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山椒の実

ワールズ・エンド・ガーデン (いとうせいこう)

いとうせいこう、何者? 誰だっけ、あのキリストをチクった奴の名前。クスリと酒と暴力にまみれた、そんな退廃的なイスラム風街区を作って済む不動産屋さんのお話。浮浪者狩りにユダ狩り。棍棒の応酬、怒りの鉄球攻撃。施しをしろよ! 祈りや断食は無理かもだけどよ。

そこに現れた異世界転生預言者みたいな浮浪者上がりの中年男がカタコトの日本語で巻き起こす騒動とは? なんかの神話が下敷きになってるのかな。私には分からなかったが。

信長の原理 (垣根涼介)

数多くある信長本。今さら信長かー。とも思ったけれども、日本史の大エースだから、少しは読んでもいいんじゃないか。でもノブくん最後はセイヤーされるんだろ? オーズの映画で見たよ(いつの話だよ)。

信長に学ぶビジネス書みたいな文章が頭に浮かぶわけだが、果たしてどうか。割と楽しめた。まあだいたいの流れは知っている。俺たちの奇妙丸も出てきて活躍した。柴田カルティエが出てきて高級ブランドだった。まあなんというか…結局はビジネス本みたいな内容だった。信長が社会生物学の学者みたいな研究をしてパレートの法則を発見してノーベル賞を狙ったり、ドラッカーを学んだ何某のような動きをして天下を布武していく物語。物語の展開上、途中から主人公が変わってしまう。

逆転 二係捜査 (本城雅人)

穴掘りシリーズ第2弾。穴掘りで先手を取られた話の後編、みたいな話だった。どうしても後味は悪いよね。悪役を悪役らしく描こうとしているのは分かるが、対照的すぎて不自然な感じになってしまった。さすがにこれは悪すぎるでしょうよ。そこまで悪くなくてもいいでしょうよと。もうちょっと手心というものが…

前作も犯人の悪さに関しては、そうだったかな。あいつも悪すぎたよね。

まあ今回も出来は良い部類だと思った。思ったけど、でも悪すぎてついていけない気がしたよ。ミステリと言いつつ、謎はそれほど大きなものではない。自然な展開についていくだけ、悪はあくまでも悪。そんな夜の読書だった。

新宿のありふれた夜 (佐々木譲)

のんびりとした安穏な夜。闇は深まり、焚き火の炎が頬を照らす。星空に目を見やると頬にはのんびりとした風が揺らぎ、視線の先には満天の…

新宿、この著者で、そんなわけがないよね。騒々しい人々が散々に暴れまわり、大脱走が始まる。ドタバタした夜が終わり、悪人は死に、善人が満足して物語は終わった。

まあ、たまにはこんな本を読むのもいいよね、と思った。後には喧騒しか残らない。

タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源 (ピーター・ゴドフリー=スミス)

LLMの発達で新たな知的種族が誕生しつつあるが、彼らは進化の樹形図の中ではどのように表現されるのだろうか? その謎を解くため、我々は頭足類の世界を探検することにした。

…のだけど、なんか哲学系の人が全体図をこねくり回しながら書いているから、エディアカラやカンブリア紀だの、、、なかなかタコにたどり着かないという。

それでも興味深い話は多かった。視神経が腹と背にあって、意識上は目が見えない人が障害物を避けられる話とか。ホワイトノイズのホワイトクリスマスの話とか。200年の時を生きるメバルとか。煮付けてる場合じゃない。そして全くタコじゃねーけど。

アクロイド殺人事件 (アガサ・クリスティ)

俺、アクロイド。お前、何ロイド?

クリスティの問題作。だって悪ロイドだぜ? 悪の、アンドロイド。やばすぎる。名は体を表す。危ないよ。近寄るな!? 話し合おう?

のっけから関係者が死んでいくんだけど、ポアロ登場が序盤のキモかな。渋るんだよね。この理髪師くずれのガイジンのカボチャ農家が。そして引退宣言までするという。しかしフランス人だつけ? ベルギーだったような。

クリスティで麻雀の観戦をすることになるとは思わなかったな。日本のリーチ麻雀ではなく、中国ルールかな。花牌は出てこなかったが。しかしあの土壇場で飛び出した天和には驚いた。九蓮宝燈なら伏線にもなったのに。

川崎警察 真夏闇 (香納諒一)

「川崎警察じゃオラー!」ドガ! バキ! ドス! ガラガラドッカーン!!

沖縄返還の直前あたりの時代の川崎警察の話。ヤクザが活躍する。相変わらず、時代の空気感が良い。このシリーズいいよね。

今回も、いいやつが死んだな。しんみりするよ。

しかし謎があんまり解決してない気がしたなあ。羽田空港から車に乗って、同じ車が無事な描写があるけど交通事故に遭ってる、みたいな。地下で死んだやつも、あの場所にいる理由があんまりないままなんだよな。現実ならともかく、小説なんだから。全体的にもっと説明できてたほうがいいんじゃないか。ほんと、現実ならそれでもいいのだが。

化け者心中 (蟬谷めぐ実)

江戸時代の歌舞伎役者たちの中に紛れ込んだ鬼を探す話。このでんせつてきなじけんは「かぶきおに」という童子たちの遊びとして現代にも伝わっている。ウソですが。まあそんな、ウソのようなことばかり言い出す人たちの話。

リズムが良かった。筋はちょっと複雑さがある。人数も多いけど女形と男形の違いくらいしか印象に残らない…まあもっと描写はあるんだけど、詰め込みすぎでは? 一つ一つは割と良さがあった。

途中で鬼がちゃんと出てくるのか不安になった。出てこなくても解決編を書けたんじゃないか。まあ、出てきます。鬼。ご期待ください。

とらすの子 (芦花公園)

芦花公園はロカコウエンなんですね。著者の名前で探すときはアシハナコウエンやアシバナキミゾノではないことに注意しましょう。京王線の駅名でもある。千歳烏山の隣ね。各停しか止まらん。その公園が、今や人気ホラー作家だ。いつ人間に!? なれたのか! 今度降りてみたい駅ナンバーワンの座、争奪戦に名乗りを上げたね、マジで。

殺してくれる謎の美女。描写も丁寧で、そこからの1章のラストが圧巻。一瞬で事件と推理の可能性を否定するのだ。わずかに残っていた可能性が潰え、本格的に怪異が物語を支配する。

ワイルドサイドをほっつき歩け (ブレイディみかこ)

時代の流れにあらがう英国ワーキングクラスの初老男性たちを描いたエッセイ集。解説つき。アマゾン/ウーバー本でも読んだ英国労働者階級の苦境ね。

緊縮財政やNHSの話とか、ブレグジットとか。ある見方だと壊れていく世界だし、逆から見ると正常化しているわけだ。類型はどこにでもある。そんなことを思いつつ、軽妙な文章で楽しく読めた。

英国の状況はなんとなく伝わってきた。NHSというのは、無料化されていた医療体制。で、財政が悪化して無料のままサービスを低下させてコストダウンしたと。予約を入れるために朝病院の前で行列させるとか、無料のままで、あの手この手で使わせないようにするという、バカバカしい話が。