Skip to main content

山椒の実

母になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち (高橋歩唯, 依田真由美)

あのイスラエルの本に関するNHKの特集を本にしたもの。日本でもインタビューを敢行。インタビュー対象の多様性については、イスラエルの元ネタと比べてどうか。会社などで働きたかったのに子供を生んだから働けない人生になった母親が多いのはそうなるだろう。気になるのは氷河期世代が多いこと。そして父親は家事をしない。この世代の父親には育休制度がないのよね。自分もそうだが、先進的な会社が男性育休を推奨し始めたか始めないか、そのくらいの時期。制度化されるのはもっと後のことだ。私の時も、確か積立休暇みたいな、入院するときに使うための休暇制度? みたいなやつしかなかった記憶がある。あと、祖母になっている人は対象者に入っていなかった。世代の多様性は低い感じか。

私は、どっちかというと社会的というよりも本能的に母親になることに違和感があるケースに興味を感じる。そういうのってあるんじゃないかと思っていて。本能的母化拒否。確率的に発生するのでは。この本でも、そういう人もいた。哺乳類に植え付けられたバグではなかろうか。野生動物にもそういう個体がいるんだろうな。太古から続く謎? 一見、種の生存には不利だが、実は有利な面があったりして。どんな理屈があるのか。

ラムディアンズ・キューブ (小田雅久仁)

序盤からは想像もつかない展開。ただ設定が多すぎて大変だった。言語とかはもういいんじゃないの、とか。説明してくれないとついていけないし、説明が多いのもうざい。中編に収めるのは無理がある設定の多さだと思う。チュートリアルでエンディングまで突っ走ったという印象。

まあこれ、本人が書きたかったんだろうな。読んで楽しいものではないが、書きたくなる気持ちは少し分かるよ。三体の最後もそうだった。弥勒も衆生を救わない。

紙の梟 ハーシュソサエティ (貫井徳郎)

現代日本に舞い降りたハムラビ法典「死には死を」つまり殺人即死刑。そういう世界の物語。ペーパーマリオの小説版だと思って油断していると度肝を抜かれることになる。とても良かった。いい本を読んだ。短編4つと、長編1つ。

設定は設定に過ぎないので、登場人物や事件は設定を舞台装置にしつつ、独自に進んでいく。序盤の短編で設定の裏をかく犯罪やクローズドサークルもの、イジメ自殺とテーマを変えながらの進行で舞台に慣れさせてのハードボイルドな長編につなげていく。

若きウェルテルの悩み (ゲーテ/訳:井上正蔵)

ウェルテルっつーのも珍しい名前だね。ウィリアムとかヴィルトールとかの読み方の一種かな? そしたらあだ名はビル? 少し調べると、ウェルターとかヴェルタースオリジナル方面らしく。なるほど。相手方の(シャル)ロッテがロッテの社名の由来になるほどの大きな経済効果をもたらしたこの本を今、読む。250年の時を超えた、今ね。ネガティブ面としては、多くの恋に破れた若者を自殺に追い込んだ事実があり、ウェルテル効果、みたいな名前がついているようだ。ふーん。

おなじ墓のムジナ 枕倉北商店街殺人事件 (霞流一)

衝撃的なオープニング。鼻に正露丸で開幕とは。東京と言えばタヌキですからな。ガスサポもそう言ってる。

繰り広げられるタヌキ・クリプティック…ニンジャの世界…末広がり…徳川幕府を倒したのは果たして…謎が謎を呼び、推理が推理を推理する。商店街を股にかけた連続殺人事件の解決は意外なところからやってくるのだ。

最初は地域の広さに対して登場人物が多すぎだろうと心配になったが、最終的にはたいへん面白かった。唐突とも思える謎解きも良い。そっちからか。怪しさはあるけど、こいつに解かれるなら謎も本望と言えるかもしれない。

ママは身長100cm (伊是名夏子)

先日の事典には書いてなかった症状だが、まあ起きうることは起きるんだな、と思わされる。生まれつき骨が弱い障害とともに生きて出産や子育てをしてきた女性の自伝。骨形成不全症というらしい。

身長はともかく体重が20kgのサイズ感。それで2人産んだのはスゴイな。さすがに帝王切開だけど30週超えるまで大きくしてから、2kg以上ある赤子を産み落とす。驚異的だ。

結婚時の相手実家の反対や、夫婦別姓の困難さも書かれていた。誰でもそうだが、そういう時は強行突破しかないんだよなー。ためらわずにそれができるやつが強い。本の中では存在感に欠けるが、この人のパートナーはかなり強かったのかもしれない。あとは、ヘルパーさん関連の事情も書かれていて、割と参考になる。事務所経由じゃなくて直接見つけたほうがいいとか、費用負担とか、そういうやつ。

サイエンスペディア1000 (ポール・パーソンズ)

科学に関する百科事典のようなもの。1000項目だから、千科事典か。1000項目に絞って軽く説明していく。密度やバランスがちょうど良くて、これを入り口に興味のあるジャンルを掘っていくのも良いだろう。出版自体は2015年とあるけど、翻訳がその時期で、原著はもうちょっと前な感じで、訳註で補足があったりした。翻訳からも10年経っているから、状況はだいぶ変わってるのかもしれないが、自分が不勉強で、現状どこがどのくらい進んでいるのか判別できない。

SIGNAL (山田宗樹)

不確かなまま始まる今日は…なんだと言うのか? 宇宙レベルのいつも通りの日々。三体で学んだ暗黒森林仮説が冴え渡る。これジャンルをSFを呼んでいいのかどうか…

奇人の先輩との交流からの宇宙人艦隊との音声通話が映像になって最終的には…どうなんだろうな。このくらいのラストがちょうどいいのかな。中高一貫教育の果てにしては銀河を股にかけたスケールの大きな話になるんだが、スケールが大きすぎて最後はバグってしまう感じか。距離が遠すぎて無理がある。三体を受けて語られはじめた物語としては少しティーンズ向けに寄りすぎだよなあ。

現代語訳 徒然草 (吉田兼好/訳:佐藤春夫)

鬱屈のあまり一日中スマホに向かってキチガイじみた呪詛を撒きつける。そんな人生を送るワタクシが青空文庫にあるやつを読んだ。ケンコー! いいぞ、奥ゆかしい!! ト・ゼン・ソー! ト・ゼン・ソー!!

その実態は700年前のオッサンの上から目線人生訓ブログ。と表現すると途端にクソ文章に思えるから不思議だ。書いてるのが現代人だったらマジでクソもクソ、大グソだよ。SNSだったら誰も顧みないだろう。良くてプチ炎上か。それが古代人というだけで尊ばれるのは…なんかオレたち騙されてないか? 何が書いてあるかより、誰が書いているかが重要。オレはそういう価値観では生きていないはずなのに。