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山椒の実

愛を乞うひと (下田治美)

記憶をもとに、自分のファミリーヒストリーを追う。暗すぎる過去と、明るすぎる現在を対比させながら、時間がつながっていく。

過去の話は、凄惨なシーンも多くてショックを受けた。よく生き延びたよ。サバイバーで、暴力を再生産せずに生きたのは立派なものだ。なんという強さ。真の勝者の物語だ。

台湾編からのクライマックスには疾走感があったな。運命に導かれたかのようでいて、自分で切り開いている、その道。愛がある。

ラストも切なさがある。そうなるか。そうなるよなあ。克服することの難しさがある。

ゴリラ裁判の日 (須藤古都離)

すごい本だった。名作じゃないの。こういう本を読みたかったんだよな、という感じの本だった。文章力もすごいし、構成も良い。読後感も絶妙。度肝を抜かれた。著者は何者…

夫を殺された知性ゴリラが裁判を起こす。いやちょっと待て。と言いたくなる読者を尻目に、一瞬たりとも待たないで突っ走る。とんでもない知性。ゴリラに下品な言葉を教えるなよ。そして使いこなさないでくれ。我々読者は知性ゴリラの抑制的な独白を追いかけることしかできないのだ。ひたすら。もう、ゴリラのことしか考えられない!

片手袋研究入門 (石井公二)

日本の片手袋研究の第一人者で、今もトップランナーとして走りつづけ、片手袋界の巨人とも言える名高い著者が、研究家としての心得を説きながら片手袋に関するアレコレを熱く述べてくれた本。真夏の暑さよりなおアツい。

基本となる分類法の説明から、理論体系を丁寧に説明しており、片手袋学の入門に最適な書と言えるだろう。

中盤の片手袋ファンとの交流や、文学・アート作品の情報も興味深かった。小川未明の作品「赤い手袋」は青空文庫にあるのを読んでみたが、確かに…なんとも言えない読後感。唐突な悲劇がショッキングで、物語として成立してるのかこれ? と疑問が生まれる。大正時代の小学生はこんなの読んでたのか。彼らの将来が心配になる。他にも青空文庫には手袋に関する作品がいくつもあるので、検索して読んでみるといいだろう。

ひとりぶんのビリヤニ (印度カリー子)

スパイスのマスタリー、スパイスカレーの人が、ビリヤニの小規模調理について紹介する本。

実際のところ自分は5人分作りたいんだけどな…買う本を間違ってるww この本は2人分までしか対応していない。まあ普通に5倍量で、水加減だけの問題か。2人分で30mlダウンてことは、5人分だと120ml減らすか。あるいは週末に4-5食分作って平日の昼ごはんにするという計画も企てている。

今度やってみようと思うけど、炊飯器に匂いがつくのは苦情が出そうだから、専用の炊飯器…買ったら怒られるやつはやめて、深型フライパンでやるか。

マン・カインド (藤井太洋)

優秀なSFと聞いて読んでみることに。LLMもちゃんと活躍しているし、それっぽい技術要素がまんべんなく散りばめられている。SFっぽさも強くて、いい感じだ。人類強すぎワロタ…と言っていいものかどうか。平安時代のニンジャはこの技術を使って作られていたんだよ。古代ニンジャ文明史の幕開けだ。

ラスト付近はどうだろうなあ。賛否両論? まあちょっと無理があるかな、とは思ったが、クライマックスの後としては悪いものではないとも。あと公認ジャーナリストが公正戦闘に介入したら普通にダメだろうなあ。救った人数で正当化されるような論理があるんだろうか。

夫に死んで欲しい妻たち (小林美希)

現代は結婚・家族制度と仕事社会が悪魔合体している。その歪みが導いた地獄を描写する。まあこれ妻が一方的に悪いよね絶対、と思わせるような例もあったが、憎悪を持ち続けながら生活している様子が淡々と描かれる。不幸のオンパレードだ。テンポ重視の文体で、著者は学術的な人ではなく、文筆家。それ系か…

これは大体10年前くらいの本ですね。団塊だの氷河期だのと年齢表記があるけど、おおむね10年プラスして考えればいいだろう。答え合わせ的な? まあ10年前にこれで、今の状況はほとんど変わってないわけだから、不作為も甚だしいことが知れる。

子どもは「この場所」で襲われる (小宮信夫)

犯罪機会論の本。犯罪者自身や犯罪者の生育環境に原因を求める犯罪原因論に対して、犯罪機会論は危険な場所を知り、そういった場所を減らしたり近づかないようにすることで犯罪を抑止する理論。判断基準は入りやすさと見えやすさにフォーカスしている。

入りやすく見えにくいのが❌で、入りにくく見えやすいのが⭕️。たとえば樹木よりも網のフェンスが勝つ。シンプルだ。ただ群集心理とかもあって、多くの人が行き交う場所であれば「見えやすい」の条件に合うので良いかというとそういうわけでもなかったり、そういった応用編はある。なるほど。

凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体 (川合伸幸)

キレッキレの老人が戦う話ではなく、瞬間湯沸かし器と化した老人の脳どうなってんのよ、という話。アンガーマネージメントやろうぜ。この本はちゃんとした学者の本なので安心して読める。

冒頭で、それほど凶暴なわけではないですよ、という数字が示される。そこから、怒涛の実験から導き出される怒りの衝動の科学。なるほどヤバい。誰しも自制心を失った人間にはなりたくないだろうが、私はとりわけそうなんだ。だってオレがひとたび激怒すれば天は落ち、地は割れ、海は干上がり、世界は闇に包まれる可能性があるからだ。わかったか? わからせてほしいのか??

ラストパス (中村憲剛)

Last Passなのか、Pathなのか。ダブルミーニングか。

川崎の歴史書を書くとしたら、3段ぶち抜きで書かれるであろう、伝説の名選手による引退までの5年間の手記。さすがに憲剛ともなると、文章力もあるなあ。よくあるスポーツ選手の本に見られるゴーストライターっぽい文章ではないけど、自分で書いたんだろうか。スポーツ選手の本にしては分厚い(380ページ)。それでも書き足りないくらいの熱量がある。

自分で引いた線。40歳までの5年間を過ごしたアスリート。真似できかねる偉業をやってのけた。理想の引退の形と言えるだろう。大怪我から復帰してなおJ最強チームで活躍していたし、まだ何年か一線でやれたのは確実だが、その状態で辞めたかったのだ。

オーパーツ 死を招く至宝 (蒼井碧)

「ぺき」っていう名前も私の世代だとかなり珍しいけど、最近は多いんだろうな。それはどうでもいいとして。この本は、冒頭からぶっ込んでくるドッペルゲンガー設定をどのくらい生かせるか、という話になる。密室特化の推理小説。いわゆる本格ってやつ? 暇つぶしには悪くないか。実は生き別れた双子だった、なんてことがあればと思ったんだけどね。そこは謎ではないのね。

結論としては、まあまあ楽しめた。1本1本がそれほど長くないし、記述も素直で気楽に読める。