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山椒の実

Skylight – A Window on Shingled Disk Operation (Abutalib Aghayev and Peter Desnoyers, Northeastern University)

これはShingled Diskの話。だいたいShingled Diskのすべてのことが書いてあるように見える。Best Paper受賞作。まあFASTのBest Paperという評価はアテにならないことがほとんどだが…

Shingled Diskは書き込みに制限をかけることで、ディスクの書き込み幅を狭くできるという目からウロコの技術。ずいぶん昔からあったはずだが、最近になってSSDの影響でファームの技術が上がってきたため、やっと実用化に至った。

この「書き込み幅」というのは、ディスクのヘッドが書き込むときは帯の状態になるのだが、普通のディスクは両側から書き込まれてもデータが残るように考えて書き込み幅が決定される。しかしShingled Diskは片側からしか書き込まない(=シーケンシャルに書き込む)ことで幅を減らせるのだ。まあ最初から最後までシーケンシャルというわけにもいかないので、たまに大きい幅を持たせることで、大きなブロックサイズのディスクみたいに扱えるようになる。Readは読み込み順は普通に制限がない。

そして、書き込み幅を縮めることで容量を稼げるんですね。ソフトウェア的にはSSDのファーム(FTL)とほぼ同等のことをやる(Shingle Translation Layer=STL)ことで、外面は普通のディスク、内側はShingled Diskといった作り方ができるし、普通に中身をそのまま見せたとしても、random readできるテープのような使い方ができるのだ。素晴らしい。

しかも、ハードは普通のディスクと同じ。ファームのパラメータだけが違う。SSDでMLCとSLCはチップは同じでファームからの使われ方が違うだけ、というのと似てますよね。

そんなShingled Diskのあれやこれやが書かれた論文となれば、読まぬ理由がない。

だってintroductionがIn the nearly 60 years since the hard disk drive (HDD) has been introducedとかで始まるのだ。HDDにもそのくらいの歴史があるのだ。(ここでひとしきり昔ばなし、とカンペに書きたくなるね)…

論文にはSeagateの型番が普通に書いてあるので市販品になってたのかと気になってぐぐると、SeagateはArchive HDDシリーズがShingled Diskということらしい。

この論文では、ドライブに(比喩ではない)覗き穴を作って(!)、ハイスピードカメラでヘッドの動きを検出してドライブの特性、パラメータを推定している。あと当然、性能の揺らぎも使っている。ベンダに問い合わせれば教えてくれてもいいような情報? なんだけど、外から叩いて調べることに意義がある。しかし覗き穴なんてよく作れたな…HDDって密封しなきゃヤバいはずなんだけど。そしてそのヘッドの動きをカメラで観測って…さらっと書くようなことなのか?

そんで、値をエミュレータの動きと比較したり。実際、Shingled Diskのファームの動きは複雑なので、このやり方で解析できるのか疑問に思ってしまう…。測定グラフがたくさんあるので、そこを見ているだけで楽しい。

正直、Shingled Diskの性能の揺らぎを知るだけでも論文になる価値はあっただろうけど、ここまでやるのは素晴らしいと私は思ったよ。