてどうなったか。弱小は変わらないまま、高収益チームにしてしまう魔法のメソッド。

嘘の木 (フランシス・ハーディング)

hideの曲にあったなー。花はいつしか毒を吐き出し、嘘を語るだろう。いや、調べるとだいぶ違う歌詞だったな…そんな、視界ゼロの海に出るかのような冒頭から、引き込まれてゆく。騙し合い、推理、各階層での生存を賭けた戦い、そしてド迫力アクション。まるで映画だ。

時代設定に影響されながらの進行で、いろいろな思いの渦巻きを感じさせてくれる。

そして、問題の木ですよ、木。こいつヤバいね。おどろおどろしい。こんな植物、どうやって繁殖するんだ、という謎はどうなるんだろう。

記憶翻訳者 いつか光になる (門田充宏)

過剰共感をテーマにしたSF。他者への共感が強すぎて自分の感覚と区別がつかなくなる。そこで記憶を再生するビジネスが実用化されたという世界。

記憶や意識に関するSFで、キャラクターの作りもあって突拍子もない設定と思った。あとモンスター討伐的な話はどうかと思ったが、読み進めていくとしっかり書き込まれている優秀なSFだと分かる。社長をはじめとした登場人物のバックグラウンドもアツいし、ビジネスモデルの構築とかの側面もあるのが深みを増しているんだろうな。

大はずれ殺人事件 (クレイグ・ライス)

マローン弁護士のシリーズ。っつっても今まで読んだことがなかったのだが。酒ばかり飲んでいる、メチャクチャ感のある登場人物群。それなりに謎があって、マローンがしっかり謎を解いていくのだが、ひねりも効いていていい感じ。古典的な秀作と言えるだろう。というわけで割と楽しめた。

登場人物の名前が分かりにくいけどまあ、この種の推理小説として仕方ないのは常のことか。

しかし新婚の奥さんは運転しすぎだ。やめてあげて…

まず牛を球とします。 (柞刈湯葉)

容疑者探偵の話が良かったな。深いような、深くないような。広島の話も綺麗な話ではあった。

タイトルの物理学ジョークはFedora18のコードネームにもなっていたことを思い出す。あれも10年以上前なのか。時の経つのは早いもので。今やredhat系はずいぶん減って、debian/ubuntu系ばかりになってしまった。rpm/yum(dnf)の方がdeb/aptより好きだったんだけどな。それはともかく。

タイトル作の牛球もそうだけど、リアリティのある導入部からの、流れるようなトンデモ展開。私はかなり好きで、これはクセになるかもしれない。

実力も運のうち 能力主義は正義か? (マイケル・サンデル)

「トロッコ問題おじさん」と呼ばれる可能性があった著名な教授による本。かなり話題になっていた。

学歴面でもそうだが、宗教的価値観というか。この人が引き合いに出すのはキリスト教だけど、我々も因果応報とか、そういう言い方がある。良いor悪い偶然をそれまでの行いと関連付けて評価することの是非。実際はランダムな偶然に過ぎない。偶然の勝者が正義を称して優越に浸るための理論。理論通りのような優越感。それが問題になる。謙虚であれ、と。

陸橋殺人事件 (ロナルド・A.ノックス)

「10戒」のノックスですね。古典的名作ということで、読んでみようと思った。今まで読んでこなかった、著名作家。読んでみると、割とふざけた話なんですね。ノックスってこういうのが好きなのか。とにかくセリフが長い。

冒険あり、勘違いあり、時刻表のトリックあり、暗黒日記あり、カーチェイスあり、ドロドロの愛憎劇あり、宗教論ありと多くの要素をはらんだ作品だった。登場人物も多すぎず、程よい謎、現代的でもあり、古典的でもある。改めて並べ上げていくと側面が多いな。

パンク侍、斬られて候 (町田康)

タイトルで勝確の時代劇。時代劇っつーか、まあ時代劇か。時代設定があるようなないような劇ね。冒頭で殺害された罪なき民草に涙を禁じ得ない。そのラストは美しい。

不思議に引き込まれる支離滅裂なセリフ。意味が分からないが一字一句読めてしまうリズム。書くも狂気、読むも狂気? といった様相だった。ここまでやっちゃうと映像化は無理だよな。…と思ったら映画化されていた。ちょっと頭おかしいね。

日本庭園殺人事件 (エラリー・クイーン)

異国情緒にあふれたニューヨークの日本で起きた事件を解決していく推理小説。日本っぽさがあらわれている。なかなかの解像度だ。途中で評価がガタ落ちする人物が悲しいな。途中まですごくいい人が…化け物扱いかよ。少ない手がかりであやふやな推理を当てていくクイーン氏。

ヒロインは幸せでありながら、かわいそうな感じになったよねえ。その辺の二面性も読む人と感傷的にさせてくれる。