Skip to main content

山椒の実

ニワトリ 愛を独り占めにした鳥 (遠藤秀紀)

ニワトリはなぜニワトリなのか。おおニワトリ、ニワトリ! あなたはどうしてニワトリなの? 生物学者は語る。

最初の章からすごいな。現代の鶏卵鶏肉生産の効率化が冷徹な描写で語られる。この工場的な生産体制において、愛とは。いろいろな品種改良の話、文化的な話も。

セキショクヤケイというニワトリの原種を追う話が全体を締めつつ、ところどころ皇室を絡めながら感情や好悪を込めてニワトリを語るのだ。オジサンはあまり好き嫌いを前面に出さないほうが…とヒヤヒヤしてしまう。

名将名城伝 (津本陽)

全国にあったいい城をネタに四方山話を語る。津本陽が、だ。まあこの人の名前がなければ読む気にはならない内容だよなあ。それでも読んでしまうのだが。キン肉星宮殿と瓜二つと言われた大阪城も大トリに入っていた。サラリーマン時代はあの辺が通勤路だったらしい。なるほど。

まあ、読む前から「そんな感じ」だろうと思っていた、読んだ後も「そんな感じ」だったな、という感想。こういうの好きな人もいるんじゃないか。まあでも、本願寺と大阪城の話とかは悪くなかったな。やはり思い入れがあると熱量も違う。名護屋城についてはあんまりイメージがついてなかったのだけど、本書の記述のおかげでだいぶ構図がハッキリしたので良かった。他にも琵琶湖周辺の佐和山城や坂本城のあたりについても同様。

マグロ船仕事術 (齊藤正明)

ニンジャスレイヤーの名作、マグロ・サンダーボルトを思いながら、マグロはえ縄漁船に乗った会社員の本を読む。

閉鎖空間でうまくやる、ということで、宇宙飛行士みたいな感じなのかなあ。いいヤツでいるしかないと。褒め合おうとか、そういうことが説得力を持って述べられている。必然的に、自分の振る舞いや、自分の職場のありようを省みてしまう。残念ながらウチではチクチク言葉は禁止されてるんでね。

この人は下船後、何かと助けられながら会社を改革していったらしい。なかなか素晴らしかった。船酔いで吐きまくってフラフラになりながら、学び取る部分を見つけていく技術があったってとこがスゴいな。先日読んだなかにし礼の本にも似たように船酔いでフラフラになるシーンがあったけど、彼らは学ぶどころの話ではなかったなあ。自分もグロッキー状態で何かを学べる技は持っていない。

国歌を作った男 (宮内悠介)

短編集。なんていうか、他愛もないフィクション? みたいな。なんつーか、ハルシネーション的な感覚がある。大して語りたいテーマやメッセージもないのに、淡々と現実的な嘘が並べられていく。

中では、料理魔事件が良かったかな。開高健のやつは、あんまりだろうと思った。表題作のゲームクリエイターの作曲家の話はどうだろう。私にはあまり刺さらなかったなあ。この世代の作家がMSXとか経験してるわけ? と思って思わずWikipediaを見たら、割と同世代な…自分より少し下のやつだった。ならMSXもありえるな。早熟なやつなら。文章を読んで、だいぶ若い印象を受けたんだけどなあ。しかも出身校が同じ…そう来たか。中ですれ違ってた可能性があるわけね。

これが最後の仕事になる (講談社編)

先日の捨てるやつと同じシリーズで、第二のぷにょぽんを探して読んでみたというわけだ。今度は最後の仕事がテーマ。タスク管理で、todoが、あるいはready状態にある項目が残り1つになってしまう、ある意味わびしい状態か。

今作は飛び抜けて良い作品はないけど、佳作が多かった印象。特別に引き込まれたり余韻が残ったり癖になりそうだったり、そういう作品はない。良かったやつと言えば、デスメタラーのバスガス爆発の話、スフィンクスの謎掛け二本足の話、看護助手の話、離婚する話。このあたりか。作家側は、それぞれに実力を見せたんじゃないかな。

ゾンビのいた季節 (須藤古都離)

ChatGPT調べによれば、ゾンビは夏の季語として使えるだけの性能が確認されているとのことです。そして冬は冬眠するやつもいるとか。知らなかったー、ためになるなぁ。

呪われた銀山跡を舞台にした、まるで美しい映画のようなストーリー。その安定かつスリリングなストーリーテリングで、さすがの技巧が冴え渡る。ゾンビから逃れて核シェルターに立て籠もった著述家が書く物語とは。

なんだこれは。まずは視点がたくさんありすぎる。小説家、マフィア、ギャング、編集者、警察官、映画人、軍人、マニア。人数の少ないジェスローの中にもいろんな家族がいてそれぞれのキャラクター、生きる世界がある。群像劇というか…多少混乱したがどうにか読み進めた。最後は前代未聞の無撮影爆発エンド。そんなのってあり? かえすがえすも教会は撮っておきたかった。あんだけ燃やすことを熱望していたのに。

スワン (呉勝浩)

ショッピングモール大量殺人事件の、その後を描く。大量の死者と怪我人、犯人は全員死亡…そして集められた証言者。これ以上何を解明するというのか。もう「犯人が悪い」で、いいじゃないか。それ以上に悪い人なんているかよ。誰しもがそう思うところ。

果たして、読み進むほどに不穏とリアルが増していき、嘘は暴かれ、謎は解けてゆく。かなり傑作よりの良作だった。全ての人物に多面性が織りなしているし、イーストウッドでも出てきそうな…いやー、何書いても無粋なネタバレにしかならないような気もするが、とにかく読んで良かった。

タイム・リープ あしたはきのう (高畑京一郎)

うるう秒のアレだっけ、それとも時刻同期がずれて修正する時のやつ?

実際は高校生がタイムスリップだ。なかなか熱い設定ですよね。どうせタイムリーパーを出すなら、やっぱ高校生くらいがいいですよね。老人とか出しても燃えないですもんね。…という方向性を決定づけた、割と名作の扱いの小説。

果たして読んでみたが、なかなか良かった。物語やキャラクターに魅力があって完成度も高い。今読んでも問題なく楽しめる。

SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか (毎日新聞取材班)

2020年の本。あれから5年。悪化してるよね。どうだった?

いろんな物語を集めた、マスコミの取材班が作ったありがちな本。出自的に常識的な内容になることから、面白さはないが安定的に時代を理解できる、という利点がある。NHKの本とかは結構パンチがあることもあるんだけどね。

読んでいていろいろな出来事を思い出す。ネットの世界は時間が過ぎるのが早すぎて、もはや矢だ。光陰さながらだ。…というか、そのものだが。

思うに、人類の脳がポンコツに過ぎなかったということを白日の下にさらしたのがSNSという見方もできるのかもしれない。学問の力でごまかそうとしたものの、過去最高レベルの学力を誇る現代でもダメだったワケで。こりゃディープステートの陰謀とかで片付けられたほうが絶望は浅い。

月を盗んだ男 NASA史上最大の盗難事件 (ベン・メズリック)

いいじゃん月の石くらい貰っても。でかいんだし。地球の石と大して変わんないでしょうよ。領地も確定してないんじゃないの。自然物だろう。これが財産だとしたら、そもそもがNASA自身が月から盗んできたものだろ。

あらすじとしては、、、

婚前交渉の咎で実家から勘当され絶望の淵を彷徨ったユタ州のモルモン教徒がエース級サイエンティストに転生、NASAデビューをきっかけに陽キャ化。しかし駆け落ちしたモデル妻とは不仲になっており、ベルギーの石マニアと悪魔合体したFBIも暗躍を始めていたのだった。そこに謎の研修生美女がロケットめいて高速垂直リフト射出され…