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山椒の実

右園死児報告 (真島文吉)

明治時代から続くあの現象の報告書をまとめた問題作。いいのこれ出版しちゃって。事件ですよ?

家族がこの名前を名乗り始めたらどうしよう。そんな不安とともに読み進める。日本を長らく蝕んできた、あの。

そのまま現代の闇に続いて終わりかと思いきや、終盤は議論の起きそうな展開に。そういうのを求めていたわけじゃない、という読者の声が聞こえてきそうな。アベンジャーズを意識しすぎたんじゃないか。失敗してないか。

緑の家の女 (逢坂剛)

オシャレ会話を楽しむためのハードボイルド風探偵物語。息をつく暇もなく、マシンガンのようなオシャレ会話。このリズムだよね。短編集でテンポもいい。主人公の興味の範囲がいい具合に絞られていて、統一感もある。なかなか良い作品だった。それでも最後の方の暗殺の話は偶然が過ぎたと思うが。

全体的にはかなり楽しめたし、シリーズになってるらしいので、他の作品も読みたいなあ。

大一揆 (平谷美樹)

幕末期の南部藩で起きた一揆の話。実話ベースだが知らないことばかりで、新鮮でもあった。実は私は幼少期に過ごしている地域が舞台なんだけど、マジで知らなかったな。あの辺でこんな一揆が成功していたなんて。時代の偶然もあったんだろう。

というわけで最初はファミコン版のあの音楽を懐かしく思いながら読んでいたのだが、かなり興味深く読むことになった。しかし当時の情報でこの的確な動きは無理があるんじゃないかなあ。カンだけであんなにやれるのか? 実際はもっと情報が行き渡っていたんだろうか。

どこまでやったらクビになるか (大内伸哉)

会社つえー

15年くらい前に書かれた本か。15年前でこんなに会社強いんだ。ほとんど無敵じゃないか。今でも強いのかな。会社員ってのも弱い立場なんだな。いや15年前? それでこれか。意外だなあ。

構造的に個人で組織と戦うのは不利が多いわけだが、それでも部分的には勝てるケースがある、という感じなんだろうな。この本が何かの参考になるのかわからないけれども、社会的な問題ではあるから、判断は時代とともに変わっていくものなんだろう。法律ができたとか改正されたとか、そういうきっかけもでかいんだろうが、実際は世間の空気みたいなものの影響が大きいと感じた。

人間の証明 (森村誠一)

昭和ミステリ。いい題材だと思うけど、あんまり引き込まれないんだよな。文章が自分に刺さらないというか。トントン拍子だがまどろっこしい矛盾した展開。複数の物語が統合されていく様子は、よくできていたが。関連し過ぎな面があるほどに。

まあでも、こんなもんなんだろうなー。微妙な感じだった。そんなに死ななくてもいいのに。全員不幸になってしまう。最後は独りよがりの憶測を重ねた推理、根拠薄弱尋問でムリクリ自白させるような展開だもんな。推理小説としての救いがないと思った。

パラドックス13 (東野圭吾)

パラドックスをクライシスしていく。2013-03-13T13:13:13+0900だから、実は本物は13月に来るんじゃないか、なんて思いながら読んだ。

荒唐無稽設定からの天変地異をサヴァイヴするので現実感に難があるんじゃないかと思いきや、この著者の作品らしく引き込まれて一気読みだ。リアリティも申し分ないと思う。設定はメチャクチャなのに筋が通っているからか。

というわけで、かなり良かった。安定だな。間違いがない。いい奴が死に、悪い奴も死に、死なない奴が生き残る。

ふるさとは貧民窟なりき (小板橋二郎)

戦前の板橋にあったスラム街で生まれ育ちルポライターとして大成した著者が、資料を当たりながら少年時代の思い出を記していく。資料に見える辛辣な表現と、著者の記憶とその裏側にあったはずの事実が織り交ぜられていて、その対比も。かなりしっかり読ませる、いい読書体験になった。

スラムのリアルというか。多くの人が貧困に苦しみながらも明るく、それなりの秩序の中で生きて、そして多くの人が死んでいく。優しさエピソードが幸福には全くつながらないんだ。崩壊のところもすごかったな。家主だった義父が白痴の青年を殴り殺したことをきっかけに、数日おきにバタバタと倒れ、全滅していく。

ただ、それだけでよかったんです (松村涼哉)

スクールカーストへの革命? を実行した中2少年の物語。

田舎の中学校みたいなクローズドサークルで誰がいじめたのいじめてないのって、そういう話だった。いじめを苦にした自殺が発生し、そこから謎解きが始まる。テーマが限定されすぎていた気がするなあ。読んでる間は、興味深く読めたと思うよ。読後感が何か残るかっていうと、アレだけども。

まあ設定が極端なんだよね。それで、辻褄が合うように物語を設計して。そんな感じの作業が浮かんでくるような感覚があった。読んでいての、勝手な感想なんだけれども。

令和ブルガリアヨーグルト (宮木あや子)

明治ブルガリアヨーグルトの50周年を記念して書かれた小説…ということでいいのかな。乳業の部門に就職したオタク主人公が奮闘する。まあ一応、物語のなかでは会社名はわざとらしく違うものになっている。

オタクという話なので、「詳細を説明したらドン引かれるレベルで調べていたので黙っていた」などの表現が散見される。

なんじゃこりゃ、と。ブルガリアの歴史が織りなす乳酸菌の擬人化創作物て。そんな度肝を抜かれるジャンル。田舎の革命と絡んで、うまいことまとめてきたけども、問題作でしょうよコレ。ブルガリアの歴史は身につくかもしれない。立地的にかなり暗黒の時代を過ごすことになったらしい。今の国境だとトルコの隣ですね。

因縁 (福田和代)

あのクロエが殺されるとは。マジか。衝撃的な事件だった。その事件を解決する、「タクシードライバー」の息子。そして豪胆な登場人物が続出して、神戸を舞台に決勝戦の熱い戦いが幕を明ける!

なんのことを言ってるのかわからないと思うが、そういう話だったんだよ。かなりよく書けていて、引き込まれた。エピローグもキレイに合わせて読後感を調整してくれた配慮も感じた。ああいうのってちょっと蛇足感もあるんだけど、安心する人もいるだろう。