うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (先崎学)
うつの病魔に襲われた将棋のトッププロ棋士。その治療の過程を記した本。
境遇としては、兄が精神科医で妻がプロの碁打ち。入院先は慶應病院…思いつく限り万全とも思えるサポートを受けつつ、それはつらい治癒への道行き。書いてて辛くないのかな…と思ったら、書くのは治療の過程でもあったというオチが終盤に語られる。
すげーリアルな記述で、珍しいと思った。重度のうつ治療の経験の記述ってだけでも珍しい。少なくとも私は初めて接した。それがこの人みたく著名なプロ棋士みたいな頭脳労働の勝負師ときたらもはや、唯一無二かも。めちゃくちゃな症状のキツさ。描写の現実感が圧倒的なんだよ。段階的な回復も感じられてくるので読んでいくほどに辛さが弱まっていき、そのため読後感は良い。最初はどうなることかと思ったが。
うつは今やポピュラーな病気ですが、死にさえしなければ必ず治るんだそうな。症状の影響で自殺しやすくなるけど、そこで死なせないのが重要。心の病気ではなく脳の病気で、時間はかかっても完治すると。著者の場合は理事としての大トラブル対応ストレスに脳が反応してなったんだろう。←身勝手な第三者の断定
自分もこの方面の知識は非常に乏しくて、なんか普通のことをポロッと言うと勝手に傷ついて非難されるっていう病気…まー面倒な病気だよねなんて印象しか持ってなかったよ。ガンやエイズだって周りにここまで気を使わせないよ、正直関わりたくない…なんて無神経に言ったらまた怒られるのかな? あ、当たり前ですがそんなこと言わないですよさすがに私でも。私もそこそこの大病(死亡率がそこそこあるやつ)やって、死を覚悟したこともあったしね。
だから自分としては序盤でLINEの誘いに反応しなかった匿名の後輩に感情移入してしまった。著者には悪く書かれているかもしれないけど、あんたは悪くない。そう思う。事情もあったろうし、仮に事情がなくたってさ。読後のオレにしたって、この本の記述を読んで、その上で何の訓練もせずに重度のうつ患者に接する勇気がないですよ。
ただこの「うつ」というやつ…自分もかかる可能性が割とあるような気もしてる。その恐れは常につきまとう。私がかかる時はおそらく重度のそれだろう。間違いない。ワタクシとても内向的な人間です。そしてナイスガイすぎてストレスを発散しにくい=溜め込みやすい性格。そのためつとめてテキトーさを忘れないように日々努力しているのがオレの日常よ。まさに。そう、このテキトーさは自己防衛のためにあえてやってるんであって、非難には当たらないと考えております。本来とてもセンシティブなヤツなんで…