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山椒の実

誰がネロとパトラッシュを殺すのか (ディディエ・ヴォルカールト, アン・ヴァン・ディーンデレンら)

フランダース地方で起きた愛犬家殺人事件の全貌を追う探偵物語。

ではなくて、日本人ならば誰もが知っている「フランダースの犬」、その主人公ネロとパトラッシュ。私でもクタクタに疲れた時は反射的に「あー疲れた、パトラッシュ…」とつぶやきますからね。それについて論じた本。これは非常に良い本だった。

実際のフランダース地方(←ホントにあったんだ!!)ではこの物語は有名ではないし稀に読んだ人も嫌悪感しか持たないようだ。これ原著者はイギリス人の女流作家の女王みたいな人・ウィーダで、それでも晩年は落ちぶれていたらしいが、その人が後進国の田舎を見下して批判的に描いたフランダース地方の話なのだった。アメリカで何度か映画になったがエンディングがハッピーエンドに変更されたりしてやはり受け入れられず、日本でアニメになって受け入れられた。さすがにこの物語でアメリカンドリームを表現するのは無理ゲーだっただろうな。まあアニメは1年という期間に引き伸ばして膨らましているが、名作だよね、という。

著者(フランダース人)は冷静に観察し、愚かなハリウッドの失敗映画を見やりつつ、日本の文化を理解しながら名作アニメを読み解いていく。ゴールデンウィーク進行(旅行中で見逃してもいいように大して重要でないダラダラした話をする)を理解したりと、素人とは思えない鋭い分析が光る。一方でやはり現地では無名で評判も良くない。だってこれ、夢を持つ正直な少年が貧乏に殺される話だからね。で、いいかげんな観光資源化で訪れた日本人はみんな失望するらしい。

だいたいフランダース地方ってどこだよ…それがベルギー北部らしい。それが映画やアニメでオランダ風になっていることに憤慨したり。現地の犬には日本のアニメに出てきたような色合いの犬はほとんどいなくて、やっとこさ探しだしてマスコットみたいに扱ってみた話とかも。

実際のところ私はこのアニメ見たことなくて最後のセリフくらいしか知らないんだけど、圧巻のあらすじ紹介は助かった。これのおかげで「風車小屋が火事になったのがいけないんだよね」「あのコンクールはどうかと思うよね」「あそこで木こりルートを選択する賢さを持つべきだったよな」など知ったかぶりができるようになる。ありがとう見知らぬフランダース人。

あまりに貧乏だと、夢を見る自由くらいしか残されないものなんだ…