新しい国へ 美しい国へ 完全版 (安倍晋三)
2度目の首相登板となるに当たって、前回の本に少し書き加えて完全版と称した本。政治家としての考え方を説明して、自分が総理大臣にふさわしいことを示すための。理路整然としているようでいて、感情的でもある。そこが魅力か。実際は前回の本そのままで、最後に短い1章(書き下ろしではなく雑誌に出た演説原稿みたいなやつを収録)が追加された小規模なアプデだった。
第一印象としては、句読点の使い方が気になって集中して読めないよ、というもの。老人によくある。ただ読んでいくと気にならなくなる。不思議なもので。少ない言葉でテンポが良いためかもしれない。全体的には、難しさがなくシンプルなのが受け入れられやすかったのかなと思った。都合の悪い結果は全部野党とマスコミのせい、という構図も分かりやすさがある。過去の政府の批判もあるけど、自民党の批判という形にはしない。…そういう本だから、そこはしょうがないか。
実際には、今読むとどうしても、死とそれにまつわるあれやこれやが付きまとう。つまり、再度捕まる前の田代まさしの自伝と似たような読み方になる。藁人形相手に綺麗事を次々に述べている裏で、悪名高きカルトの守護者としての振る舞いがあって、それが元で殺害されたわけだから。
政策の方も、あれだけ主張だけはしていた憲法改正はほぼ手つかずで。あの長期間の安定政権ですらできなきゃ、もう永遠に無理では、となってしまう。自分は軍事面に関連する憲法改正に関しては大筋で賛成している。最長政権と高支持率で実現できなかったのは、無能だと思う。ハードルも上げてくれちゃったよねえ。結局優先度がかなり低かったんだろう。北朝鮮対応も、首相になってからはうまくなかった。
この本は、シンプルさを重視してか、こき下ろしているのがやたらに極端な意見が多い印象が。あと自分に都合の良い強引な解釈も多いんじゃないかな。最近読んだ本で言うと、あのイランの人質事件についても書いてあるけど、アメリカが(作戦は失敗したけど)特殊部隊出したりして粘り強く頑張ったから解放されたんだ、だから日本も軍事力を持たないと…みたいな書き方。実際の経緯は違うよね。シャーがアメリカを出国し死んだことで理由がなくなり、イラクとやばくなり、カーターが退陣した当てつけになる日を選んで返した、という。まあイラクを支援して圧力を加えたという努力は大か。
…といったように、いい印象を受ける部分がほとんどなかった。むしろ読み直すと自分でもキモいと感じるような早口長文(これ)を書き連ねてしまうこの反応ね。あえてやろうとしてやってるわけじゃなくて、自然に書いてしまう。自分は彼にいい印象を持っていなかったんだな、ということを確信させられたよ。思想は割と近いと思うんだけどね。憲法改正、やって欲しかったな。