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山椒の実

受難 (帚木蓬生)

テーマ自体は韓国の船舶事故にまつわるあれこれ、だが、素材は医療系SF。実在の事件や事象からのシームレスな虚構に移る。油断して読んでいたら、途中でさすがにこれは、となって、どこからが…と。そういう技だな。IPS細胞時代のフランケンシュタイン。そんな感じの物語。この技術があれば、余裕で不老不死達成できるじゃないか。革命的だ。頑張れ人類。

途中で気づいたけど、これ何か他の作品の続編ですよね。いきなりこれを読んでしまった。間違ったかな。執拗な食べ物シーンと女子高生乳首描写は何の意味があったんだろう。それ以外のシーンがあっさりしすぎているので対比がすごいんだ。そしてラストまで読んでも無意味だとしか思えなかった。

だから捨ててと言ったのに (講談社編)

冒頭の一文がこのタイトル縛りで、ホラーテイストが多めな、若手作家の競作集。それぞれかなり短い短編で、人数増やせばいいってもんじゃねーぞ、と言いたくなる。クローズがあっさりし過ぎなんじゃよ。余韻がムリヤリ作られてるっていうか。

中では、ぷにょぽんの話が良かったかな。頭一つ抜けていた。良かったっつっても、どうかと思うけどさ。多才すぎるぷにょぽんがすごかったからさ。歴代最強野球部キャプテン設定が活きる。推薦てことは成績も割と良かったんでしょう? 行け、ぷにょぽん。ぽんぽん王国を背負って!

棘の街 (堂場瞬一)

と街だったら街の方が規模が大きいだろうと。つまりトゲゾー甲羅だ。

家からは打って変わってハードボイルド刑事ドラマだ。誘拐事件でヘマをした刑事が、故郷の寂れた地方都市に帰ってきて捜査を続ける。地元のヤクザが暴力を振り回し、薬の売人軍団が野放図に暴れる。

救いのないクライマックス。極限まで傷つきながらもそれを受け止めてなお動じない主人公。そこまでハードボイルドしなくても…やりすぎでは? と思ってしまった。

あとは主人公を含めた主要登場人物、ほとんど全員が身勝手で、誰にも共感できない。マトモなのはひったくりのオッサンとかくらいじゃねーの? まあ他にも周辺の人物にはマトモなやつもいたか。だけど大してフィーチャーされてないから共感というレベルまで来ないんだよな。

棘の家 (中山七里)

教師の子の学校での転落。いじめを苦にした自殺未遂という構図なのだが、学校、警察、下衆なマスコミや鬼女(特定班)を巻き込んで家族を翻弄する。

不穏さを小出しにしながらの進行で、なかなかな展開だったな。最後はうまくまとめた。なんだかんだで、それぞれ立派に行動したな。元通りにはならないけど、事件が解決して良かった。

相手の家族を思う。何がそうさせたのか。悲劇しか持たない家。まあノンフィクションではなく、小説なんだけど。

私はこうしてストーカーに殺されずにすんだ (遙洋子)

現代サバイバル術。生き残った者が知識を伝える。バリツの次に学習すべきと思って読んでみた。さてどう戦おうか?

かなり壮絶な戦いを生き抜いた人物なんですね。歴戦の猛者だ。芸能人は大変だな、という月並みな感想を持ったが、今や被害に遭うのは芸能人とも限らんからな。

自分はそこまでの執着心を持ったことがないので犯人の心理が良く分からないというのが実際のところ。どうなんだろう。いろいろな例で考えてみる。私は例えば、結婚していたり子供がいたりするけど、それらを取り上げられたところで? 第三者からの理不尽な扱い(誘拐とか)なら必死に取り戻そうとなるだろうが、本人がマジで嫌がって離れていくなら、まあ。幼少の頃から興味を持ち四半世紀に渡って従事する職種があるが、うーん、これに関しては生きていくのに有利だから、今の会社辞めても似たような仕事をするんだろうけどねえ。でも無理になったら別のことをやると思うなあ。20年以上フロンターレを応援しているが、なんか不祥事を起こして出入り禁止になったりしたら、どうしようかな。巨人の二軍かブレイブサンダースでも見にいくか。PythonとGolangを多用しているけど、使用禁止されたら? うーん、どうしようかな。なんかの言語を見つけるか。vscode禁止されたら? 俺たちにはvimがある。いっそemacsに戻ってもどうにかなる。

三体3 死神永生 (劉慈欣)

人類は滅亡する? しない? どっち!?

2の主人公は超人的だったが、3の主人公のダメさ加減はどうだ。ひどすぎる。タナボタで絶大な権力をもらいながらの無力…しかもひたすら2択を外し続けるという。それでも主人公かよ。どうした人類。シンプルに選んだやつが悪い、としか言いようがない? いやいや主人公でしょ? 無力すぎると逆に擁護が湧くんだよな不思議と。でも、こいつに任せると滅亡する、と学習しなきゃ。こいつが死なせた人数、軽く毛沢東超えてんじゃん。与えてくれた親切なヒントをすべて無にして、何度太陽系を絶滅させてんのよ、って話。しかも全部成り行き任せ、他力本願だもんな。強運を持ちながら生かせない罪は重いぞ。英雄に敬意を持ってもらえた時間旅行者…権力だけは与えちゃダメ。ゼッタイ。最後は自分だけ逃げ出すという(しかも、それすら他力本願)。

母親になって後悔してる (オルナ・ドーナト)

後悔ほど無意味な感情は珍しいよね、という感覚があります。過去はすでに配られた手札であって、これで勝負するわけですよ。個人レベルではそう。ただ公共のため、後続の人のためにスタートラインの不当さを訴える必要性は大きい。

イスラエルは先進国ですが、出生率が高いみたいですね。女性に対して母親になるような圧がかけられている。おそらく男性にも父親になるような圧があるんだろう。結婚して子供作って家買ってはじめて一人前、みたいなアレ。

ミステリークロック (貴志祐介)

密室殺人のミステリ。表題作はとにかくややこしすぎる。説明編が理解できんのじゃ。つまり時計がトッケイ! てことか。コケコッコー?!

ぬで始まる動詞、という話は本筋とは関係ない、ということは話を読み進んでポンコツっぷりと探偵との関係性から判明する。とにかく気球のピーターパンのトリックには度肝を抜かれた。その手があったか! と。シリーズものなんですね。他のやつも読もうかな。

ヤクザの自殺のやつは緊迫感もあってかなり良かった。命がいくつあっても足りねーな。

博士の愛した数式 (小川洋子)

良い小説だった。事故で記憶が定着しなくなった老数学者、家政婦とその息子、そして阪神時代の江夏豊の物語。

時代設定も秀逸で、ラジオだったり、阪神の暗黒時代の幕開けだったり、そういうアクセントというか。チーム名も今とは違うからね。何やかやで、キレイでもあり深刻でもあり、絵画かスローな映画のような話だった。

描写的には、かなりエース級の数学者だったんだろうかな。数学でメシを食うってだけでも偉業だが。

人間は多かれ少なかれ記憶は衰えていく。自分も過去に近親者が晩年、記憶に問題が起きるのを見てきたから、自分にもそういうことが起きるんだろうと思っている。この博士の場合、それでも尊厳を失わずに敬意を与えられていたのは、やはりその知恵の深さと善良な心があってこそか。謎めいた義姉は障害を得る前の全盛期も知っていて、それなりの関係性があったからこその辛さというものがあるんだろうなあ。

この本を盗む者は (深緑野分)

本を盗むなよ。買え。無理なら図書館で借りろ。以上。

そんな物語。上級の呪いが街中に広がる。お前のようなババアがいるか。ジャンルを股にかけた、世代を超えた呪いの世界だ。崩壊する世界をどうやって救う? そこのお前が主人公だ。

なかなか良い読書体験になった。中では、シルバードラゴンがカッコ良かったな。ウンコすら便利だし。あの可哀想な扱いはどうかと思うが。戦闘シーンも迫力があった。